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 翌朝。

 早朝訓練を終えると同時にメールを綴り、鷹司令官に送信した。シャワーを浴びている内に返信があり、件名は「感謝する」だった。来年3月末までに戦闘順位10万台の残り244校を教導する計画も、メールに添えていたんだね。鷹司令官によると、計画を可及的速やかに精査するとのこと。計画の初日まで1カ月近くあるのに、誠実にも程があるのだ。良き上司に恵まれたことを、俺は改めて感謝した。


 昨日の朝食時の昇と同じ昇が今日も朝食の席にいたことに、想定どおりだろうと心配なものは心配という、これまた当然の宇宙法則を俺は学んだ。俺は幾らでも心配しますから、どうか昇が目標を達成しますように。


 約四時間後、三校目の輝力工芸訓練の開始時。

 蜃気楼壁の向こうにいる藍に、女子達が工芸品に何を選んだかをテレパシーで尋ねた。藍によると、200人全員がアクセサリーを創っているという。マッハ60矢など気にせず最も熱中するものを選んだことに安堵した俺へ、「翔兄さんは甘い」と藍は嘆息した。


「輝力工芸訓練で弓を創ってしまうと、『弓を創っていない彼女に彼氏が弓創りを教える』という状況になりません。昨日の一校目のカップルが体験したその状況を、昨日の二校目のカップルは体験しませんでした。両校の女子の意見を訊いた三校目のこの子たちは、一校目の状況を望んだ。ということなのです」「それって二校目の校長の予想どおり、情報漏れは阻止できなかったってことかな?」「はい、そうです」「むむう・・・」


 昨日の相方の晴は二校目の輝力工芸訓練時、生徒にバレぬよう輝力分身を創り、情報漏洩について校長と話し合っていた。それによると校長は、「もう遅いと思いますが出来るだけのことはします」と晴に約束したという。二校目の校長は女性だったため、女子の情報ネットワークの凄まじさを身に染みて知っていたのだろうな。

 その見立てに晴と藍は同意し、実際そのとおりになったということ。だが同時に、二校目の情報が漏れたお陰で三校目の女子はアクセサリーを選んだ、とも言えるんだよね。ふと頭をよぎった疑問を、今日の相方の藍にテレパシーで尋ねた。


「二校目の校長はそこまで見越して、晴に約束したと藍は思う?」「校長は見越していたとして間違いないでしょう。私もそれに、今ようやく思い至りました。生徒を教え導く職務に教導官と教官の違いはありませんが、大きく異なる面もあることを学ばせてもらいました」「うん同意。組織の朝倉新之助さんや、竜族の幼稚園の園長にいつも驚かされているけど、本職の教育者は偉大だなって身に染みたよ」「はい、私もです」


 カレンに乗りこの学校に向かっている最中、244校を訪れる計画が承認されたことを鷹司令官がメールで知らせてくれた。その計画に、244人の偉大な教育者から薫陶を賜る私的な計画を、俺は密かに加えたのだった。


 その二日後。

 日付は12月25日、幼年学校の冬期休暇初日。

 そう今日は、舞ちゃんと奏および鷲一家と橙一家の計8人が、基地にやって来る日だね。幼年学校から帰省したばかりの鸞と藤を実家で一日もすごさせないのは忍びなく、俺としては明日以降を推していたのだけど、今日の来訪となった。晴と藍が言うには、


「師匠と舞先生に早く会いたいって」「藤も鸞も言ってきかないのです」


 とのことらしい。俺は心の中で「初恋の舞先生に会いたい気持ちを100としたら俺はせいぜい1だろう」と苦笑したが、鸞と藤の気持ちが手に取るように解るのも事実。男の子にとって3歳で出会った初恋の保育士さんは、そういう存在だからさ。

 よってそれは置き、やって来る8人の住居の話題に移ろう。

 人類軍は8人の住居に、便宜をたいそう図ってくれた。3人用の住居型飛行車を四台、基地に寄越したのである。住居型飛行車は地球のキャンピングカーとは異なり、「家がそのまま飛んで来た」という印象だったな。人類軍はこの厚遇の理由を、息吹の聖母とテレパシー送受信機にあると説明していた。要約すると、


『戦争勝利に多大な貢献をしている息吹の聖母と、戦争勝利に多大な貢献をすると予想されるテレパシー送受信機の開発者への、正当な報酬である』


 みたいな感じかな。いずれにせよ、正当に評価されるのは嬉しいこと。人類軍勝利のために一層尽力することを誓ったメールを、司令長官と鷹司令官に俺は送ったものだった。

 そうこうするうち、舞ちゃんと奏の到着予想時刻の午前9時まで残り4分となった。幼年学校の幼児達は長期休暇初日の朝食後、午前8時に各家庭の飛行車に乗って帰省する。保育士が帰省するのはそのおおよそ30分後なので、舞ちゃんと奏は午前9時あたりに到着するだろうと予想されたのだ。二人は幼年学校出発時、美雪にメールを送ったらしく到着時刻は予想どおりとのこと。勇と昇もメールを受け取ったはずだけど、基地の駐車場に勇と昇の気配がしたのは、午前8時50分ほどだったな。

 半年ぶりの妻との再会の場に、お邪魔虫の俺がいるのは申し訳ない。のだけど、いないという訳にもいかないのが人付き合いなのである。駐車場にいる勇と昇に合流するのをギリギリの8時57分にせめてして、空の彼方に飛行車が現れるのを3人で見守った。

 幼年学校は、巨大な人工島の東端に固まっている。人工島は人類大陸の北端にあり、この基地は人類大陸北西の高緯度にある。したがって舞ちゃんと奏の乗った飛行車は東の空に現れ、そして同じく東の空には太陽が輝いている。つまり飛行車の視認は、通常より難しいってことだ。それでも、


「見えたぞ」「どこだ?」「ちょっと待って、二人の後ろに移動して視線を合わせる。ほら、輝力で丸く囲った中心に二台並んでる」「見えた!」「ホントだ、翔兄ありがとう!」


 俺達は目の良さもあり遥か遠方の灰色の点を二つ、見つけることが出来た。たったそれだけで勇と昇は無意識に一歩前へ進み出たのだから、夫婦って凄いよなあ。

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