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 司令官に提案するのだから、これくらいは準備して当たり前。また機密保持というのは、俺は教導隊ではないから。教導隊だったら階級により三人の教導を調べられたけど、隊が異なると軍規違反になる。俺は司令官会議直属の、戦技研究隊だからさ。

 鷹司令官の秘書AⅠに美雪が試算結果を提出したところ、秘書AⅠは鷹司令官に「正しい試算です」と伝えた。鷹司令官は頷き、鷹の眼光を俺に向けた。


「翔を教導隊の副司令官にしようとする動きが、司令官会議内で以前あった。現在の教導隊が最も注力しているのは、翔が考案した新有用スキルの普及だからだ。今回の件により、教導隊副司令官並の情報開示が不可欠と判断した。情報開示の通達があったら、代役する教導内容を精査するように」「了解です!」


 頼むぞと言い残し、鷹司令官は通信を切る。俺にいらぬ荷を背負わせぬよう、鷹司令官が尽力してくれているのは知っている。正式な副司令官にしようとする動きを阻止したのも、その一環だろう。それだけでもありがたいのに、副司令官並の情報開示だけはしてくれるなんて、感謝してもしきれない。責任を負うことなく情報だけを得られるように、してくれたんだからね。最後の「頼むぞ」という言葉が心に反響して止まなかった俺は、通信終了後も鷹司令官への敬礼をしばし続けたのだった。


 というのが三週間前の、12月1日の話。

 そして今日、12月22日の早朝。

 昇と鷲と橙が疲労のピークを迎え教導官の任務を遂行できなくなったと美雪から聞いた俺は、用意していたメールを昇と鷲と橙に送った。間を置かず3D電話が掛かって来て、腰を直角に折った各々の3D映像が眼前に三枚並ぶ。「俺を笑わせようとしているのかコイツら?」との疑念を飲み込み、軍の上官として対応した。


「代役は安堵せよ。また目標達成まで、過剰訓練禁止を命じる」


 俺が代役することを、三週間前の昇と鷲と橙は反対した。冬期休暇とピークが同時に始まるよう勉強量を調整すると、訴えたのである。けど俺は「それこそ考え足らずだ」と諭した。

 物事には、勢いがある。訓練を例に挙げよう。訓練は、準備運動から始まる。準備運動を終えたら負荷を少しずつ高めていき、そして体が最も動くタイミングで最高負荷の最重要運動を全力で行い、整理体操をして訓練を終える。これが訓練の、基本の流れだ。

 それに対し昇達の「冬期休暇と疲労のピークが同時に始まるよう勉強量を調整する」との主張は、流れすなわち勢いを削ぐ行為に他ならない。鈴桃の偉業に触発され勉強の意気込みが爆発した三人は既に、体が最も動く最良のタイミングに入っているのである。

 その証拠として「今は全力で勉強するのが楽しいんじゃないか?」と問うたところ、三人は不承不承ながら頷いた。すかさず「乗りに乗っているのに、勢いを削いだらもったいない。三人の足並みも揃っているし、今は前だけ見て突き進もう」と畳みかけたら、三人は降参し体を直角に折ったのである。

 それと瓜二つの3D映像を俺の眼前に並ばせたので「コイツら俺を笑わせようと云々」を疑い、軍の上官としてあえて対応したって訳だね。上官に命令されたら、三人は従うしかない。軍人として上体を起こし直立不動になった昇と鷲と橙は「「「了解です!!」」」と、俺に敬礼したのだった。


 その、約3時間後。

 生身の俺はカレンに乗り、とある戦士養成学校へ向かっていた。

 ちなみに輝力分身の2体は、それぞれ別の基地で教導することになっている。数年前初めて試みた輝力分身による複数個所同時指導では、幼児相手が一番疲れた。幼児は行動が読めず一瞬たりとも気を抜けないため、疲労が一番多かったのだ。これは裏を返すと、大人の指導は楽だったということ。よって大人しかいない基地の教導は、輝力分身に任せたのである。

 との理論によると、戦士養成学校生は幼児ではないから幼児ほどは疲れない、ということになる。俺が向かっている戦士養成学校の生徒は、13歳だしね。名家巡りでも13歳以上は戦士未満と一括りにして指導し、一瞬たりとも気を抜けない系の疲労を覚えたことは無かった。この星の子供は戦士養成学校に入学すると、急に大人びるからさ。

 だが、急に大人びるからこそ生じる心労もある。戦士養成学校には、女子生徒もいるのだ。しかし救いもあり、それは教導官といえど男性は女子校舎および訓練場に立ち入り禁止ということ。よって女子には女性教導官が付き、そして今日は気心の知れた晴が女子を担当することになっている。晴、キャピキャピ年頃娘たちは任せたからね!

 などと考えているうち、目的地の戦士養成学校が見えてきた。男子校舎と女子校舎を分かつ広場の上空に、飛行車が一機ホバリングしている。俺を待たせぬよう、晴が先に到着していたようだ。晴と敬礼を交わし、二機並んで広場へ降りて行った。


 広場南端に、二機並んで着陸する。俺は男子校舎のある東側、晴は女子校舎のある西側だ。階級の低い者が露払いをする人類軍の規則を遵守し、まずは晴の飛行車のドアが開く。そして晴の足が地面に触れると同時に、張り詰めた空気が広場を覆った。防音性に優れるカレンのお陰で406人による敬礼の音を俺は聞かずに済んだけど、晴には悪いことしたな。胸の中で晴に詫びつつ、俺はカレンのドアを開けた。

 今日は俺と晴が教導官を務める日。よって全生徒400人と教官の6人が俺達を出迎えるのは普通のことだし、また資料によると男女の筆頭と準筆頭の計4人は名家巡りで教えている教え子なのに、なぜ皆さん緊張しているのでしょうか? いや待てよ、名家巡りの時はカレンを降りるや幼児達が飛びついてきて場が和み、その空気のまま当主達と挨拶し、続く教え子たちともノリよく「ウエーイ」とかやってたけど、幼児以外は緊張していたのがホントだったのかもしれない。う~んでも緊張で心身が硬くなっていたら良質の訓練は望めないし、ここは柔和な表情と仕草で対応することにしますか。そう結論した俺は伸びやかに歩いて晴の隣に並び、晴とタイミングを合わせて406人に敬礼した。406人は一糸乱れず踵を鳴らし姿勢を更に一段良くしたけど、筆頭と準筆頭の計4人の教え子たちは俺の柔和な気配を察知したのか、心身の緊張をあらかた脱ぎ捨てたようだった。

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