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 話が再び逸れるが、戦士の健康を管理する衛生隊のトップの綾乃司令官によると、戦士の訓練時間は今後増加していくことが予想されているという。理由は、健康スキルの有用性が周知され所持者が増えたから。実は俺もそれを名家巡りで実感しており、名家の子供達は健康スキル所持者が明らかに多いんだよね。名家巡り中にそれをふと口ずさんだところ、「子供達にとって師匠の翔さんは憧れの的なのです」と某当主に返された。顔を引きつらせる俺にクスクス笑い、当主はこんな話をした。


「訓練後の食事会で、翔さんは小さい子供達の食事の世話をとても上手にしますよね」「はい、可愛くてつい世話をしてしまいます」「ありがとうございます。その子たちは食事中、翔さんに必ず訊きます。『師匠はなぜ強いんですか?』 すると翔さんは、決まってこう答える。『俺は健康だから、訓練を沢山できるんだよ』 師匠に強い憧れを抱いているその子たちは、自分も健康スキルを習得しようとします。お陰で我が一族の子供達は、以前より健康になりました。愛する我が子が健康になることを、喜ばない親はいません。一族の親を代表し、翔さんにお礼申し上げます」


 思い出しただけでお尻が痒くなるけど、子供達が健康になるのは手放しで嬉しいこと。戦争の生還率を上げられるなら、尚更なのだ。どうか子供達が、健康でありますように。

 との祈りを胸に、改めて昇を観察する。前日の疲れを引きずったまま昇は食堂に現れるも、美味しい朝飯を食べたら疲れが吹き飛んだらしい。疲労を全回復できなかった初日ということもあり、その程度で済んだようだ。しかしその程度から、昇は日ごと離れていく。俺は2D画面とキーボードを出し、美雪としばし話し合った。美雪によると、鷲と橙も今朝は昇と同様だったという。間もなく始まる冬期休暇をこの基地で過ごす者達から昇と鷲と橙を除いた大人達へ、三人の疲労が顔を出したことを俺はメールで伝えた。


 その日の夕ご飯から、三人は特例で野戦食を摂取するようになった。栄養価と疲労回復効果と値段が極めて高い野戦食を、毎夕摂るようになったのだ。それはテレパシー送受信機に関する司令官会議で決まり、鷹司令官が「内緒だぞ」と教えてくれたところによると、提案者は綾乃司令官らしい。内緒と念押しされようと、感謝を伝えなかったら人でなしになる。よって夕食後、3D電話でお礼を述べたら「職務を遂行しただけです」とそっけなく返された。平伏した俺にププッと吹き出し、だが続いて顔を引き締め、三人の健康維持の助力を綾野司令官は請うた。承知しましたと、俺は綾乃司令官に敬礼した。

 野戦食のお陰なのだろう、昇と鷲と橙の疲労のピークは予想を二日ずれ、冬期休暇三日前から始まった。早朝訓練終了時、美雪にそれを伝えられた俺は鷹司令官にすぐメールした。返信メールではなく3D電話が掛かって来て、計画の可不可を問われた。「可能です」 語気鋭く俺は答える。若干申し訳なさげに首肯する鷹司令官へ、「12月上旬に5日間の冬期休暇を取らせて頂いたお礼ができて光栄です」と返したところ、頼れる兄貴の笑顔になって鷹司令官は3D電話を切った。俺は美雪と美咲に体を向ける。


「美雪、美咲ごめん。今日から3日間、訪問した先で美雪と美咲は、姿を現すことができない。近いうちに埋め合わせするよ」


 埋め合わせなんていらないけど楽しみにしているね、などと矛盾する返答をお茶目に笑ってした美雪と美咲を、俺は抱きしめる。そして今日からの3日間のスケジュールを美雪と確認しながら、体育館のシャワー室へ俺は向かった。


 話は12月1日に遡る。

 その日は、昇と鷲と橙が閃き降ろしのための勉強を本格的に始めた日。

 本格的に始めた日付は計画どおりでも、勉強に臨む意気込みは想定を遥かに超えていた三人にピンと来て、俺はアカシックレコードを見に行った。ピンと来たのは当たっていて、三人は冬期休暇5日前に疲労がピークに達し、教導官の仕事をこなせなくなっていた。それは社会人として、褒められることではない。だがそれは俺にとって、とても嬉しいことだった。なぜならそれは三人が、子竜達を愛している証だからさ。

 またピークが5日早まるというのも意味深だった。冬期休暇中に新訓練場で強化3闇王と戦うのも、計5日だったからね。その案を出したのは翼さんだったので「アカシックレコードを見てあらかじめ知ってたとか?」と訊いたところ、とんでもないと翼さんは首を横に振った。どうも俺ほど気軽には、アカシックレコードを利用できないそうなのである。怪訝に思うも「じゃあ練習してみる?」と提案したら非常に喜んだのでまあそれは置き話を進めると、鷹司令官の機転により5日間のバカンスを冬期休暇として心置きなく楽しめた俺は、良い部下でいる覚悟のもと重要な提案を続けてしたのだ。「昇と鷲と橙が疲労により教導官の任務を遂行できなくなったら、自分が代役をしましょうか?」と。

 鷹司令官は、当初それに難色を示した。


「翔のことだから、輝力分身を2体出し三カ所を同時に引き受けるつもりなんだろ。数年前の名家巡りの件もある、認められんな」


 地球の軍は、100%死ぬ命令を兵士に出すことを決して躊躇わない。戦時下のみならず原発事故等にも、それは適用される。チェルノブイリ原発が、その例だろう。

 それに引き換え鷹司令官は、疲労する可能性があるから却下、と断じた。いやはや、あり得ぬほど人道的な軍である。そんな軍のためなら、一肌脱いで当然ではありませんか。


「輝力分身2体を加えた3体による遠隔独立教導では疲労しない、という実例に自分はなります」「根拠は?」「昇と鷲と橙の教導を自分の秘書AⅠが調べ、試算しました。試算結果を直ちに提出します。なお機密保持により、三人の教導を自分は一切知りません」

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