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鈴桃が竜族の悲願を叶え、飛行能力を再獲得した日の翌日。
昇と鷲と橙は、閃き降ろしのための勉強を本格的に始めた。
日程としては、それは計画どおりでしかなかった。しかし勉強に臨む意気込みは、想定を遥かに超えていた。鈴桃が竜族の悲願を叶える場面に立ち会ったのだから、まあ当然だね。昇と鷲と橙は、昨日までとは一線を画す眼差しで未知の学問領域に挑んでいた。
それを受け、俺はとある申請書を鷹司令官に提出した。それは冬期休暇中の5日間を、12月上旬へ移動する申請書だった。多忙な司令官に突如こんなものを提出したら迷惑なので、可能性の一つとして事前に説明し了承を得ていたから、即座に許可されたけどさ。
少々込み入っているけど、バカンスを心置きなく楽しむ準備として、申請の件を整理してみよう。
鈴桃が飛行能力を再獲得するためには、俺もそれを意識しないが吉。そう解っていても、これでも俺は軍人。鈴桃が飛べたら冬期休暇に変化が生じると事前に判っていればその対策をし、上司の許可をもらわねばならぬ身なのである。「風が吹けば桶屋が儲かる」を軽くしたようなことが起きると、あらかじめ判っていたんだね。
[1] 鈴桃が飛べたら、昇と鷲と橙の勉強への意気込みが激増する。
[2] すると疲労のピークが、想定より早くやって来る。冬期休暇開始日と疲労のピークの始まりが一致するはずだったが、前倒しになるのだ。
[3] その前倒しの日は、俺と美雪と美咲が予定していた今年のバカンス日と重なる。
[4] ならば同じ基地で暮らす昇にまだ余裕がある内に、バカンスを済ませてしまおう。
とまあこんな感じだ。当初は、冬期休暇冒頭の3日間を12月上旬にずらすつもりだった。のだけど、鷹司令官は「巧く調整できるぞ」と悪戯小僧の笑みを浮かべたのである。
「翔と翼は、総司令部の新訓練場を冬期休暇中、5日間利用するんだよな」「はい、そのつもりです」「その5日間で翔と翼は、強化3闇王の勝率増加を試みる。それは戦争勝利への貢献として十分認められるし、新訓練場のデータ収集としても非常に有用だ」「なるほど確かに」「にも拘わらず、待ちに待った冬期休暇中にそれをさせたら、司令官会議の能力を疑われてしまうだろう。俺の権限でその5日間を、就労日にしておく。5日間のバカンスを、冬期休暇として楽しんでこい」「鷹司令官殿、まことにありがとうございます!」
いやはやホント、鷹さんを直属の上司に持てて幸運だった。翼さんの5日間も考えてくれているというし、俺も良い部下でいることに全力を注がねばな。
その覚悟の下、重要な提案を続けてしたのだけど、それはその時が来たらってことで。
という訳で12月上旬の好天の日、俺と美雪と美咲は冬のバカンスに出かけた。そうそこには名実ともに美雪も含まれていて、理由は鷹司令官が、基地に家事ロボットを1体よこしてくれたのである。美雪の能力ならバカンス中に基地の家事ロボットを操作するなどお茶の子さいさいでも、鷹司令官は美雪がそれをしなくて良いようにしてくれたという事。鷹司令官の恩に報いるためにも、バカンスを全身全霊で楽しんできます!!
との意気込みも加わったバカンスを、俺と美雪と美咲はとことん楽しんだのだった。
バカンスを終え数日経った朝食前。
昇が疲労を残したまま食堂に現れた。勇者級の健康スキルと組織の疲労回復技術をもってしても、就寝中に心身を全回復できなくなったのである。幸い、この状態になったら日々の訓練を減らすことを昇達は軍に許可されていた。とはいえ減らすといっても勇者級の健康スキル所持者ゆえ、45%削っても戦士の一般平均を上回る訓練量なんだけどさ。
またおそらく数日後から始まる「長期休暇の訓練に支障をきたすほどの疲れ」も、前提がまるで異なる。そもそも一般の戦士は、この基地にいる俺と勇と昇より短い長期休暇しかもらっていない。俺は休む必要がないから普段は休まず、そのぶん長期休暇を延長させてもらっている。勇と昇も強力な健康スキルにより休まなくていいのは変わらないが、それよりも舞ちゃんと奏の長期休暇に合わせる理由の方が強い。保育士の舞ちゃんと奏の長期休暇は三週間あるから、三週間を丸々一緒に過ごせるよう通常時の休みを調整しているんだね。実を言うと、舞ちゃんと三週間丸々一緒に過ごすことを最優先した勇は今、戦士養成学校の教官をしていない。意識分割法を始めとする新有用スキルの教導官として、基地や学校を飛び回る仕事をしているのだ。それを見た昇も同じ仕事を始め、さほど間を置かず鷲、橙、晴、藍も昇に続いた。最も厳格な組織なこと間違いない軍隊でこうも容易く職種を変えられたのは、教える者としての適性を皆が持っているからなのだろうな。
話が逸れた、元に戻そう。
一般の戦士は2日間で8時間の訓練義務を、1日は7時間、もう1日は1時間に分けるのが普通。それが普通の状態で10日間の長期休暇を与えられると、休暇中の訓練義務はなくとも体を鈍らせないため、訓練無し日と訓練1時間日を交互に設けることを選ぶという。それが一般戦士における、長期休暇の訓練。そしてそれが不可能になることを、「長期休暇の訓練に支障をきたす」と言うのだ。
さあでは本命の、昇と鷲と橙に移ろう。当然この三人も、長期休暇中の訓練義務はない。しかし一般より二倍以上長い休暇なため、まったく訓練しなかったら取り返しのつかない鈍りを体にもたらす虞がある。よって三人も長期休暇中の訓練を己に課していて、ではどれくらい訓練するかと言うと、毎日1時間半とのこと。早朝の1時間半を、訓練に毎日充てているのだ。そう昇と鷲と橙はそれが不可能になるほど疲れたら、「長期休暇の訓練に支障をきたすほどの疲れに陥った」になるんだね。強力な健康スキル保持者ゆえ、一般戦士とは基準が異なるのである。




