289
成長したインド人とゴビ人が地球を卒業し、インドとゴビの超文明は滅んだ。第四時代は終わり第五時代が始まり、未開部族がアトランティス人やムー人の先祖になっていった。その種族の王族は相変わらず王冠を用いていたが、母さんがそうであったように、アカシックレコードを読める王族が現れた。その人が自分たち権力者への戒めとして、特殊金属の性能と王冠の歴史を、王族専用の教育に組み入れた。母さんが「恥ずかしいけど」と言ったのは、筆頭大聖者としての見解もあるが、王女様だったころ最初にそう習ったのだと俺には思えてならなかった。
成長したアトランティス人とムー人が地球を卒業し第六時代が始まり、成長したギリシャ人とローマ人も地球を卒業し第七時代が始まっても、王族は未だ王冠を被っている。それはまさしく、「知識を公表せず独占していたせいで起きた無用な混乱」として俺の目に映る。特殊金属が採掘できなくなり、被るだけで寿命を延ばすことは不可能になったと皆が知っていれば、王冠は無知蒙昧の象徴になるからである。
さて準備が整った。竜族の話に移ろう。
鈴桃を始めとする20頭の子竜達に、俺は口を酸っぱくして言っている。「たまたま知識を得たからといって偉くはなく、たまたま技術を習得したからといって偉くはない。他者の知らない知識を得て、他者にはできない技術を習得しようと、自分は偉いだなんて絶対思わないでね」 あの子たちはとても素晴らしい子たちだから、俺の言葉を生涯守ってくれるだろう。しかしあの子たちが亡くなった数世代後も、それは守られているだろうか? 不運にも輝力楽器を仕舞っておく指輪と、輝力ピアノに重さを発生させるペンダントが失われたとしたらどうなるか? 指輪とペンダントの性能に関する知識も失われ、指輪とペンダントへの憧れだけが残っているとしたら、どうだろうか? 貴金属製の指輪やペンダントという装飾品を身に着ける服飾文化が出現していると、俺は感じたのである。
という説明をしたところ、
「ほらね、過大評価じゃないでしょ。こうしてくれる~~」
などと宣い、母さんは俺の頭の両手ワシワシを再び始めた。一瞬でも気を抜くと、フニャフニャ顔になってしまいそうだ。俺は顔を引き攣らせつつ、対策案を出していった。その中の一つが母さんのお眼鏡に叶ったらしい。コレが、それだね。
「輝力製楽器を仕舞っておく指輪と、重力を発生させるペンダントを、輝力工芸スキルで創造する技術、もしくは模倣する技術を竜族に習得させます。かなりの難度ですが、竜族は300歳の長寿に恵まれています。才能豊かな子が100年単位で学べる環境を整えれば、決して不可能ではないでしょう。そうすれば、本来の能力を持たない指輪やペンダントを身に着けることを、竜族は恥じて避けるようになる。服飾文化出現の抑止力になると、俺は思います」
幸い俺は、二つとも創れる。俺が創れないのは母さんお手製の楽器保管庫だけど、実を言うとあの保管庫は、必須ではないんだよね。
輝力には、生命力の側面もある。生命力の側面もあるから輝力製楽器に流し入れると、輝力製楽器の存在時間を延ばせるのだ。そしてその「生命力を輝力製楽器に流し入れる」ということを、母さんと俺は子竜達にさせたくなかった。理由はあの子たちが、過剰訓練スレスレの状態にいるから。過剰訓練スレスレなのに、貴重な生命力を輝力製楽器に流し入れさせるなんてこと絶対してはならない。その子たちが5歳や6歳なら尚更だろう。かくなる理由により、母さんは輝力製楽器の保管庫を創ったのである。
では、鈴桃達が成竜になったらどうだろうか? 輝力工芸スキルに長け、成長期を終えた成竜になっても、輝力の流し入れをしなくていい環境を整えてあげねばならぬだろうか? そう、その必要はもう無い。そのころは鈴桃達も、楽器や指輪に必要な輝力を、自分で無理なく流し入れられるようになっているのだ。また同じことを、子竜達の楽器や指輪にしてあげられるようになっているんだね。
という訳で対策も決定した。今日の母さんは望外に優しく「ほら早く次を言いなさいよ」と顔に書いてくれているけど、甘えていいのかな? との疑問が頭をよぎると同時に、泣く真似をされてしまった。焦った俺は、墓穴不可避のことを口走ってしまった。
「先日翼さんをスペースコロニーに招いたさい、翼さんは泣くだろうと確信した場面がありました。でもそれは外れて、翼さんは泣きませんでした。あれは母さんが翼さんに『想いを手放したら報いる』ということを、長年してきたからなのではないかと俺は推測しました。ど、どうでしょうか?」「翔」「はい」「もっと素直に表現しなさい」「無理ですよ! だって母さん今」「私が今?」「恋バナ中の女子の顔になってるし」「翔!」「は、はい!」「分かっているなら四の五の言わず全て白状しなさい!」「ヒエエ―――ッッ!!」
抵抗むなしく、俺は洗いざらい白状させられてしまったのでした。トホホ・・・
でも母さんはキャッキャする女子にホントなっていたから、親孝行の一つに数えて良いのかもしれない。翼さんについても、いろいろ教えてもらえたしね。
翼さんは俺の見立てどおり、想いを手放すことで報いを受けたらしい。ただしあのとき報いを授けたのは、この宇宙の創造主。そして授けられた報いは、成長の助力。そう翼さんは、創造主に手ずから成長を助けてもらえたのである。ならば、俺如きの予想を楽々超えて当然と言えよう。何はともあれ、翼さんおめでとう!
また母さん自身が語ったところによると、母さんは翼さんに報いてきたつもりは無いという。翼さんの行いに胸を打たれ、何かをしてあげたくて堪らなかっただけなのだそうだ。それを聞いてようやく、音楽宮の件が腑に落ちた。報いと考えると音楽宮は過剰だが、何かをしてあげたくて堪らなかったのなら納得できる。かくいう俺も、出会った子供達や子竜達にしばしばそうなるからね。湧きいずるあれは、理屈ではないのである。
と胸を張って言ったところ、本日最長の頭ワシワシに見舞われてしまった。でもなぜだろう、ついさっき洗いざらい白状したからか、素直になることに抵抗を少しも覚えなかった。俺は素で喜び、それに釣られて母さんも素の笑顔になる。そんな仲の良い親子の時間を最後に過ごし、俺達は会合を終えたのだった。




