288
あの映像作品の制作中「これは鈴桃の足枷を破壊する最良のきっかけになる」と俺が意識したら、足枷の存在を強化してしまう。足枷が存在するからこそ、それを破壊する映像作品を俺は一生懸命造っているってことになるのだ。
ということは意識しなければ、存在は強化されないということ。幸い制作は面白く、また美雪は微調整がホント上手で楽しい時間になったため、意識せぬよう努めていることも意識しなくなれた。然るにそのまま、俺は制作に没頭したのである。
という制作環境は、映像作品の視聴者の感想にも現れた。仮に俺が「これは鈴桃の足枷を破壊する最良のきっかけだよ」という気持ちを込めて制作したら、俺を信頼してくれている鈴桃は、俺の気持ちを感想として知覚する。すると、足枷の存在も強化されてしまうのだ。しかし幸運に恵まれ俺はそれをまるっきり意識しなかったため、竜達はただただ夢中に映像作品を見た。夢中になるあまり「飛ぶなんてできっこない」という気持ちを、あの場にいた竜達は一時的に忘れた。一時的にせよ創造されたその状態が、最良のきっかけになったという訳。う~むすべて丸く収まってくれて、マジ幸運だったな!
みたいな感じの説明を、饒舌にならぬよう注意してしたところ、母さんは腕を組み眉間に皺を寄せウンウン唸り始めた。これでも付き合いが長いので、にこやかに語り掛けた。
「俺が組織の講師をしないことを、残念に思ってくれているのですか?」「そりゃそうよ。翔ほど上手に他者を導く直弟子が、私にはいないのだから」「過分な評価を、感謝します」
過分じゃないわこうしてくれる、と母さんは俺の頭を両手でワシワシした。こんな母親を持てて幸せだなあと、俺はポカポカの胸でつくづく思ったものだった。
次の話題は、母さんに教えを請う形になった。母さんが「今夜はどんなことでも訊きなさい」と力強く胸を叩いたことに、初めて応えたのである。
「母さん」「うんうん、何でも言ってごらん」「今夜見てもらった映像作品は2分45秒しかなく、ストーリーを映像で表現するのが難しかったんです」「メチャクチャ良く出来てたけど、それで?」「特に難しかったのが残り10秒を切ってからの場面で」「ちょっと待って・・・冒頭で消えた鐘が復活し、連打される場面かしら?」「はいそうです。読書していた主人公が顔を上げたら、時間差でスクリーンが三つに増えましたよね」「最初が未来の竜族の街、その右隣に二枚目のスクリーンが現れて立派な果樹園を映し、その左右二枚の上に三枚目が現れて大空を飛ぶ竜達を映したのよね。あれ、感動したわ! でもそれが特に難しかったのは、なぜかしら?」「三枚目の冒頭に、最後の教え子が登場します。教え子は一瞬だけアップになったあと、空へ飛び立っていきます。あの教え子は一見、指輪もペンダントも身に着けていません。『指輪とペンダントは透明』という設定にして、視聴者の目から隠したのです」「あ~、なるほど。竜族に服飾文化が出現することを、翔は危惧していたものね。私も翔同様、透明にしたと思うわ」「ありがとうございます」
指輪は、輝力楽器を仕舞っておく道具。ペンダントは、輝力ピアノに重さを発生させる装置。そうそれらは、装飾品ではない。だが服飾文化出現を助長しかねないそれらを、俺は未来の竜族にあえて描かなかった。その決定に、母さんも同意したのである。
続いて母さんは「そうねえ」と暫し思案したのち、歴史書に記されていない古代の地球の話をしてくれた。地球のアカシックレコードを見ることを未だ禁じられている身としては、嬉しくて楽しくてたまらない講義だったな。
母さんによると、今は消滅してしまったが超古代の地球には、人の寿命を延ばす金属があったという。その金属製の帽子を被っていれば、寿命を数倍伸ばせたそうなのである。
「前世の俺も、太陽光に当たらなければ老化を遅くできると知っていました。ビタミンDをサプリ等でしっかり摂取し、歩く類の運動を十分していれば、通常より若さを保てることを地球人も知っていました。しかしそれだけでは、寿命を何倍も伸ばすのは不可能です。その金属で作った帽子を被っていれば、人は何倍も長生きできたということなのでしょうか?」「ええそうよ。地上で普通に暮らしながら、何倍も長生きできたのね」
その金属は、プラチナを遥かに凌ぐ希少金属だったという。それもあり地球の第四時代に、つまりインドとゴビの時代に掘り尽くされてしまった。第五時代のアトランティスやムーの超科学力をもってしても、採掘は絶望的だったらしい。母さんも王族専用の教育で習ったにすぎず、現物はアカシックレコードでのみ見たそうだ。
「王族専用の教育で習ったということは、一般には知られていなかったという事ですか?」「恥ずかしいけど、権力者とはそういうものなのよ」「えっとでも、アトランティスやムーの超採掘技術をもってしても確保不可能だったのですから、無用な混乱を避けようとしたのではないでしょうか?」「知識を公表せず独占していたから、無用な混乱が起きた。それを前提に、考察してみなさい」「・・・ドワッ、母さんの意図に気づくのが遅すぎました。反省します」「ふふふ、いいのよ。それより、気づいたことを話してみて」
やはり今日の母さんは、いつもより優しいみたいだ。しかしそれに甘えぬよう俺は頬を叩いて気合を入れ、気づいたことを説明した。
母さんは超古代の特殊金属を、竜族の服飾文化の話題として取り上げた。よって当たり前だが、それは竜族の未来に関わる話だったのである。母さんの提示した「知識を公表せず独占していたから無用な混乱が起きた」を基に、考察しよう。
まずは、超古代の人々から。
母さんの「恥ずかしいけど権力者とはそういうもの」との言葉から、第四時代の権力者も、件の特殊金属の知識を公表していなかったと思われる。特殊金属製の帽子を被れば寿命を何倍も伸ばせるのは権力者の、つまり王族の独占知識だったのだ。
しかし一般人も、王族が長生きなことは知っていた。王族は長寿の秘密の漏洩を防ごうとしたが、日中は金属帽子を決して脱ごうとしないとくれば、「あの金属の被り物に秘密がある」ことくらいは誰でも気づく。それが世に広まり、未開部族も知るようになり、そして成長したインド人とゴビ人が地球を去って行ったら、未開部族の王族は何をするだろうか? 特殊金属の名と性能を知らずとも、その王族は「貴金属を頭に乗せようとする」のではないか? そうおそらくそれが、貴金属でできた王冠の由来なのだ。




