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  ふ・・・ゎぁぁ


 ついに物理現象として鈴桃に現れ始めた。鈴桃の体重を支える四肢の、筋肉の力みが少なくなっていく。飛行器による反重力の発生により、体重が軽くなっているのだ。やがて力みは完全に消え、四肢は地面にただ置かれているだけになった。それに満足しないのか、それともそれに気づいていないのかは定かでないが、鈴桃は飛行器の活性化を続ける。それが実り、鈴桃の踵が少しずつ地面から離れていく。離れた分だけ、体が上へ持ち上がる。目の良い竜族達の息をのむ音がやたら響く。それもそのはず、美雪の提案で夕食会場を丸ごと包む半球形の巨大な相殺音壁を展開し、外界の音を一切聞こえなくしているからだ。波の音、風の音、川のせせらぎ、鳥や虫たちの鳴き声等々の一切無い世界のただ中で、鈴桃の体の上昇が続く。踵が限界まで持ち上がり、足の指の付け根も持ち上がり、ついに指先だけが地面に触れているのみとなったまさにその時。


  ヒュ~~~


 夕食会場の周囲から風の音が聞こえてきた。優しいそよ風が、夕食会場の外周にいる妖精達を通過する。次に、鈴桃から離れた場所にいる成竜達を通過する。続いて、鈴桃の近くにいる子竜達を通過する。通過するごとに円形を成すそよ風は狭まっていき、円形の中心にいる鈴桃にそよ風はとうとう届いた。それと同時に、 


  ふわ~~~


 鈴桃の体は、空へ舞い上がったのだった。

 

 その夜はこの幼稚園にいる竜のみならず、竜族全体の就寝時間が大幅に遅れた夜になった。鈴桃の飛行能力再獲得が、緊急テレパシーで全ての竜に伝えられたのである。この幼稚園の子竜達は、長期休暇で帰省するたび故郷の竜達の度肝を抜いていたため飛行能力再獲得を誰も疑わず、竜の住む全ての集落で臨時のお祭りが始まったとのことだった。

 臨時のお祭りは、もちろんここでも始まった。数十万年間待ち続けてきた瞬間を己が目で直接見たのだから、それは当然のことと言えよう。成竜達は、飲めや歌えやの大騒ぎを深夜まで続けていたな。俺も9時まで参加し、「寝かさねーぞ!」系のウザ絡みをされたらどうしようと戦々恐々としていたけど、そんなことなかった。俺がいつも夜9時に寝ることを、竜達は知っていたんだね。ただ去り際、元頭竜達が「「「「ナンマイダ~」」」」を始め、俺が顔を引き攣らせたのを見て取った親竜達も悪乗りしてそれに乗っかり、空前絶後のナンマイダ~が繰り広げられたのはマジ心臓に悪かった。まあ相殺音壁が守ってくれて、トラウマにはならなかったけどさ。

 あと臨時お祭りの最中、隙を見て園長が隣にやって来て、鈴桃に関する謝罪を俺にこっそり述べた。「子供を迎えに来た親達は星母様と翔さんに慣れておらず、お二人が鈴桃を守ってくださったことに気づきませんでした。どうか、お許しください」 こっそりに留めるべく姿勢はそのまま、その代わりありったけの誠意を声に込めた園長に、俺はニヤリと笑い黙って親指を立てた。その後は一緒に、しこたま盛り上がったものだった。

 園長の言葉どおり、俺と母さんは鈴桃を守った。竜達が一斉に上げた音響爆弾のような雄叫びを俺は複数の消音輝力壁で防ぎ、母さんは竜達の雷鳴のようなテレパシーを超能力で遮断したのだ。鈴桃はあのとき全身全霊で反重力を発生させ、宙に浮いていた。その状態の鈴桃に音響爆弾と雷鳴テレパシーを届けるのは譬えるなら、全力疾走中の足にロープを絡ませ転ばせるようなもの。全力疾走を無理なく減速させ自然に止まらせるには、聴覚と意識の両方で静寂を保ってやらねばならなかったのである。

 俺の消音輝力壁と母さんの超能力は、どちらも不可視。よって子供を迎えに来たときだけ俺に会う親竜には無理でも、顔を毎日合わせている園長達は、俺と母さんの様子から事態を把握したという。俺と顔を合わせる頻度が親竜と同等の大風と慈雨も把握していたのは、二頭がさすがだからに他ならない。親竜達が劣っているのでは、決してないんだね。

 そうそう子竜達は、俺と母さんが鈴桃のために何かをしたのを直感的に悟ったようだ。テレパシーで「内緒だよ」と告げて微笑んだら、秘密を共有したことが嬉しいのか瞳を輝かせて頷いていたな。う~むさすが、俺の教え子たちなのである。

 葉月さんも、さすが妖精長だった。下方から吹いた風によって鈴桃が浮き上がったことを竜達に印象付ける方法も秀逸だったし、絶妙な制御で風を弱めていき鈴桃を優しく着地させたのも見事だったからね。葉月さんにまた叱られるのを覚悟して絶賛したところ、女性をまるで理解できていない自分を思い知らされることになった。どうも今回は、葉月さんにまた叱られるのを覚悟してでも絶賛しなければ、葉月さんに泣かれていたらしいのである。結果オーライと到底思えない、小心者の俺だった。

 そんな小心者などうっちゃって鈴桃の話をしよう。

 鈴桃は瞑目して浮き上がり、浮遊中も瞑目を続け、着地して初めて瞼を開けた。そう鈴桃は、空中から眺める景色を見ていないんだね。俺はそれをとても悔いていたのだけど、鈴桃によるとそんなことは無かったらしい。浮遊中に母さんがテレパシーで語りかけ、外の様子を見せてあげたそうなのである。


「語りかけて下さった星母様の言葉はたいへん優しく、集中力を容易く保持できました。空中から眺める景色も見せてくださり、星母様は宇宙一優しい方なのだと思いました」


 着地した鈴桃は子竜達と抱き合って喜んだのち俺のところにやって来て、俺も知らなかった浮遊中の出来事を教えてくれた。ちなみにそれを教えてくれたのは、鈴桃が俺に感謝したあとのこと。俺のところにやって来た鈴桃は、俺への過分な感謝をまず述べたんだね。そりゃ嬉しかったけど、母さんを宇宙一優しいと評したことに比べたら、無に等しい嬉しさでしかない。俺は鈴桃を撫でて褒めまくり、鈴桃は俺に抱き着いてキュルキュル甘えていた。ひとしきり甘えてから貴賓席へ体を向け「星母様ありがとうございます」と再度お礼を言うなんて、鈴桃はなんて良い子なのだろう。俺は再び鈴桃を撫で、猫可愛がりしたのだった。

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