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 背中を丸めてしまうので話を進めよう。

 という訳で二つの出し物の感想をワイワイ語り会い、ひとまず満足し、それが転じて「そろそろサプライズじゃない?」という空気がそこかしこで醸成され始めた頃。


「え~っと皆さん、お知らせがあります」


 演壇に立った俺は皆にそう呼びかけた。ちなみに演壇へは、光学迷彩を周囲に展開して向かった。観客席に輝力分身の俺を残し、宙を飛び足音を消してやって来たから、竜族と妖精族の意表を突けたみたいだ。ただし意表を突いたのは良い面と悪い面があり、俺が突如出現し大盛り上がりになったのは良かったのだけど、「サプライズ待ってました!」「「「「ヒュ~ヒュ~~!!」系の声が飛び交ったのはどちらかと言うと悪かった。俺はこれからお知らせを、つまり説明をしなければならないため、盛り上がった空気が一時的に冷めてしまうからである。とはいえ、ここは腹をくくるしかない。盛り上がった空気をなるべく冷まさぬよう、俺は活舌よくはきはき話していった。


「これから皆さんに、映像作品を見てもらいます。皆さんが体験する初分野の映像作品ですから、所要時間は2分45秒。初めての器楽曲だったカノンと、さほど変わらない長さです。また今回上映する作品に、登場する竜のセリフはありません。映像と音楽を基に、竜達の胸中を察してみてください。それでは、準備開始~~」


 俺は上空に待機しているカレンに右手を差し伸べる。それを合図にカレンの牽引車から、複数の音響機器が降りてきた。反重力エンジン内臓の音響機器を、美雪が遠隔操作で適所に設置していく。一方俺は、準四次元から輝力製の映写機を取り出した。次いで宙を飛び、空中に映写機を固定。この映写機と演壇の音響機器を同時に作動させるべく、美雪と視線を交差させる。でもその前に、


「あっ」「暗くなった!」「「「「懐かしい~~」」」」


 空中に浮いていた複数の照明が消え、暗がりが会場を覆った。懐かしいと竜達が口を揃えたのは、どこぞのアホが来る前は日没後すぐのこの暗がりで夕食会を終えていたから。照明に目が慣れていなければ、行動可能な明るさの残るこのタイミングで夕食会を終え、寝る準備を始めていたんだね。安全が確保されている場合、暗がりには他者との距離を縮める力がある。懐かしさも相まって、会場を親密な空気が包んだ。よし、準備完了だ。俺は美雪とテレパシーのカウントダウンをして、映写機と音響機器を同時作動させた。

 それを受け空中に固定した映写機が、幅25メートル高さ16メートルの映像を演壇に映した。映像の中心にいるのは、悲しげに俯いている竜の女の子。半年前に試写を2秒間したさい登場したのもこの子で、あの時は楽しげに走っていたのに、今は真逆の状態だ。いったい何が起こったのかと、観客の注意が女の子へ一斉に集まる。と同時に、


  ドォォ~~ン・・・・


 重低音を主体とした音が会場を覆った。実際は同時に鐘が鳴り、バイオリンも小さな音を刻んでいるが、背中を丸めて俯く女の子と重低音の組み合わせが強烈すぎ、鐘もバイオリンも印象に残ることはなかった。それに対抗するが如く、鐘の音が響く。その後も鐘は単調に二回響くも、重低音がメロディを獲得したことにより、鐘はとうとう沈黙してしまった。

 そんな重苦しい曲調で始まったのは、ボクシング映画の金字塔、ロッキ〇のGoing The Distanc〇 だ。この曲ではないもう一方の、派手なトランペットから始まる曲の方が有名だけど、俺が好きなのは断然Going The Distanc〇。好きすぎてこの曲を基に、竜族に紹介する最初の映像作品を作ってしまったのである。フハハハハ!!

 ・・・話を曲に戻そう。

 メロディを獲得したことで鐘を追い払った重低音に対抗すべく、金管楽器が音を奏でる。けれどもその音は単調で、単調なままでは重低音に対抗できないと悟った金管楽器は、メロディを遂に奏でた。

 でもその金管楽器は、二大困難楽器の一つとされるホルンなんだよね。ホルンは音を不安定に揺るがせつつも頑張り、それに触発されトランペットも途中から加わったが、両者はメロディを連携させられなかった。バラバラに音を奏でていたホルンとトランペットは、両方とも沈黙してしまう。それと同時にバイオリンも、音を刻むのを止めた。

 重低音は勝ち誇り、単独でメロディを刻んでいく。その専横に、今度はドラムが反旗を翻した。最初はシンバルを小さく叩くのみだったがここぞというところで軽快なドラムを響かせ、その後をトランペットが引き継ぎ、二度目の抵抗が始まったのである。

 トランペットが奏でたのは、一度目の抵抗でホルンが試みたメロディだった。それに勇気づけられホルンも加わり、二度目の連携は一度目より上手くいき金管楽器が次々参加するも、連携は一度目よりは良いというレベルでしかなかった。重低音を追い払えるほどの連携には至らず、二度目の抵抗も尻すぼみになっていった。

 という曲が流れる中、竜の女の子はどうしていたのだろう? 竜の女の子を、最初から振り返ってみよう。

 この映像作品はGoing The Distanc〇を基に作られたが、俯く女の子を横から捉えた冒頭の場面に音はない。傷心のシーンに重低音を主体とする最初の音が響き、曲は始まったのだ。二回目の鐘の音でカメラアングルは女の子の背中側へ移り、女の子の正面の様子が明らかになる。そこには、19頭の子竜達が地上数十センチの空中に浮く様子が映し出されていた。子竜達の向こうに、園長と山風が見える。そうそこは、竜族の幼稚園。俯く女の子以外は飛行能力の再獲得に成功した、幼稚園だったのである。

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