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人生で成功するか否かを最も左右するのは努力と信じる人に、「成功しない人は努力していないのだと考えぬよう己を戒めている人」は、まずいない。その一点だけでも、最も左右するのは運と考える価値はある。実際どんなに努力しても、
時代の需要
に適合しなければそれが収入に結び付くことはない。たとえ世界一の技術を有していても、それを誰も求めていないなら売買は生じず、収入にならないからさ。
前世の地球には「たまたま好きだったもの」や「たまたま得意だったもの」が時代の需要と適合し、成功者になった人達が想像以上に大勢いた。その人達が努力したことを、俺も疑っていない。しかしそれでも、その努力だけで成功したと考えるのは認識が甘いと言わざるを得ない。「好きで好きでしょうがないもの」や「天賦の才が凄まじくあるもの」が時代の需要にかすりもせず、不得意な仕事に従事し低評価されている人が、地球には想像以上に大勢いる。これが、現実なのだ。
「前世の俺は、田中一村という画家が大好きでさ。一村さんは、当時の日本画壇にまったく評価されていなかった。でも俺が地球を去る頃は、評価が鰻上りでね」「その方は存じませんが、没後に正当な評価を初めてされる人は数えきれないほどいますよね」「さすが翼さん、解っている」「ふふふ、褒められてしまいました。調子に乗って・・・」
調子に乗って質問していいですか、と翼さんは屈託ない笑みを浮かべる。この会合は翼さんの心のケアを主目的にしているのだから、笑顔は大歓迎。大歓迎のあまり俺も調子に乗り、幾つでもどうぞと胸を叩いてみせた。屈託のなさを一段引き上げ、翼さんは問うた。
「非の打ちどころのない幸せを享受しながらも、恐怖に苛まれる夜が稀にあるAさんについて、翔さんの感想を聴かせてください」「俺はAさんのアカシックレコードを見ていない。よってただの私見になるけど、いいかな?」「もちろんです!」
首肯し、俺は話した。Aさんは生まれる前、夢を叶えるための人生を今度こそ送ってみせると一大決心した。「才能がないと自覚しつつも、仕事を替えず努力を続ける。たとえ野垂れ死のうと、努力を生涯貫く」がその一大決心だ。しかし今回も、日和見の人生を途中で選んでしまった。そうおそらくAさんは、誕生前の決心を翻す人生を既に幾度も送っていて、それが癖になってしまっている。「野垂れ死ぬ」系の過激な決心をしているのが、癖になっていると推測する根拠。Aさんが目標にしていた本物達は前世で野垂れ死んでなどいないのにそれを己に課したのは、日和見を連続して選んだせいでそこまで過激にしないと、自分を許せなくなっているのである。
「そこまで過激にしないと自分を許せなくなっている、は他人事ではありません。誕生前の私も自分を許せず、『後悔するよ』という助言を無視してしまいましたから」
俺がこの星に生まれなかったら翼さんは闇王に負け、無限の後悔に苦しみながら亡くなる運命にあった。母さんによると、それは翼さんが自分で自分に課した、必要のない罰だったという。またあのとき母さんは、こう続けた。「悪逆領主だった頃の自分を許せず、翔も不要な罰を自分に課し続けていたわ。あなた達が惹かれ合う理由の一つはそれね。翔、どうか翼を、今生の一度だけで自分を許せるようにしてあげて」 誰にそう頼まれても俺は協力を惜しまなかったのに、母さんに頼まれたとなれば命を賭けても惜しくない。その覚悟の下、俺は待った。待ったのは正解だったらしく翼さんは2秒ちょい俯いただけで顔を上げ、二つ目を請うた。
「夢には期限を設けなければならない、についても教えてください」「非難轟々の可能性の高い私見だけど、聞く?」「聴きます聴きます、聴かせてください!」
数秒前の俯きを完全に脱ぎ捨てた翼さんに頬をほころばせつつ、俺は長い話をした。
人生相談を申し込んだ相談者が、自らに抱く疑念と罪悪感が最も少ないのは、結婚しなかった人生。次に少ないのは、結婚したけど子供のいなかった人生。そして最も多いのが、結婚し子供のいる人生だ。そう相談者は、妻と子に迷惑をかける自分に疑念と罪悪感を最も抱く人生を送りながらもそれに負けず、努力を続けているのである。
伴侶は、因果を共有する特別な存在。よって結婚前の相談者には、夢のために努力を続ける意志を伴侶に明かし、結婚の可否を伴侶に委ねる義務があった。私見だが相談者の夫婦は、それをしていると思われる。子供を作ることも夫婦で決断済と思われ、したがって何も知らない部外者がご高説を垂れてはならないと、俺は考えている。
だが地球では、ご高説を垂れる部外者が無数にいる。理由は多数あるがその一つは、部外者が「疑念と罪悪感が最大になる状況で努力をしていないこと」と俺は考えている。仮にしているなら、巨大な疑念と罪悪感に共感し苦悩を共有して、励ますことが出来た。しかししていないため、自分とは比較にならぬほど壮絶な努力をしている人へ、「夢には期限を設けなければならない」というご高説を垂れることになったのである。
またそれは、「人生で成功するか否かを最も左右するのは運」にも適合する。疑念と罪悪感が最大になる状況で努力しても成功しない人もいれば、期限付きという逃げ道を設けた努力しかしていないのに成功する人もいる、という感じだ。生まれ変わりの仕組を理解していれば、「才能を持って生まれてきたという運の良さ」がどのようにもたらされたかも理解できるので、件の言葉への感想も少し違ってくるんだけどね。
非難轟々だろうが、20代終盤で夢を諦め堅実な人生を選んだAさんは、ご高説を垂れる部外者のせいで本来の道を歩めなくなった被害者というのが俺の本音。長くなるためさっきは端折ったがAさんには夢を追いかけることに賛成し励ましてくれる友人がたった一人いて、Aさんはその友人をとても大切にしていたのだけど、友人には裏があった。その友人は、夢破れ絶望するAさんを見て嘲笑う未来のために、Aさんに賛成し励まし続けていただけだったのだ。前世の祖国の常識では友人は悪人で、Aさんに堅実な人生を歩ませた人は善人ということになるが、生まれ変わりや心の成長度や星の卒業を理解すると少々違ってくる。ある時代の国民の平均的成長度では正しかった常識が、より成長した未来の国民にとっても正しい常識とは限らない。たとえそれが「愛する夫と可愛い子供と信頼する仲間達を手にしたAさんは幸せ」という常識だとしても、未来永劫正しいとはならないのである。




