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という長い話に、翼さんは全面賛同した。地球では無理でもこの星なら理解してもらえるかなと期待していたけど、期待以上だったようだ。それが筒抜けになったらしく、「翔さんにまた見くびられました」と翼さんは頬を膨らませた。が、それは演技。翼さんは自分の演技にプッと吹き出したのち、今回の会合で一番背筋を伸ばした。
「地球では、自動車はガソリンエンジン、飛行機はジェットエンジン、ロケットはロケットエンジンを搭載していますが、この星ではすべてを反重力エンジンが担っています。反重力エンジンは発動機のみならず、事故を防ぐペンダントとしても使われています。ですからこの星における反重力エンジンの10傑技術者は、地球では比肩する技術者や学者を見つけられないほど高い社会的地位を得ています。その10傑技術者に、翔さんはなりました。地球人は反重力をまったく解明していなかったにも拘わらず、今生の翔さんはそうなったのです。翔さん、質問させてください。翔さんはなぜ、10傑技術者になれたのですか?」
「正直いうと、たまたま運良くなれただけなんだよね」
「ふふふ、そう答えると思っていました。ですから私も・・・」
翼さんは言葉を切り、胸に両手を添え目を閉じる。そして大きく息を吐いたのち目を開け、晴れ晴れと言った。
「ですから私も、たまたま運悪く翔さんの基地に行けなかったと、思うことにします」
その言葉にも晴れ晴れとした表情にも、嘘はなかったはず。だが心はままならず、かつ女は理屈ではない。俺はポケットからハンカチを取り出し、翼さんの頬を伝う涙を受け止めた。そうされるまで自分が泣いていることを、真に知らなかったのだろう。驚愕した翼さんは目を剥く。すると零れる涙の量が倍になり、俺は素早く二枚目のハンカチを取り出し、左右の頬にハンカチを一枚ずつあてがった。「すみません」「いいって」 というやり取りをした俺の頭の中には、俺の胸にすがって泣く翼さんが映っていた。俺にとってそれは確定した未来になっていて、俺はそれを微塵も疑っていなかった。だが実際は、異なる未来へ分岐した。「涙を拭いてもらい満足しました」 そう微笑み、翼さんは泣き止んだのである。
この分岐はどこに繋がっているのか
今の俺に、それは心底わからない。そのはずなのに分岐が導く先の未来に、かつてない胸の高まりを俺は覚えたのだった。
それ以降は、俺の冬期休暇の計画変更について話し合った。変更点は二つあり、一つは天風半島の訪問回数を増やすこと。もう一つは、強化3闇王の訓練回数を増やすことだ。この二つは平たく言うと「翼さんと過ごす時間を増やすこと」になるが、女組に反対されその表現は禁止になった。女組によるとそれは、恋人以上にのみ使用可能らしいのである。納得したので素直に従ったところ、「納得するのが速すぎる!」「少しは動揺して!」「この女の敵め!」系の猛批判を女組にされてしまった。むむう・・・
気を取りなおし話を戻すと、翼さんの都合も考慮し冬期休暇の計画を練り直した結果、天風半島の訪問回数を二倍以上増やすことに成功した。この増加率は、おそらく及第点だったのだろう。翼さんは今、いつもと変わらぬ柔和な空気を纏っている。本来なら矢継ぎ早に強化3闇王の訓練回数も増やしてみせるのが一番なのだけど、こちらの最終決定権は総司令部にあるんだよね。強化3闇王の勝率を上げるには1平方キロの戦闘場が不可欠であり、そしてその広さを確保できるのは総司令部の戦闘場のみだからだ。また俺らが訓練回数増加を申請したら誰かが休日返上で働くことになるかもしれず、それも懸念材料だった。幸い俺は軍のメインAⅠのアクセス権を持っているので申請前にこっそりアクセスし、休日返上の件を訊くことが出来る。よって現時点では、訓練回数の増加案を翼さんと出し合うのみになったが、意外にもこれは及第点を遥かに超えていたらしい。こんな案はどうだろうあんな案も思いついたぞとワイワイやっているうち、翼さんは満開の笑みを浮かべるようになったのである。
その百点満点の笑顔をもって、今夜の会合は終了したのだった。
明けて翌朝。
目覚めるなり美雪に頼み、軍のメインAⅠにアクセスしてもらった。そして休日返上の件を尋ねたところ、鷹司令官の優秀さを再確認することになった。
「俺と翼さんが強化3闇王を初めて倒したのは、約半年前。同日中に、秘匿性の高い新訓練場の設計図が鷹司令官によって提出された。司令官会議はほどなくそれを採用し、新訓練場が冬期休暇前に完成する予定になっている。利用予約者は現時点で無く、俺と翼さんには最優先利用権が与えられている。また俺の性格を考慮し、利用中の職員の立ち合いは不要にした。つまり、『俺達のせいで誰かが休日出勤を強いられることは無い』ということ。要約してみましたが、これで合ってますか?」
合っています、とメインAⅠは答えた。俺は礼を述べ、通信を切る。切るなり得たばかりの情報をメールにしたため翼さんに送り、続いて昨夜の翼さんとの会合が成功したことも仲間達にメールした。また不急の返信不要とし、鷹司令官に感謝のメールを送った。そして美雪に天風半島の訪問日を伝えている内に、鷹司令官以外の返信が全て届いた。それらに目を通してから、朝練をすべく訓練場へ向かった。
その日の夜も翼さんと会合を開き、冬期休暇の予定が決定した。強化3闇王との戦闘は翼さんの案を採用し、それをもって「翔さんの基地に行けない不運に折り合いを付けられました」との言葉をもらうことが出来た。ガッツポーズした俺に、翼さんが問う。
「ところでこのコロニーの案内は、していただけないのですか?」




