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そうこうするうち翼さんのテレパシーが届いた。「俺のいる部屋に出現して欲しいから瞬間移動前にテレパシーを送って」と、翼さんに頼んでいたのだ。「準備は整っている。どうぞ来てください」「はい、お伺いします」 とのやり取り後、俺の左隣に翼さんが現れた。
「こんばんは翼さん」「こんばんは翔さん」
返事はよどみなく出来ましたが、意表を突かれた表情は隠しきれませんでした。との胸中をそのまま顔に書いている翼さんに、俺は心から感謝を伝えた。俺は翼さんと素の自分で交流したいし、翼さんも出来れば素の自分で俺と交流してほしいからさ。
「はい、存じております。ですから、素の私で尋ねさせてください。落ち着いた白を基調としつつも窓のない、100メートル四方はあるこの広大な部屋は、どこにあるどのような用途の部屋なのでしょうか?」「まず謝らせて。『どこにある』がバレぬよう、最大のヒントを意図的に隠している。それを隠さなかったら翼さんの超絶身体能力が、この場所に見当を付けてしまうかもしれないからさ」「翔さん、振り返ってみても良いですか?」「それくらいなら構いません。どうぞ」「・・・はあ。翔さんは私を見くびりすぎです」
頬を膨らませ唇を尖らせる翼さんに「エエッ!」とのけ反ってしまった。俺達は、100メートル四方の部屋の中央やや壁よりに立っている。振り返った後ろにはエレベーターを連想しなくもないドアがあり、なぜ連想しなくもないかと言うと、ドアの幅が部屋幅とほぼ同じ100メートルもあるからだ。それを一瞥しただけで「私を見くびりすぎ」と宣言したからには、この部屋がどこにあるか見当を付けられたということ。俺は頬をピクピク痙攣させつつ、己の落ち度を考察していった。
そんな俺にクスクス笑い、翼さんは右手の人差し指をピンと立てる。それは「落ち度の一つ目」という意味で間違いないだろう。ならば翼さんは、指を何本立てるつもりなのか? 戦々恐々とするも聴く姿勢を整えた俺に微笑み、翼さんは落ち度を披露していった。
「舞さんと奏と晴と藍が『今は説明できないけど、ごめんなさい』という3D電話を就寝前に掛けてきました。舞さん達は誠実に謝っていましたが、理にも情にも叶う事柄への謝罪であることは間違いありません。それが一つ目」「はい」「その3D電話と翔さんに頼まれた『瞬間移動前にテレパシーを送って』から、翔さんは私への謝罪のために新しい会合場所をサプライズで創ってくれているのだと察しました。それが二つ目」「・・・はい」「その新しい会合場所は、地球がらみの場所の気がなんとなくして、翔さんが教えてくれた地球時代の話を片っ端から思い出していきました。その中の一つに、身体能力で推測できなくもない場所がありました。それが三つ目」「ひゃ、ひゃい」「仮にそれが当たっていたら、ここはエレベーターから降りた入植者用の部屋ということになります。エレベーターの向かい側の壁にも全開放できるドアがありますから、ほぼ間違いないと判断しました」「翼さんを見くびっていたことを、海より深く反省いたしまする~~!」
俺は床に土下座した。三つの落ち度の的確さもさることながら、入植者という語彙から完璧にバレていることが判明したからである。その丸まった俺の背中を翼さんは優しくさすり、顔を上げるよう促した。素直に従ったところ「舞さん達が謝っていたことを知った私も、今の翔さんのように落ち込むのでしょう。ですから、これでお相子です」と、翼さんは100%素の笑顔を浮かべた。申し訳なくて堪らなくなった俺は正座に座り直す。そして謝罪のアレコレをすべて吐露しそうになったが、翼さんは首を横に振った。
「きっと翔さんは、とっておきの場所でそれを私に説明するつもりなのですよね」「はい、そのとおりです」「ではぜひ、その場所で教えてください。その代わり」「その代わり?」「一時停止している回転運動を再開してください。三次元ではありませんから、へっちゃらでしょ」「ああ本当に、俺は翼さんを見くびっていました。ごめんなさい―――ッ!」
再び土下座した俺の手を取り、翼さんは「もういいんですよ」とまことニコニコしている。これ以上謝ったら信義にもとると判断した俺は要望に応え、回転運動を再開した。それを受け、翼さんも床に正座した。暫し瞑目したのち立ち上がり、垂直ジャンプを連続二回する。続いて瞼を開け、エレベーターと出口ドアの間を走って往復し、俺の前に再び正座した。そして数秒間思案したのち、翼さんは感想を述べた。
「極微小、体が右に傾きますね。これが翔さんに以前教えてもらった、右回転するスペースコロニー内で働くコリオリの力なのでしょうか?」「正解~~!!」
俺は盛大に拍手すると共に、翼さんの頭上に出現させたくす玉を割り花吹雪を舞わせ、吹奏楽団にお祝いの曲を演奏してもらった。翼さんは「大袈裟です」と照れていたけど、エレベーターを見ただけでスペースコロニー内と確信し、垂直ジャンプ等をしただけでコリオリの力を感じ取ったのだから、頭脳と心身の優秀さを称えるには全然足りないというのが本音だ。翼さんが保育士ではなく学問の道を志していたら、アカデミズムの歴史に名を残していたのではないかと本気で考えた俺だった。
そうここは、前世の俺が趣味と実益を兼ね就寝前に頭の中でよく想像していた、スペースコロニー内。地球時代の俺の趣味を翼さんはとても聞きたがり、本人によると「多彩で聴いていて飽きません」ということらしく確かに多彩だったがそれは置き、スペースコロニーについて雄弁に語ったことが幾度もあった。そのほとんどが準四次元で成され、心が筒抜けなのを逆手に取り、頭の中にスペースコロニーをありありと思い浮かべつついつも語っていた。多分それも、この場所が一瞬でバレてしまった理由なのだろうな。




