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その後は今後の計画を大雑把に決めた。俺は翼さんと準四次元会合をなるべく早く開き、翼さんに今回のことを伝える。話が付いたら昇と奏が互いの両親と準四次元会合を開き、今回のことを伝える。昇と鷲と橙は、明日から勉強を始める。鸞と藤には、すべてが決まってから冬期休暇のことを告げる。もし二人が基地ですごすことを嫌がったら、こうしてまた皆で話し合う。ま、こんなところかな。
という訳で会合は終了し帰ろうとしたのだけど、奏がスルスルッと近づいてきて俺に耳打ちした。「私が『ダメ』って止めなかったら、お兄ちゃんは翼お姉ちゃんにどういう対応をするつもりだったの?」と。
「ブハッ!」「むむ、お兄ちゃん酷い笑わないでよ」「だって奏、そう訊くってことは、俺の考えを知らなかったんだろ」「うん知らなかった。でも『ダメ』って確信したし、今も間違いじゃなかったって思ってる」「同意、奏に止めてもらえて嬉しかったよ。奏、これからも遠慮なんてしないでね」「お兄ちゃんズルい」「俺なにかした?」「そんなふうに優しく微笑まれたら、私の質問に答えなくても許してしまうじゃない!」「ふふふ、奏は優しいな」
ズルいズルい~と俺をポカスカ叩く奏を、昇に任せて帰ろうとした。のだけど、今度は舞ちゃんに捉まり同じことを訊かれてしまった。でもはぐらかしたところ、これまた同じくズルいズルい~と舞ちゃんは俺をポカスカ叩き始めたたんだよね。両手をゴメンの形にする勇に舞ちゃんを任せ、今度こそ帰ろうとする。しかし立ち止まり、俺は回れ右をした。
「勇、舞ちゃん。次の冬期休暇を二人っきりで過ごさない決断をさせてしまい、悪かった。と同時に、次の冬期休暇を一緒に過ごす決断をしてくれて、ありがとう」
それから暫し、友情って良いなあとしみじみ思う時間が続いた。勇と舞ちゃん、つまり剣持夫妻と俺との間には、友情しかない。剣持夫妻のように夫婦ではないし、家族同然であっても家族ではないのだ。にもかかわらず揺るぎない絆を感じるのは、俺達の間に友情があるから。しかも嬉しいことに、俺らの友情はこれからもどんどん深まっていくのである。その喜びを三人でしみじみ味わってから、俺は自分の場所へ帰って行った。
というのは、ただの演技。俺は三次元に戻らず、真四次元の音楽宮へ飛んだ。そうはいっても翼さんがいないので、音楽宮中に入ることは不可能。だが屋外でも、ここはれっきとした真四次元。一切のネガティブを持ち込めない次元なのだ。
天頂に輝くティペレトの光を浴びつつ、音楽宮を見つめる。いつからだろう、俺は音楽宮に翼さんを重ねるようになっていた。両者の気質が、瓜二つのように思えてならなくなったのである。これは俺のみの現象なのか、それとも多数の一人にすぎないのかを知りたくて音楽仲間達にそれとなく尋ねたところ、どうも俺のみの現象らしい。ならば次に考察すべきは「瓜二つと感じることの正誤」といつもの俺ならなるはずなのに、なぜかそうならないんだよね。それすらも「まあいいか」で処理しているのだから、自分の事ながらお手上げ状態だ。お手上げでも、翼さんに関する問題が生じたら、近頃俺はこうして音楽宮を屋外から眺めることにしている。啓示等を得られたことは、一度も無いけどね。
一度も無いといえば、ここで翼さんと鉢合わせたこともない。偶然なのか、それとも必然なのか。なんとなく必然と俺は感じている。
それは正しかったのか、今夜も翼さんに会うことなく音楽宮を後にした。三次元に戻り、心を肉体に馴染ませていく。馴染んだのち、翼さんについて瞑想した。音楽宮を臨んでいる時は決して心に浮かばなかったことが、次々浮かび上がってくる。その中に、奏と舞ちゃんの問いへの返答があった。ということは、
「あの対応はネガティブということなのだろう」
心の中でそう呟いた。その対応は、「保身を施さず翼さんについて考えること」だった。それがネガティブなら、今の俺にはまだ保身が必要ということなのだろう。毒としか思えない保身も状況によっては薬になり、その状況に俺と翼さんはいるという事なのである。俺はそれを素直に受け入れる。
そして意識を手放し、眠りの境界を越えたのだった。
明けて早朝。
目覚めてすぐ美雪に来てもらい、昨夜の四次元会合について話した。鷲達がこの基地に来るしか解決策はないと美雪が事前に気づいてくれたことへ、まずお礼を述べる。続いて美雪の予想どおり舞ちゃんも来ることと、最後に翼さん関連で冬期休暇の予定が少し変わることを説明した。美雪は舞ちゃんの件まではニコニコしていたが、
「皆の知恵を結集しても、翼さんはやはり来られないのですね」
最後の報告だけは顔を曇らせた。43年の付き合いから、美雪の表情に嘘がないのは一目で判る。俺は美雪を抱きしめ、美雪の心の清らかさを称えた。そして美雪に恥じぬよう、俺も心を清らかに保つことを誓った。
朝練後、今夜の準四次元会合が可能かを問うメールを翼さんへ送った。返信をすぐもらえて、可能とのこと。それを朝食中、勇と昇に伝えた。「何かあったら頼れ」「俺も頼ってください」と真摯に言ってくれた二人へ、友人に恵まれている幸せをつくづく感じた。
そして夜、翼さんとの待ち合わせ場所を準四次元に創った。初めての試みだったので普段より30分早く起きたのが功を奏し、マニアックな拘りを排除すれば百点満点の出来になっている。けど不安もあり、それは俺の趣味に全振りしていることだった。前世の友人知人を思い出す限り、趣味を全面に出した自分を恋人に紹介した男の1年後の交際率は、半分を切っていたんだよね。男と女は、かくも異なる生き物なのである。もちろん俺と翼さんは恋人ではないが、「だから平気」などとは何があっても思ってはならない。今夜は心の制御技術を終始全開にすることを、俺は再度確認した。




