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「昨日の昼、鷹司令官が許可してくれた。鸞と藤を連れて、皆で俺の基地に来るかい?」
それ以降は一言で言うと、いろいろ大変だった。大変だった一つ目は、奏と晴と藍が3歳児になり俺に抱き着いてきた事だった。そりゃ嬉しいけど、可愛くてメロメロになったけど、容姿を子供に変えようと妹達は既婚者。少し離れた場所に夫達もいるんだし、最終的には困るしかなかったのである。俺は困り果て、するとどういう理屈か不明だが妹達は溜飲が下がったらしく、そろって勝鬨を上げていた。つい先日母さんに「女は理屈じゃない」と教えてもらっていたお陰で、両肩と頭の上に陣取る3歳児達の可愛らしい勝鬨に、思わず笑っちゃったけどさ。
大変だった二つ目は、昇と鷲と橙に謝られたこと。昇達6人は昨日の夕方の時点で、俺の基地に来ること以外に全てを解決する方法はないと結論付けていたという。しかしそこで、夫達と妻達で意見が分かれた。夫達は俺にすべてを正直に打ち明け基地の件を伏して頼むことを主張したが、妻達は「「「お兄ちゃんなら大丈夫」」」の一点張りだったそうなのだ。驚くべきことに美雪はそれも予想していて、自分の名を出さぬよう俺に念押しした。俺は当然それを拒むも、「翔は基地の件に自力で100%たどり着けたはず。半日の違いでしかないから、兄を慕う妹さん達の気持ちを優先してあげて」と美雪に懇願され、渋々承諾したというのが真相だったのである。美雪との約束を違える訳にはいかないにせよ、昇と鷲と橙に土下座で謝られたのは、マジ困った俺だった。
大変だった三つ目は、俺だけでなく全員困っていた。一つ目で困ったのは俺のみだし、二つ目は土下座する側とされる側の計4人が困ったけど、三つ目は全員が眉間に縦皺を刻んだのだ。1人も漏れず7人全員の眉間に深い縦皺を刻ませたのは、翼さんへの対応。一般的に長期休暇中は「滞在場所の自由度が増す」ものなのに、翼さんは逆。翼さんは長期休暇中、滞在場所を天風本家に固定せねばならなかったのである。
そのことを俺が初めて知ったのは、昨日のお昼休憩だった。教えてくれたのは、テレパシー送受信機の件を報告した鷹司令官だね。鷹司令官は、テレパシー習得を可能にするテレパシー送受信機に驚喜した。仲間と連携して闇族と戦う戦士にとってある意味テレパシーは、最強の武器だからだ。よって鸞と藤を含む昇達8人が今度の冬期休暇を俺の基地で過ごすことを鷹司令官は即座に許可し、驚喜するのは俺の番になったが、ふと気づくと鷹司令官は沈痛な表情になっていた。「失礼しました!」と直立不動になった俺へ鷹司令官は、司令官ではなく頼れる兄貴の鷹さんとして、翼さんについて教えてくれた。
それによると、翼さんが住み込み保育士をしていることを、天風一族の誰もが好意的に受け止めているという。鷹さんを始めとする本家の人達の助力あっての好印象なのは間違いないが、3歳の我が子を入寮させる親もしくは入寮させた経験のある親にとって息吹の三聖母は、最高の感謝を捧げる存在だったからだ。子供達が三聖母をどれほど慕い、また三聖母が子供達をどれほど愛しているかも、長期休暇中の翼さんと子供達の様子を見れば一目瞭然だしね。かくして翼さんは一年の大半を天風半島外で暮らしていても、天風家筆頭当主として一族全員に認められていた。そしてそれは繰り返しになるが、長期休暇を天風半島で子供達と一緒に過ごしていたからなのだ。そうつまり翼さんがどれほど望もうと、長期休暇を俺の基地で過ごすことは不可能なのである。そう説明した鷹さんは、翼さんのためにあえて悪者になった。「テレパシー送受信機の科学的仕組を翔が理解しているなら、翔の発明として発表する手もある。そういうのを、お前が厭うのは知っている。だが翼の苦悩が少ないのはどちらなのかも、お前は知っているよな」 俺は、首を縦に振ることしかできなかったのだった。
という話を昇達にしたところ、
「「「翔兄が発表してください」」」
昇と鷲と橙は即座にそう声を揃えた。迷いのない清々しいその声に、奏と晴と藍は賞賛の眼差しを夫へ向ける。続いて俺に正対し、夫に同意する旨を述べ深々と腰を折った。腰を折ったのは、翼さんをお願いしますという気持ち。それを理解した昇達も、奏達と一緒に腰を折る。俺は6人の心の清らかさを称えたのち、鷹さんの見落としを説明した。
「昇と鷲と橙がテレパシー送受信機の完成に情熱を注ぎ、それを翼さんが応援していたことを、鷹さんは知らなかった。よってそれら諸々を概念テレパシーで鷹さんに知ってもらったところ、鷹さんは発言を撤回した。昇と鷲と橙の代わりに俺が発表したら、その不自然さを翼さんが見過ごすなどあり得ない。翼さんは謎を突き止めようとし、そして真相に100%たどり着く。『その際の苦悩は、翔の基地で長期休暇を過ごせない苦悩を遥かに凌ぐはず。先ほどの発言を撤回させてくれ』 そう詫びた鷹さんに、翼さんのためにあえて悪者になったことへの感謝を俺は述べた。鷹さんはまこと頼れる兄貴なのだと、皆も覚えておいてほしい」
昇達は全員、前世が天風本家の人。俺の何倍も鷹さんを知る皆は、確固たる肯定の返事をすぐ聞かせてくれた。それは嬉しかったが、それ以降は皆で眉間に縦皺を刻む時間が続いた。翼さんに、いったいどう対応すれば良いのか。自信をもってそれに答えられる者が、ここには誰もいなかったのである。
その静寂を破ったのは昇だった。昇は皆に、昨日の朝食時の出来事を話した。
「勇兄は俺にこう言ってくれた。『7人の意見だけでは難しいと感じたら、すぐ連絡しろ。舞と一緒に飛んで行ってやる』 ここは、勇兄の言葉に甘えるべきだと思う」




