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 その日の夜に開いた準四次元会合で、美雪の偉大さを俺は改めて知ることになった。どういうことかと言うと、途中までは俺にも予想できたがその先は不可能で、美雪が予想していなければ万全に対応できなかったのである。順を追い、振り返ってみよう。

 俺ら音楽仲間は、言い出しっぺが会合場所を創ることになっている。よって今回は俺が創り、その会場に昇達6人が一斉に現れた。6人は1人も漏れず挑戦心を全身から立ち上らせていて、実際そのとおりになり、1分経たず「挑戦する」が選択された。その後は俺の提示した勉強範囲をいかに攻略するかを、昇と鷲と橙が顔を突き合わせて議論する時間となった。ここまではアホな俺でも、可能性の高い未来として予想できていた。だがそれ以降は違った。3人の妻を代表し奏が俺に小声でこう訊いてきたのは、俺には予想不可能だったんだね。美雪のお陰で、俺は兄として十全に対応できたのである。奏の小声の「6人で同じ家に住むことを男は嫌がりますか?」という、問いかけに。

 予想していなかったらこの問いかけに「嫌がったりしないよ。6人は家族みたいなものじゃん」と即答したと思う。けれどもこれは、そんな気軽な問題ではなかったのだ。

 俺より15歳年下の奏は今、31歳。晴と藍は奏の1歳年下だから30歳。晴と藍はどちらも20歳で結婚しこれまたどちらも22歳で男子を産み、今は8歳になっている。晴の子がらん、藍の子がふじだね。ちなみにこの子たちが3歳で入寮した幼年学校の保育士長は舞ちゃんで、舞ちゃんは鸞と藤の初恋の人らしい(微笑ましいなあ)。鷲たち4人は隣り合って住んでいるため、鸞と藤は父親と母親が2人ずついるような環境で育った。奏はまだ子供がいないこともあり鸞と藤を猫可愛がりし、鸞と藤にとってほぼ家族になっている。それは昇も変わらず、通常なら6人が同じ家に住みそこに子供達が帰省してくるのは嬉しさしかないはずだが、今回は状況が違う。訓練に支障をきたすほどの勉強疲れに見舞われている状況で、8歳男子の相手もせねばならなくなるのだ。それでも昇ならそつなくこなすと「奏は思いたい」のかもしれない。だが仮にそうなら、奏は間違っている。昇が最もつらいとき奏が昇より子供達を優先したら、昇と奏にしこりが残る。逆に奏が子供達より昇を優先するなら、6人で住むなど初めからしなければ良かった。昇と奏が一緒に暮らせるのは、長期休暇中のみなんだしさ。

 また「そもそも6人はどこに住むのか?」も、何気に難問だったりする。鷲、橙、晴、藍のご両親は非常にできた人達だったため、帰省した4人が天風本家で長期間過ごすことを許していた。天風家直系のときと夏およびその伴侶達と4人は同じ戦士養成学校を卒業したので家族のような大親友のような間柄になり、それもあって4人は鸞と藤の長期休暇の大部分を天風本家で息子達と一緒に過ごしていた。そこに昇と奏が加わったら、6人はどこに住むのか? 翼さんがいるから昇と奏も天風本家にもちろん住めて、すると鸞と藤の相手をする負担が格段に減るのは間違いないが、代わりに天風一族との付き合いが生じてしまうんだよね。それは鷲と橙と晴と藍も同様ゆえ、本末転倒になる。なぜなら6人で一緒に暮らす根本理由は、


  人生の岐路に立った夫達を

  妻達が全力で支えるため


 だからだ。天風本家に住んだら鸞と藤の世話の負担は減っても、天風一族との付き合いが新たに生じる。天風半島に住まなかったら天風一族との付き合いは生じないが、帰省した子供達と離れて暮らさねばならないか、もしくは子供達が天風半島で己を鍛える機会を奪うことになる。これらを解決する最も簡単な方法は、6人が一緒に暮らさないこと。なのだけど、昇と鷲と橙が同じ釜の飯を食い同じ屋根の下で暮らしていたら、閃きが降り易くなるのは事実。然るに妻達はそれを助けたいと心から願っても、事情が複雑に絡み合い万全の環境を整えられない。そんな状況に、6人は陥っていたのである。

 ということを6人は既に理解しているはずなのに、


「6人で同じ家に住むことを男は嫌がりますか?」


 奏は小声で俺にそう問いかけたんだよね。いやはや奏も、大人になったものだ。俺は嬉しくて堪らなくなり、かつそこにこの状況を予想してくれた美雪への感謝も加わったため、久し振りに奏の頭を撫でそうになってしまった。それはホント危機一髪で持ち上げた右手が奏の肩あたりまで来てようやくそれに気付き、俺は慌てて手を引っ込めた。よかった未遂に終わった、と俺は胸を撫で下ろした。そう頭撫では未遂に終わったのだけど、


「お兄ちゃん今、私を撫でようとしたよね」


 三白眼の奏に詰め寄られてしまったではありませんか。あまりの気迫に「いえあのですね」とシドロモドロになっていたら「「ズルい私も!」」と、晴と藍にも詰め寄られてしまった。ヒエエ、馬鹿な兄ちゃんを許してください~~と胸中必死で懇願したところ妹達はとたんにムスッとし、「「「お兄ちゃんは馬鹿じゃない」」」とそろって唇を尖らせたんだよね。妹達を大切に思う気持ちが胸に溢れてくる。それに助けられ落ち着きを取り戻した俺は、6人が同じ家に住む難しさを妹達を傷つけぬよう言葉を慎重に選んで説明していった。大抵の人は理解されると、嬉しく思うもの。妹達もそれに漏れず説明が進むにつれ笑顔を見せるようになり、全てを話し終えたら万歳して喜んでいた。さすがに万歳は喜び過ぎな気がして首を傾げていたところ、


「お兄ちゃんが現状をここまで把握しているのに」「何も解決しないなんて絶対ないって」「お兄ちゃんを何十年も見てきた私達は知っているの」


 妹達はそう言ってのけたのである。ああ俺は世界一幸せな兄ちゃんだなあ、と胸に手を当ててしみじみ思ったのち、妹達に提案した。


「昨日の昼、鷹司令官が許可してくれた。鸞と藤を連れて、皆で俺の基地に来るかい?」

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