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「半分正解。翔はいつが良いと思う?」「・・・もう半分の見落としを、夫婦と仮定して話します。夫婦の両方が心の成長度5の場合、テレパシーの習得は夫婦仲を深めるのか、それとも壊すのか。音楽仲間達は、夫婦仲が深まりました。しかし音楽仲間達の心の成長度は、9段階評価の9すら軽く凌ぐはずです。心の成長段階を幾つに分類すれば、夫婦仲の破壊を回避できるのか。その解明が急務であり、そしてそれが解明すれば、テレパシー送受信機によるテレパシー習得をすぐ始めて良いと俺は考えます」


 はい良くできました、と母さんは俺の頭を撫でる。尻尾ブンブンまっしぐらの己を牽制すべく、質問の有無を俺は必死で考えた。奏達が何となく気になり、判明した事柄をまとめていく。人生の岐路に立つ夫の隣にいたいと無意識に願った奏達を、本体は助けた。3歳児になって俺に甘えたのは本体の助力で・・・あれ?


「母さん」「どうしたの?」「3歳児になった妹達の胸中を俺は部分的に取り違えましたが、人生の岐路に立たされた夫の隣にいたいという最も大切な願いなら、叶えてあげることが出来ました。それを『妹の気持ちに敏感』と評されるのは過剰のきらいがあっても納得できますし、『母親の気持ちに鈍感』と叱られるのもダメ息子として納得できます。しかしそれと『私は3歳の翔を可愛がったことがない』を結びつけ、ズルいズルいと駄々をこねるのは、少し違いませんか?」「翔」「はい、母さん」「嫁姑戦争のきっかけは、理屈ではないのです」「よ、嫁姑戦争? なぜ急にその話題へ??」「ですから、理屈ではないのです。翔、よく聴きなさい。『嫁の気持ちには敏感なのに母の気持ちには鈍感』という母親の不満が、嫁姑戦争を引き起こすこともあります。来世で苦労したくないなら『最も大切なのは嫁』と『母親を蔑ろにすること』を同一視してはならないのだと、肝に銘じて生きなさい。いいですね?」「は、はい! 肝に銘じます!!」


 無理矢理押し切られたように感じても、俺が17連続で未婚かつ孤児なのは事実。来世の俺は、約600年振りにできた嫁と母の両方を大切にしているつもりでも経験が絶対的に足らず、嫁姑戦争のきっかけを作ってしまうかもしれないのだ。それを、来世の生母になると言ってくれている母さんに指摘されたとなれば、肝に銘じるしかない。「仰るとおりでございます」とヘイコラしたところ、もう大丈夫と判断したのだろうか。母さんは「さあ子供教育学の授業を始めましょう!」と無駄に明るく宣言し、予定になかった授業をやたら熱心にしてくれたのだった。


 その三日後。

 心の成長段階を幾つに分類すれば、夫婦の破滅を回避できるのか。

 それを解明するのが急務と決断した自分を、俺は褒めた。当初考えていた「心の成長度5の人のみ」では、とり零してしまう人達が多数いると判明したのである。

 アカシックレコードによると、心の成長度4に分類されている人達の上位4分の1も、テレパシー習得により夫婦仲が深まっていた。逆に上位3分の1未満では、ギクシャクしてしまっていた。では心の成長度4における上位25%から33%まではどうかと言うと、深まる部分とギクシャク部分が斑模様化する人達だったのである。ならばその人達を、どうすれば良いのか? 解明に幾度か挑むも結局諦め、諦めたことも含めて母さんに報告した。すると、


「その人達をどうするかは、大聖者会議の案件です。今の自分には力不足という翔の結論を、私は支持します」


 のように、思いがけず褒めてもらえたんだよね。改めて振り返ると、俺も前世で部下にそっくり同じことを言っていた。母さんは直属の上司であると同時に親でもあるため、必要以上に頑張ってしまうのかもしれない。そう反省していたところ「先日の言いつけを守っているようね、よしよし」と母さんは目に見えて上機嫌になった。理知的理解が不可能な母さんの言動に、親子の経験値の無さを痛感した俺だった。


 それを「夫婦の経験値の無さ」に換えて胸に留めた翌日早朝。

 昇、奏、鷲、橙、晴、藍の6人にメールを一斉送信した。メールを読みましたと顔に書いている昇が、朝食のテーブルに着く。「勇にも話していい?」「もちろんです」とのやり取りを経て、閃き降ろしについて勇に説明した。「今回の件を夫婦の一大事と捉え、夫婦に揃って知らせた翔に俺は同意する」「サンキュー」 拳と拳をコツンと合わせたのち、3人で意見交換していく。それを経て昇達の疲労予測が重要と判明し、俺達は美雪に協力を求めた。快く引き受けてくれた美雪の試算に、核心情報の匂いを俺ははっきり感じた。なんと昇と鷲と橙が明々後日の朝までに勉強を揃って始めれば、訓練に支障をきたすほど疲労する時期と冬期休暇がピッタリ重なると試算されたのである。

 鷲と晴および橙と藍は、それぞれ夫婦で暮らしている。対して昇と奏が一緒に暮らせるのは、長期休暇中しかない。このように環境が異なるのに、閃き降ろしの成功率を上げるには、昇と鷲と橙の勉強の進捗を合わせた方が良いのである。これは超重要情報間違いなしということになり、美雪の試算を昇が5人にメールした。五通の返信がすぐ届き、今夜の準四次元会合が決まった。


「それまでに、奏と話し合っておきます」「それが良いな」「7人の意見だけでは難しいと感じたら、すぐ連絡しろ。舞と一緒に飛んで行ってやる」「勇兄、ありがとうございます」


 とのやり取りをもって俺達は朝食を終えた。訓練場へ向かう昇の背中へさりげなく目をやる。隣にやって来た美雪が「昇さんの歩幅は普段より広く、上体が前方に傾斜していて、鼓動も早いみたい」と教えてくれた。それは、挑戦を決意したおとこの姿。昇の中では、結論が既に出ているということなのだろう。「美雪。昼食休憩を利用して、鷹司令官への報告書の相談に乗ってほしい」「了解しました」 俺達は頷き合い、訓練場へ向かった。

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