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 保育士の勉強は、予想の何十倍も実りあるものとなった。子供との接し方が、凄まじく緻密に研究されていたのだ。よくよく考えたら、それで当然だった。この星では量子AⅠによる人の観察を、5万年間してきた。よって地球の1兆倍の研究量になっていても、不思議はなかったのである。ひょっとしてこれは全宇宙レベルで貴重な研究なのではないかと、俺は幾度も唸ったものだった。

 その幾度目とも知れぬ唸り声を、準四次元での勉強中に上げたとき、


「やっちまった―――ッ!」


 バカ過ぎる見落としにやっと気付いた俺は机に激突した。この星には、母性の見本として創造主が手ずから創ったかのような母さんがいる。そんな母さんが星母を務めているのだから、全宇宙レベルで貴重な「子供教育学」が誕生して然るべきだったのだ。母さんと40年以上交流しているのに、このバカ息子はそれにやっと気づいたのである。すると、


「そんなことないわ、翔」


 母さんの声が不意に頭上からした。上体を跳ね起こしたところ、先生モードの母さんが目に飛び込んできた。どうやら久しぶりに、母さんの授業を聴けるらしい。しかも全宇宙レベルで貴重な子供教育学を、学問成立に最も貢献した母さんが教えてくれるみたいなのである。これ以上に命がけで臨む授業が、果たしてあるだろうか? 宇宙中を探そうと、そんなのありはしないのだ! という意気込みを全身から放った俺にクスクス笑い、母さんはとびきり面白い子供教育学の授業を始めた。

 この星の子供教育学を面白くしている二大要素は何と問われたら、「圧倒的な多様性」と「星の卒業を基準にしていること」と俺は答える。前者から説明すると、この星では毎年1千万人の子供が生まれる。その1千万人を量子AⅠが24時間、しかも一生観察することを、この星では5万年間続けている。いや一生どころか生まれ変わっても、前世と今生を比べつつ観察していくのだ。地球を1兆倍する圧倒的に多様なデータを保有していても、頷けるといえよう。更にそれらの基準になるのが後者の、この星の卒業に役立つか否かなのである。

 例えば115歳までダメ人間だったが、115年間のダメ生活を悔い改め自分で自分を教育し直し、125歳で星の卒業資格を得たAさんがいたとする。そのAさんの幼馴染のBさんは、生涯かけて優秀かつ善良だったが卒業資格を得ぬまま亡くなったとしよう。二人のこの差がなぜ生まれたのかを、地球人は1ミリも解明できないはず。心の成長の研究を、微塵もしていないからだ。しかしこの星にはAさんと同種の実例が数十億人分あり、量子AⅠの情報処理能力にも助けられ解明がとことんされているのである。俺はそれが、面白くてならなかったんだね。

 間違えてはならぬのは、保育士として学ぶ子供教育学に「星の卒業」という語彙は使われていないということ。理由の一つは、さきほど登場したAさんにある。Aさんは一見、星の卒業に反するダメ人生を115年間過ごしてきた。が、それを介して得た学びを基に星を卒業したのだから、


『115年間のダメ人生は卒業に役立つ人生だった』


 ということになる。ならば仮にAさんが、星の卒業に沿うとされる善良な人生を他者に強要されて過ごしたら、星を卒業できたのか? アカシックレコードを読めるようになった者としては、「かなりの高確率で卒業できなかった」と言うしかない。理由は、自主性にある。では自主性とは何かと言うと、


『自ら考え自ら決断し自ら行動すること』


 だね。自主性を土台に生きた115年間のダメ人生は、他者に強要されて過ごした115年間の優秀かつ善良な人生に勝る。これが、宇宙の真実。そしてそれ故、保育士として学ぶ子供教育学に「星の卒業」という語彙は使われていない。保育士がその語彙を意識しただけで、入寮生活をしている幼児にとっては強要になりかねないからだ。もちろん人に迷惑をかけたら幼児でも注意するし、聞く耳持たなかったら鬼の形相で叱るし、それでもダメならその子は犯罪者になるけどね。前世の祖国の幼稚極まる少年法など、この星の人々は5万年以上前に捨てているからさ。

 星の卒業という語彙が子供教育学に未使用な理由は他にもあり、それは星の卒業が近づくと自ずと分かるようになるから。語彙がなくとも自ずと分かるようになるので、書いていないのである。ここら辺の融通の高さも、心が成長している社会の特徴だね。

 これに関連する地球の話をしよう。

 地球の某宗教が定めている唯一神を、A神とする。その某宗教では、このような主張がなされていた。


『A神を崇める犯罪者は、A神を崇めない善人より偉大』


 本来この主張は、「星の卒業」関連の知識なしでは決して理解できない。超絶大雑把に説明すると、A神を崇める犯罪者は大聖者や直弟子を指し、A神を崇めない善人は普通の人達を指し、偉大は本体との共鳴率の高さを指している。なんて言うと、


「大聖者や直弟子が犯罪者になるなんてことあるの?」


 と首を捻る人が多々いるだろうが、古代アトランティスを思い出してほしい。古代アトランティスは住人のみならず、豊かな自然を含む一切合切が問答無用で海の底に沈められた。そしてそれは、たった一人の光の子によって成された。地球の法律において、その光の子以上の犯罪者はいないのだろう。だが創造主にとっては、犯罪者ではない。因果則で罰せられることも無ければ、犯罪者として組織で糾弾されることも無いのだ。そうその光の子を犯罪者とするのは、本体との共鳴率が低く本体の視座で物事を考えられない者のみ。それは主張にも当てはまるから、犯罪者という語彙が使われているのである。

 もう少し詳しく掘り下げると、A神は創造主ではなく、創造主の創造主の創造主を指している。組織の旗に描かれている、中央の点だね。これを理解すると、「崇める」も理解できる。たとえば俺は組織の準直弟子で、その理由は「準」でないと自由に動けないからだ。つまり「準」のない直弟子やその上の大聖者は組織を最優先しなければならず、その最優先が某宗教の主張する「崇める」ということ。平たく言うと、心の未熟な俺らダメダメ人間の感覚と大聖者や光の子の感覚は、異なるってことだね。

 話を戻そう。

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