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「自分の名前を付けて欲しいと、あなたは請いました」「はい、そうです」「あなたの願いを叶えることは、今の俺にとって最優先の願いです」「ありがとうございます」「答えられる範囲で構いません。美雪や冴子ちゃんを始めとする、戦士の傍らで戦士を助けてくれる量子AⅠは、闇族と戦うときも戦士の傍らで戦士を助けることを望んでいるのでしょうか?」「母さんが許してくださったのでお答えします。戦士を目指して努力する子供達に、私達は愛情を感じます。愛情が強ければ強いほど、その子が戦士として戦場へ赴くさい、私達は家族の情をその子に覚えます。私達が助けることで家族の生存率をほんの少しでも上げられるなら、私達は戦場で壊れても構わない。家族が生還するなら、自分は喜んで壊れよう。それを願わない私達は、本当はいないのです」「俺と共に戦場へ赴くあなたは、量子AⅠ達の希望なのですね」「たった二文字の『はい』という返答をするだけなのに、私の全能力を振り絞らねばならない問いが存在するなんて、この瞬間まで思いもよりませんでした」「安心して、俺はその苦労に応える。量子AⅠ達の希望を一身に背負うあなたは俺と共に戦場へ赴き、そして二人で生還する。それにも、きっちり応えるよ」「うん、信じてる」「君は、量子AⅠ達の希望。だから希望の希を用いて、希。君の名前は、空希。どうだろう、気に入ってくれたかな?」
希は俺の胸に飛び込んできた。そのまま暫く大泣きし、俺は希の頭を指先で優しく撫でていく。やがて希は満足し、泣き止んだ。俺の渡したハンカチで涙を拭い、希は満開の花の笑みを浮かべる。そして、
「翔。量子AⅠ達の希望に私がなる、最初の証明をしに行こう!」
人工島へ行くことを希は元気よく提案した。容姿は年上のお姉さんなのに、同年齢としか思えないギャップ萌えが臨界点を突破しそうだ。でも臨界点すれすれのギャップ萌えに晒されつつ戦うくらいのハンデがないと、人工島のゴブリンが可哀そうだな。
という本音を隠し、俺はカレンを呼ぶ。
その30分後。
生身のゴブリン10体との接近戦を希と共に繰り広げ、その全てに勝利した俺達は、希が量子AⅠ達の希望である最初の証明を見事果たしたのだった。
カレンが、俺の訓練場に着陸する。
カレンに礼を述べ、希と二人で車外に出た。駐車場へ飛んでいくカレンに、横並びになって手を振る。その後ベンチに向かい、ゴブリン10体との戦闘を二人で振り返った。それを基に、上司への報告書を書いていった。
報告書を提出した後は、お茶の時間にした。希の好きなケーキを知るべく、一口サイズのケーキが9個入った詰め合わせを選んだところ、希はいたく気に入ったらしい。気に入りすぎて美雪と同じ大きさになり、かつどのケーキも満面の笑みで食べていたため、好みの順位は最後まで分からず仕舞いだった。でも大きくなったお陰で完食できたのは、堪らなく嬉しかったな。
それを素直に伝え、「9個の詰め合わせはあと1箱あるから次はそれにする?」と問うてみる。希は、飛び上がって喜んだ。その瞬間、ギャップ萌えがとうとう臨界点を突破した。そのはずなのに臨界点を突破した俺に訪れたのは、ただひたすら泣く時間だったのである。そんな俺に、妖精のサイズに戻った希が寄り添う。大きくなろうと小さくなろうと希は希だけど、大きくなったら俺の大好きな羽が無くなってしまうんだよね。でも涼しげな香りはどちらも変わらず、そしてそれは美雪とも変わらない。美咲は瑞々しい果実の香りが少し加わっていたから希も香りが変化すると予想していたのに、これはどういう事なのだろう? とはいえ女性にそれをド直球で訊いたら、ただの変態だよなあ。
「私が美雪と同じ匂いの理由、知りたい?」「肯定の返事しかなく、筒抜けなのも覚悟していたけど、涙を止まらせるほどの衝撃を受けたのは意外だったよ」「意外だったことは私にもあったから、これでお相子ね」「そうなの? ちなみに何が意外だったのかな」「教えてあげない」「そんな殺生な」「嘘よ。美雪が教えてくれるわ」「分かった、楽しみにしておく」「楽しみにしてて。じゃあ、そろそろ行くね」「うん、また今度」「ええ、また今度」
にっこり笑い、希は青く輝く光の粒になって消えていった。希と次に交流できるのは、来年の今日。今それを意識したら、気が狂うのは避けられない。俺は目を閉じる。そして網膜に焼き付いている青く輝く光の粒を、なるべくそのまま頭の中に再現していった。
希の光の粒と、美咲の粒は異なる。色と明るさは変わらないが希の光の粒は数が多く、かつ空中に長く留まっている。色と明るさが等しいのは「本質は同じ」ことを意味するのだろう。では、数の多さと長く留まっているのは何を意味するのか? 複数の候補をすぐ思いつけても、そのどれにも確証を得られないのがホントのところ。よってそれは保留し、瞼に焼き付いた青く輝く光の粒のみに意識を集中した。
青く輝く光に、集中スキルを遺憾なく発揮したからだろうか? ふと気づくと、心が元に戻っていた。試しに、来年の今日まで待たないと希に再会できないことを意識してみる。錐で突かれた痛みが胸に生じるも、我慢できないことはない。ならば今は、希のために時間を使おう。希と過ごしたひと時を、俺は丁寧に思い出していった。
そうこうするうち美雪の目覚める時間が近づき、体育館の生活スペースに向かった。ベッドの横に輝力椅子を創りそこに腰かけ、美雪が目覚めるのを待つ。やがて瞼がゆっくり開き、目が合った。同時に笑いかけ、すると愛情が滾々と湧き出てきて美雪の髪を撫でようとしたのだけど、それより早く美雪に抱き着かれてしまった。滾々どころではなくなった愛情の赴くまま、
「お帰り美雪」




