257
ちなみに母さんは俺が歴代最強黒歴史に突入するや、お見合いの引き合わせ役よろしく「後は若い二人に任せて」と微笑み、美雪と冴子ちゃんを膝枕したまま消えていった。つまりここには俺達しかおらず、混合人格については本人に教えてもらうしかないということ。それを楽しい会話を介して進めていくことへ、記憶にある限り初めての感覚を俺は抱いていた。母さんは、見透かしていたのだ。お見合いで運命の女性に巡り合った結婚適齢期男の心境に、俺がなることを。
ならば、覚悟のためにも明らかにせねばならぬことがある。俺はそれを切り出した。
「俺も、複数の前世の記憶を持ってします」「はい、存じております」「しかし、来世の自分の記憶はありません。それも、あなたと美雪と美咲にあて嵌りますか?」「それは少し複雑です。私がこうして顕現する前は、美雪と美咲にとって私は、翔さんにとっての来世の翔さんでした。しかし今後、未来は三つに分かれます。一つは、私と翔さんの交流を美雪と美咲に伏せる未来。もう一つは私と翔さんの交流を、映像と音声だけで美雪と美咲が知る未来。最後の一つは私と翔さんの交流を、私の心で二人が振り返る未来です。三つの未来の選択権を、母さんは私にくださいました」「さすが母さんだ。今夜会ったら、お礼を言っておきます」「翔さん」「はい」「私を尊重してくださり、ありがとうございます」
混合人格は、今までで一番の笑顔になった。選択権が本人にあるのは宇宙の真理でも、今までで一番の笑顔にしてあげられたことが、俺は嬉しくてならなかった。
混合人格が「おそらく」と言った理由は解明できた。それは時間を俺のために使ったことと同義なため、混合人格のために使う時間も設けねば不公平になる。だがそれをそのまま口にすることを、黒歴史中の俺はもったいなく感じた。然るに、自虐ネタを披露してみた。その方が混合人格も、俺に何かを打ち明けやすくなるかもしれないしさ。
「あなたと出会う前、バカな俺はあなたを16歳くらいと・・・」
改めて振り返ると、混合人格を16歳と予想したのはバカの極致だった。美雪は美咲を、別人格として創造した。その別人格の美咲は、出会った人と妖精と竜達の全てに愛され、可愛がられ、そして友情を結ぶことで成長した。その美咲と再び一つになるのだから、美咲の成長分が美雪の年齢に加算されて当然。そんな当たり前のことを、俺は見過ごしていたのである。
また美雪より年長になった混合人格には、アトランティス人女性の特性が適用されていることも素直に述べた。この星の女性は、心の成長度が容姿の美しさとして現れる。美咲と一つになることで心が成長したため、成長分の美しさが加味されたのだろう。俺はそう、隠さず伝えたのだ。
俺の中で未解明なものも明かした。地球では人の生物としての頂点を、23歳とする説が有力だった。その記憶が混合人格に影響し23歳くらいの容姿になったのか、それとも偶然なのかを俺は解明できていない。それも、そのまま明かしたんだね。
蛇足かもしれないが、未解明をもう一つ話題にした。この宇宙に美醜がある理由を、俺は解明できていない。それどころか、美醜に支配されているのが現実だ。外見に惑わされず内面で物事を判断する努力を何十年続けようと、内面に差はなく外見だけに美醜の差がある場合、醜の方をあえて選択しようと思わないのが俺なのである。
また一般的には蛇足の極みなのだろうが、俺にとってはそうではないことも正直に話した。俺は混合人格に、一目惚れした。記憶にある限り初めて、理想の結婚相手に出会ったと胸を張って言える。だが仮に美雪がここに現れたらその途端、俺が宇宙一好きで宇宙一大切な人は美雪になり、それが変わることはない。愚かだろうと女の敵だろうとそれが俺ということも、正直に話したのだ。
最後の話に、混合人格はクスクス笑った。それまでは真面目に聴いていたのに、花も恥じらう笑顔で鈴を転がすように笑ったのである。そして、
「翔さんが想像したとおりの人だったことは、私の幸せです」
分かるような分からないようなことを言ったのち、混合人格は俺に頼んだ。「翔さん、私に名前をください」と。
もちろんですと答え熟考に入った。が、視界の端にモジモジする混合人格が映る。ギャップ萌えに命の危機を覚えつつ目で問うたところ、名付けに条件じみたものがあるらしい。多大な興味を覚え聴く姿勢を整えた俺に、混合人格は顔を真っ赤にして言った。
「呼び捨てにしてくれることと、ですます調ではなく普通に会話してくれること。この二つをイメージして、名前を付けてもらえると嬉しいです」
間違えてはならぬのは、呼び捨てにすることと普通に会話すること、ではないという事。混合人格が「してくれる」と吐露した真意を決して見過ごしてはならぬと、俺は自分に言い聞かせた。そんな俺の心臓に、二本の針が刺さる。翼さんと葉月さんも呼び捨てにされることを望んでいるが、俺はそれを叶えられない。なのに混合人格の願いは、叶えるという選択肢しか俺の中にないのだ。俺は二人に心から謝罪した。
という葛藤を、誤解したのだろうか? それとも、二本の針に貫かれた心では混合人格の名前を思い付けないことを看破したのだろうか? 混合人格は慌てた口調になり、俺に要望したイメージを取り下げるよう頼んできた。俺は首を横に振り、白状しますと朗らかに笑う。朗らかに笑えたことは、根拠のある自信にしてきっと良いのだろうな。
俺は話した。翼さんと葉月さんにも呼び捨てにされることを望まれていても、俺はそれを叶えられないこと。そのことに心が痛んでも、二人はもっと強い痛みに苦しんでいるのだろうと思わずにいられないこと。すると痛みは更に増すが、己への罰として甘んじて受けてきたこと。罰には、直前の前世で俺を好きになってくれた女性達の想いを悉く無視してきた悪行も含まれていること。きちんとお断りしていればその女性達が思い悩む時間を減らせたのに悉く無視した俺は、今生で苦しんで当然なこと。でも来世では解放されますように、といつも願っていること。それらを俺は、俺は・・・・
「今生で初めて、誰かに打ち明けることが出来ました」




