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その約1時間後。
飲み会はお開きになった。
美雪と冴子ちゃんは去年同様、母さんの膝枕でスヤスヤ眠っている。美咲はお酒を飲んでいないから、もちろん元気だけどね。でも混合人格の実装時、美咲はどうなるのだろうか? いや改めて考えたら実装時どころか、その前後も俺はまったく知らなかったのである。マヌケにも限度があるぞと頭を抱えた俺に、美咲が嬉々として語りかけてきた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」「どうしたんだい美咲」「そろそろ私、混合人格になろうか?」「兄ちゃんは馬鹿の極みでね。美咲がどんなふうに混合人格になるのかを、まったく知らなかったんだよ」「ううん、全然いいよ。混合人格は私でもあるから気にしないで」「美咲は優しいな、ありがとう」「やった~褒められた。ではもっと褒められるよう、混合人格に変身します。え~い!」
え~いってずいぶん軽いですね! と驚く俺をよそに、美咲は魔法少女の変身よろしくクルクル回って輝く白光に包まれた。え~いという掛け声もそうだったが、意外すぎるその軽さに俺は言葉を失ってしまう。なぜなら以前聞いた話では、実装が失敗したら美咲の消去もあるって事だったからさ。
しかしよくよく考えたら、それを馬鹿正直に伝えるなどあり得ない。よってこのように美咲はどこまでも明るく変身し、そんな妹に俺は微笑ましさを覚え、それも実験の成功率を上げる要素になっているのかもしれない。美咲にとって俺はいつも自分をニコニコ見つめている優しい兄だから、いつもの俺の方が美咲も緊張しないと思うんだよね。
ならば俺にできるのは、兄バカになることのみ。溺愛する妹の可愛い変身ぶりにいつもどおりデレデレ顔になるのが、俺にできる唯一のことなのである。大義名分を得た俺は一世一代のデレデレ顔で、変身が終わるのを待っていた。
ほどなく、光が収束し始めた。その様子を固唾を呑み見守る俺は、いけないと思いながらも混合人格時の容姿を考察せずにはいられなかった。単純に考えると、20歳の美雪と12歳の美咲の丁度中間の、16歳の容姿ということになる。前世の祖国の同年齢少女はかなりの割合で慢心Max状態に陥っていたため前世だったら「勘弁してください」と思ったはずだが、この星にそれはない。名家巡りで教える16歳の女の子たちはみんな素直で可愛いいこともあり、年齢が4歳加算されても妹として変わらず愛せると俺は確信した。
全体的な容姿の次は、顔の考察に入った。
美雪と美咲は、異なる顔をしている。とはいうものの俺が初めて美雪に会ったとき美雪は14歳くらいだったから、12歳の顔を知らないんだけどね。しかしそれでも14歳だったころの美雪を明瞭に覚えている俺は、二人の顔は違うと断言できる。曖昧さを拭えないが両者で最も違うのは、ギャップ萌えの箇所だと俺は感じている。
『美雪のギャップ萌えは、クールビューティーなのに柔らかな笑みをいつも浮かべているところ。対して美咲のギャップ萌えは、天真爛漫な笑顔をいつも振りまいているのにクールビューティーさが稀によぎるところ』
といった具合だろうか。美雪と美咲を知らない人にこんな説明をしたら「それって顔の違いではなく表情の違いなんじゃない」と、残念な人認定されそうだけどさ。
残念な人なのは正しいので表情の違いを基に話を進めると、16歳の混合人格の笑顔は「柔らかな笑みと天真爛漫な笑顔の中間」ということになる。残念さが益々際立つも開き直るとして、そんな笑顔が印象的な16歳の少女を思い描いてみたら悟った。
「前世の16歳の俺だったら、惚れちゃいそうなんですけど!」
自分が残念なことを、俺は骨の髄から悟ったのでした。フハハハハ!
まあそれは脇に置き、話を戻そう。
美咲を包んでいた輝く白光がみるみる収束していく。それはやがて人の形になり、美咲と変わらない四枚の羽根が認められたことに俺は深い安堵を覚えた。青い光の粒の舞う美咲の羽根が混合人格になることによって失われたら、俺は泣くみたいなのである。そんなの泣いて当然じゃん! と開き直りを更に加速させた俺の脳裏を、
「?」
違和感が駆けた。羽の長さの収束が、予想より早く終わりそうなのである。予想より早く終わりそうなのはもう一つあり、それは身長だった。つまり単純に考えると、混合人格の身長は美咲より高く、羽も少し長いということになる。でも落ち着いて考えたら、それって普通だよね。12歳が16歳になったら、背も高くなって当然だしさ。
と決めつけていた自分を数秒後、俺は罵倒することになる。
光が完全に収束し現れた姿が、予想とは違っていたのだ。
出現したのは、16歳の少女ではなかった。
23歳くらいの、前世の俺にとってある意味とても危険な年齢の女性だったのである。
前世の俺に、妻や恋人はいなかった。それどころか、恋心を抱いた人もいなかった。ただ犯罪者と罵られそうなのだけど、新入社員の子供っぽさが消えて信頼できる社会人になり始めた23歳もしくは24歳くらいの部下の女性を、度を越えて大切にしそうになる時期があったのはまこと危険だった。信頼できる社会人として歩み始めた最初の数年間の過ごし方には、将来を左右するほどの力があると俺は知っていたから、油断すると過保護ならぬ過大切にすぐなってしまったんだよね(最初の数年間で心身に染み込んだ仕事の質は、そうそう変わってはくれないのだ)。それは男性の部下も変わらないが、男は挑戦心と潔さの二つを習得すれば及第するのに対し、女性の部下は複雑だった。表現を変えると、男性の部下は同性として男の磨き方を身をもって示せても、女性の部下にはそれが不可能だったのである。女の磨き方を身をもって示すなんて、俺には無理だからさ。




