表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
901/929

254

 まあそれは置き、「美味しい果実リキュールを準四次元で云々」と尋ねたら、予想どおり姉達は飛びついた。お酒によほど拘りがないかぎり大抵の女性は果実リキュールを好むため、姉達が準四次元で開いているお菓子作り教室に、それは打ってつけのメニューだったのである。手軽に作れて色も奇麗で美味しいとくれば、当然かな。

 かくして姉達と俺は、とれあえず定番の林檎と檸檬、色の美しい苺とキウイの四品を作ってみた。料理の達人の小鳥姉さんが手掛けたため四つとも販売できるほど美味しく、


「よくぞ果実リキュールに気づいた!」「さすが我が弟!」「「ヨシヨシ~~」」


 と酔っぱらった姉達に頭を撫でられまくる事になってしまった。ま、全然いいけどさ。

 その後も様々な果物を試し、ホワイトリカーを変えてみたりしているうち俺は不意に思い出したのだ。「そういえば前世で幾度か飲んだ、柚子酒ゆずしゅは絶品だったな」と。

 前世の俺は、酒飲みではなかった。ただ行きつけのバーがあり、そこで出会った素晴らしい人達に美味しいお酒をたくさん紹介してもらったこともあって、バーでお酒を飲むのは大好きだった。そんなあるとき老バーテンダーが、今夜はこれを試しにどうぞと勧めてきたのが、思い出した柚子酒だったのだ。ホワイトリカーではなく日本酒を用いた、有名酒蔵製のその柚子酒は、味も香りも飛び抜けていたのである。基本的に酒飲みではなかったため自分で購入し自宅飲みしなかっただけで、あれはマジ美味しかったな。

 正直言うと前世の大学時代の俺は日本酒が苦手で、某グルメ漫画で目にした「アルコールを水で薄めて砂糖を入れたような味」に思わず拍手したものだ。けれどもそれは、俺が無知な貧乏学生だったからなのだと老バーテンダーが教えてくれた。本物の日本酒はまこと美味しく、その一つが柚子酒だったということ。そしてあの味を思い出した俺は、再びふと思ったのである。この星に柚子酒もしくは日本酒はあるかな、と。

 調べてみたら、柚子酒はなかったが日本酒はあった。試しに購入したところ前世で味わった本物の日本酒と遜色なく、小鳥姉さんにすぐ送った。もちろん「このお酒で果実リキュールを作れないでしょうか?」という一文を添えてね。前世の小鳥姉さんもかつての俺と同じく日本酒に良い印象を持っていなかったそうだが俺の送ったものは気に入り、日本のように酒税法違反にならなかったので様々な果実日本酒を試作してくれた。途中から俺も準四次元試作会に加わり、お菓子作り教室の皆さんも祭りに乗り遅れるなとばかりに集結していき、そうして完成したのが今俺のグラスに注がれている柚子酒だったのである。前世の柚子酒と方向性は違えど、肩を並べられる味と自負している。

 だがこれは、人用のお酒。どうすればAⅠ用のお酒になるのだろうと皆で首を捻っていたら、「呼んだ?」と母さんが現れた。母さんは大歓迎されとりあえず試飲してくださいということになり柚子酒を飲んでもらったところ、なんと絶賛してもらえたのだ。準四次元だったのでお世辞ではないと分かった皆の喜びようといったらなく、焼酎を使った果実リキュールも飲んでもらった。するとそれらも絶賛されたので、いつの間にか賑やかな宴会になってしまったのである。言うまでもなく、たった三人の男である俺と勇と昇は飲み物と食べ物を用意する役を仰せつかり、一滴の酒も飲めなかったけどね。ははは・・・

 そうそう勇と昇といえば、昇は「手伝いなさい」という鈴姉さんの鶴の一言によりお菓子作り教室の創設メンバーになっていた。一方勇は、教室に舞ちゃんが加わるや当然のように付いて来たという。昇は勇に泣いて感謝するも、勇は愛妻に会えて嬉しかっただけらしい。あ~はいはいという事でそれは置き、お菓子作り教室は「となりのトト〇」のコピーでも役立ったためメンバーは喜んでいたな。逃げ回っていた某男性達は、凹んでいたけどさ。

 話を戻そう。

 かくしてAⅠ用のお酒および果実ジュースは完成した。母さんと話し合い今年は柚子酒と柚子ジュースを美雪達に勧めることにし、口に合わなかった場合のみ別の物を出すと決まった。また俺だけが異なるお酒を飲んでいるのは母さんが誤魔化し、二回目のお代わり時に「ちょっと翔!」といちゃもんを付ける手筈になった。母さんは「いちゃもんなんて酷いわ」と嘘泣きしていたけど、これみよがしにスルーさせてもらった。

 という訳で話を再度戻し、今現在。

 お代わり一回目の梅酒のソーダ割りを豪快に飲み干した母さんが、


「あ! 翔だけ違うお酒を飲んでるズルイ~~!」


 演技皆無のいちゃもんを付け始めた。アルコールが入っていたこともあり、美雪と冴子ちゃんも文句をブ~ブ~垂れ始める。美咲までノリノリで加わっていたことに胸中涙しつつ、俺はAⅠ用の柚子酒の入った一升瓶と白磁の酒器を四個取り出した。そして酒器を手にした母さんに、「どうぞお一つ」と柚子酒を勧める。お酒をつぐとき特有の、


  トクトクトク・・・


 という音に三人娘は目を見開いた。そんな娘達に、お酒の作法を教える意味もあったのだろう。背筋を伸ばした母さんは瞼を伏せ、両手を添えた酒器を楚々と口元に運び、ゆっくり傾ける。その色っぽさに三人娘が息を呑んだ瞬間、母さんは艶やかな笑みを浮かべた。三人娘が「「「母さん奇麗、キャ~」」」と色めき立つ。俺だけは「和服を着て欲しかった~!」と、心の中で地団駄を踏んだけどさ。

 その後、美雪と冴子ちゃんにも柚子酒を勧めた。まあ大丈夫だろうと予想していたとおり、二人も柚子酒をたいそう気に入ったようだ。美咲だけ除け者にするのは忍びなかったが柚子ジュースが美味しかったこともあり、私も飲みたい系の駄々をこねることは無かった。多分としか言えないけど、母さんが何かをしたのではないかと俺は感じている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ