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そうこうするうち、俺の名家巡りが始まった。
前回同様今回も輝力弓の人気は高く、時間の半分をそれに割いたほどだ。割く価値が十分あったのは、顔には出さなかったけどマジ嬉しかった。戦士養成学校に入学している教え子たちは、気づいたようなのである。「死角から遠隔で矢を放てる輝力弓は、闇族との戦争で最高の不意打ちになるのではないか」と。
戦争では闇族1体に対し、小隊もしくは伍で戦う。1対多数ゆえ、
『闇族の正面にいる戦士は防御を主とし、背後にいる戦士は攻撃を主とする』
のが基本戦術だ。こんなの当然と思うのは正しく、なのになぜ生還率が10%しかないのだろうと疑問に思うのも正しい。単体の敵を複数で囲み背後から攻撃できるなら、生還率はもっと高くなるはずと考えて当然なのだ。高くならない理由は二つあり、一つは闇族は正面の戦士に突撃を繰り返すことで包囲を頻繁に抜け出すから。そしてもう一つは、背後からの攻撃だろうと接近戦をしかけるしかないからだ。実を言うと、闇族に正面突撃された時と背後から攻撃した時の、戦士の死亡率に差はない。なぜなら、闇族の力の源である尾骶骨腺は、輝力を纏った戦士の接近を敏感に察知してしまうのである。そう闇族にとって背中側は、輝力を纏った戦士が接近戦をしかける限り、死角ではないのだ。
けれどもそれは裏を返すと、「接近しなければ死角」ということ。よって輝力弓で遠隔から矢を放てば、死角からの攻撃になる。殺傷力も、矢と自分を輝力の紐でつなぎ輝力を注ぎ続ければ、維持できるしね。言うまでもなく、訓練は必要だけどさ。
その訓練成果を、名家巡りで俺に「診断してください」と頼む教え子が今回は一気に増えた。自ら考え、自ら決断し、自ら行動しなければ、人は成長しない。訓練成果の診断を俺に請うのは、それに沿うと言える。まこと喜ばしい限りだ。また俺の診断は、量子AⅠのデータ蓄積にも有用らしく鷹司令官に感謝された。輝力弓は戦争で使われたことがなく、子供達が放った矢の殺傷力を量子AⅠは自信をもって評価できない。人工島の生きたゴブリンを俺が弓矢で倒す様子を解析すれば目安になっても、推測の域を出ないのである。その推測の精度を、子供達への俺の評価は高めることが出来る。俺は、本体に訊いたりアカシックレコードを見たりした上で評価しているからさ。
またその評価を量子AⅠに伝えるさい、美咲が非常に役立った。子供には面と向かって言えない評価も、胸のペンダントにいる美咲にならテレパシーでこっそり伝えられるからだ。美咲も役に立てたことをとても喜んでいたし、俺も名家巡り後の事務仕事から解放されたし、良いこと尽くしだったな。
かくして一回目の名家巡りは順調に終った。ならば次のイベントは、冴子ちゃんとの飲み会。冴子ちゃんと去年約束した、年に一度のアレだね。一回目の名家巡りで不測の事態が起きなかったこともあり、飲み会は去年と同じ日に決まった。また美咲には伏せているけど、何気に美咲は今回の飲み会の最重要人物だったりする。飲み会で美雪が寝てしまったあと、美雪と美咲の混合人格が初めて実装されるからだ。美雪によると混合人格は、コンピュータの次元で何百回も形成され、様々な検証を終えているという。よって基地での生活および訓練なら支障は出ないが、人工島の生きたゴブリンとの戦闘で支障が出ないかは、実際にしてみなければ判らないらしい。飲み会後に人工島へ向かわねば、判断できないのである。という訳で美咲は、今回の飲み会の最重要人物ということ。本体が大丈夫と言ってくれているから、心配はしてないけどさ。
そうこうしているうち迎えた、飲み会の日。
となりのトト〇関連の二曲のレコーディングを、100点満点で終えたあと。
母さん、美雪、冴子ちゃん、美咲、そして俺でグラスを高々と掲げ、
「「「「カンパ~イ!」」」」
の音頭と共に飲み会が始まった。全員が全員と鳴らしたグラスを、口元に持ってきて傾ける。示し合わせた訳では決してないのに液体を嚥下する音は一度も止まず、
「「「「プハ~~~!!!」」」」
最初の一口で全員がグラスを空にしてしまった。空になったグラスに誰ともなく笑いだし、全員で爆笑する。その後「「「「お代わり!」」」」と一斉に突き出されたグラスに梅酒のソーダ割りもしくは梅ジュースを注いだ俺は、女性陣のキャイキャイに加われずとも楽しげな女性陣を眺めているだけで、極上のひと時を過ごせたのだった。
そのひと時の一助となったのは、俺のグラスを満たす柚子酒だった。実を言うと俺だけは皆と異なり、絶品の柚子酒を飲んでいるんだね。もちろん皆が二度目のお代わりを俺に要求したら、柚子酒もしくは柚子ジュースを勧める手筈を整えているけどさ。
話は、約一年前にさかのぼる。
去年の飲み会では、梅酒のソーダ割りが大好評だった。飲み会において美味しいお酒は、最重要要素と言える。その最重要要素で大好評を得られたのだから去年はそれで百点満点だったが、今年も梅酒のソーダ割りしか用意していなかったら減点は免れない。楽しみに一年間待ったため喜ばれるのは間違いなくとも、年に一度のイベントではサプライズも重要なのである。「キャ~今年のお酒も美味しい~」って女性陣に喜んでもらえたら、俺もメチャクチャ嬉しいしさ。
かくなる理由により約一年前、俺は小鳥姉さんと鈴姉さんに相談した。「美味しい果実リキュールを、準四次元で作れないでしょうか?」と。
ちなみに、果実リキュールと果実酒は異なる。果実酒の方が理解しやすいのでこちらを先に取り上げると、葡萄を発酵させて造ったワインは果実酒だ。原材料の果実を発酵させることによってアルコールを生成しお酒にしたのが、果実酒だね。この発酵によるアルコール生成を行わないのが、果実リキュール。日本人には、梅酒が馴染み深いだろう。梅酒のアルコールは、材料として用いたホワイトリカーのアルコールでしかない。ホワイトリカーは簡単に言うと、無色透明で香りやクセの少ない焼酎のこと。その焼酎に梅を漬けることで梅の成分を焼酎に染み込ませたのが梅酒、つまり梅リキュールだ。同様の手法で林檎を漬けたら林檎リキュールになるし、桃を漬けたら桃リキュールになるということ。




