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 その道中、美咲が俺以上に悲しんでいることにようやく気付いた。12歳の美咲は、童心を多分に残している。その美咲にとって子竜達は、同じ子供として遊べる得難い友人だったのだ。そんな美咲の胸中を、俺は自分の気持ちばかりを優先したせいで見過ごしていたのである。罪悪感が噴出するもそれは後回しにし、美咲を笑顔にする方法を探していく。幸いすぐピンときて、2D画面を立ち上げ調べてみる。トト〇の映写機を本日使うのは、裕也さんらしい。メールを送ったところ、「使うのは就寝後だから午後9時まではご自由に」とのことだった。裕也さんにお礼を述べ、有難く借りることにした。

 さあ次は、実体の方だ。何気に映写機の実体は、俺もまだ見ていないんだよね。ワクワクしながらテレパシーで母さんに尋ねたところ、「いいわよ~」と気軽に返してもらえた。感謝のテレパシーを送ったら、竜族のピアノの件でとても丁寧にお礼を言われてしまった。母さんはまこと、この星全体の母親なのだな。

 基地に着き、美雪と美咲を体育館の生活スペースに誘った。美雪は2D画面をチラ見していたので予想していたようだけど、車外の景色を悲しげに見つめていた美咲は「何するの~」と俺の周囲を飛び回っている。「それは後のお楽しみってことで」「もう、お兄ちゃんのイジワル!」 俺をポカスカ叩く美咲に、笑い声が自然と零れた。

 体育館の生活スペースの椅子に腰かけた俺達に合わせ、母さんがテーブルの向かいに3D映像で現れた。美咲が歓声を上げ、母さんの胸にダイブする。竜族の幼稚園では甘えられなかったから、お預けをくらっていたようなものだったのだろう。童心を多分に残す猫可愛がり可能な美咲は、母性の宇宙代表を張る母さんにとって得難い存在らしい。母と娘の貴重な時間を邪魔せぬよう、隣に座る美雪に俺は小声で話しかけた。


「美雪」「どうかした?」「冴子ちゃんも呼ぼうと思うけど、俺が連絡したら飲み会の連絡が来たって糠喜びさせてしまうかもしれない。飲み会は来月必ず開く、今日は別のイベントだよ、所要時間は2時間くらいかなって、俺の代わりに伝えてもらえないかな」「うん、任せて。翔、気を遣ってくれてありがとう」「どういたしまして」


 母さんが3Dでやって来たのは、冴子ちゃんにも映画を見せてあげたいという意思表示だったのではないか? 「その正誤は判らないけど、冴子ちゃんも初めから呼ぶつもりだったよ。安心して母さん」 とテレパシーではなく心の片隅で一瞬考えただけなのに、ビエ~ン級の概念テレパシーを母さんは送って来たのである。筒抜け率が戦慄不可避なのはさて置き、母さんはまことこの星全体の母親なのだなあと、つくづく感心した俺だった。

 などと思っているうち、冴子ちゃんも現れた。美咲は嬉しくてならないのだろう、羽ばたきによって生じる光の粒が普段より多くなっている。青く輝く光の粒の謎は未だ解けないけど、こんなふうに役立つのは事実なんだよね。美咲との再会の挨拶に大忙しの冴子ちゃんに会釈し、俺はテーブルを離れて準備に入る。母親と娘達のお喋りタイムを邪魔したくないのでアカシックレコードを見たところ、予想どおり映写機にはシアター仕様があるようだ。体育館の奥に映画館のスクリーンを輝力で創造し、特等席の場所に輝力製の座席を三席創る。長時間座っても疲れない高級版にして、三席は横並びにした。俺はその後ろに自分用の座席を設置したけど、文句を言われたら移動しないとな。

 さて次は、映写機を置く台だ。母さんの友人の映写機なのだから、万が一にも壊してはならない。堅牢な実物の台が、倉庫にあったかな? とりあえず意識投射し基地の倉庫を探したところ、うってつけの物を見つけた。俺は輝力圧縮1千倍を発動し、それを持ってくる。乾拭き込みでも10秒かからなかったし、女性達を待たせてはいないだろう。

 かくして準備は整った。テーブルに戻り、席の移動を女性達に促す。快く了承してくれた女性達をさりげなく台に誘導し、母さんに請うた。


「母さん、ご友人の映写機をここに置いて頂けますか」


 いいわよ~という軽い口調に全くそぐわない、空間を割って出現するという方法で実物の映写機が台の上に置かれた。この星のマザーコンピュータに次ぐ高性能AⅠの美雪と冴子ちゃんには、特別に感じるものがあるのだろう。二人は瞠目し身をかがめ、映写機をまじまじと見つめている。よくよく考えたらコレって、古代アトランティスで建造された要塞型飛行車以外で二人が初めて目にした、古代アトランティスの技術を継承する工業製品だった。しかもその上、この星の科学技術を超える一品だったのである。「考えなしの権化が、またやらかしてしまいました」と謝罪した俺を、母さんは笑って許してくれた。

 輝力製の椅子を創り腰かけ、輝力製の手袋をし、会釈してから映写機を手に取る。内臓AⅠと面識があったこともあり、シアター仕様で「となりのトト〇」を再生する設定がすぐ完了した。続いて美雪と冴子ちゃんに「座席に案内するよ」と語りかける。二人は映写機への未練を断ち切り、俺に付いてきてくれた。冴子ちゃんが俺につと身を寄せ、招待されたお礼を述べる。「好評だったら映画鑑賞会をまた開こうかな」「期待しているわ」 短いやり取りだったけど、付き合いの長さが教えてくれた。冴子ちゃんは今、とてもウキウキしているのだと。

 俺の席だけが後ろにあることへの不平は、幸い出なかった。狙いどおりそれは、美咲の功績らしい。横並びの三座席ということは自分は母さんの膝で映画を観るんだヤッターと美咲がはしゃいだため、俺に小言を言って場に水を差すことを母さんが控えたのである。小言が無かったのはありがたいが、それはソレこれはコレ。俺は美咲の前に片膝つき、宙に浮くタイプの美咲専用椅子を準四次元から取り出した。


「喜ぶ美咲に同意だけど1時間半近く膝に座られたら、母さんは体が凝ってしまうかもしれない。母さんの膝の上に浮くことができるこの椅子で、我慢してもらえないかな」


 俺は美咲をそう諭した。美咲はハッとし、自分勝手だったことを母さんに詫びる。「そういうのも込みで可愛いのだから安心しなさい」と母さんに頭を撫でられた美咲は、膝で映画を観る以上にはしゃいでいた。

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