247
水を飲みに行ったりトイレを済ませたりした子竜達が、俺の周囲に全員集まった。「さあみんな、楽器保管庫へ行こう」「「「「キュル~~!!」」」」とワイワイしつつ楽器保管庫へ向かう。とはいえ、いかに子竜でも20頭全員が楽器保管庫へ同時に足を踏み入れるのは不可能。子竜達の後ろに成竜達もぞろぞろ付いて来ているなら尚更なのだ。よって保管庫の前に、床面積を25倍にした輝力製の保管庫を一時的に創り、その中に入ってもらった。こんな些細なことでも嬉しくて堪らないのが、子供なのだろう。しかも「「「「先生凄い!」」」」と褒めてくれるのだから、堪ったものではない。子供と大人をこのように創った創造主へ、感謝と敬意を改めて捧げた。そして、
「はい、注目してください」
俺は竜達に呼びかけた。夏季休暇前は無かった二つの台座を、竜達全員がキラキラ輝く瞳で見つめている。台座上部へ皆が視線を注いでいるのを確認し、俺は説明した。
「右の台座は成竜用、左の台座は子竜用とします。台座上部には窪みがそれぞれ20ずつあり、窪みの一つ一つに指輪とペンダントが・・・」
窪みをどのように割り振るかは、竜達に決めてもらうこと。指輪とペンダントも楽器同様、1日8時間は保管庫に収納すること。指輪は右手の指に通し、ペンダントは首に掛けること。成竜用の指輪とペンダントは夫婦で共有すること。夫婦の五指のどれにも指輪が通らない場合は大きさを調整するので、遠慮せず申し出ること。まずはこの五つを説明し、質問の有無を問うた。なかったので輝力製の保管庫を消し、本物の保管庫を指さす。そして、本日の山場となる言葉を放った。
「さあでは、本物の指輪とペンダントを使って輝力製のピアノを出してもらう役を、成竜と子竜の一頭ずつに頼もうかな。誰にする?」
その途端、全ての竜が輝力の右手を「「「「はい!」」」」と勢いよく挙げた。俺はすかさず40体に分身し、竜各自に輝力製お手玉を三個ずつ放り投げる。俺の意図を理解したのだろうみんなニヤリと笑い、三個のお手玉を器用に受け取った。俺は美雪と美咲に頼み、
「「第一回、お手玉を一番長くするのは誰だ大会!」」
とテレパシーで華やかに宣言してもらった。可愛い「キュル~」と野太い「ガオ~」が空気を盛大に震わせる。一拍置き、成竜達が後方にドスドス走って各々十分な広さを確保し、それに倣い子竜達も広さを十分確保した。俺は声を張り上げ、「お隣さんとぶつかりそうになったら一度目は俺が輝力クッションで防ぎ不問にしますが、輝力クッション二度目で両者失格にします」と伝える。それを受け各々がスペースをもう一段広く取ったところで、美雪と美咲に「「10、9、8・・・」」とカウントダウンを始めてもらう。そしてカウントゼロで、竜達は一斉にお手玉を始めた。
何気にお手玉の一つ一つには、俺が輝力で創った簡易反重力装置が入っている。母さんに「これを一瞬で創れるのは、大聖者以外では翔だけね」と褒めてもらえた一品なのだ。まずい、思い出しただけで尻尾ブンブンになりそうなので記憶を引っ込め、成竜達へ視線を向けたところ、次期長の山風がやはり頭一つ抜けているみたいだった。園長夫妻も手堅くしているけど、美雪に頼み心拍数を計ってもらっている。美雪の判断で反重力ペンダントを遠隔作動させることと、それでも心拍数上昇が止まらないなら園長夫妻にテレパシーで中止を促すことの二つも頼んでいた。むむ、園長の反重力ペンダントが作動したようだ。一応アカシックレコードを見たところ、夫妻は美雪のテレパシーを素直に受け入れていた。夫妻のことは美雪に任せ、俺は子竜達へ目を向けた。
予想どおりお手玉の精度は、鈴桃が頭三つほど飛び抜けていた。両手の器用さ、突然の競争でも落ち着きを保つ精神力、お手玉に全てを注ぐ集中力、そのそれぞれで頭一つ抜けているのだから、三つ揃えば無敵なのである。さすがと感嘆するより、背負うものが大きすぎ負担になりやしないかと案じてしまう、親バカな俺だった。
そうこうするうち成竜に脱落者が出始めた。元頭の夫妻達がそれだね。高齢なのに輝力工芸スキルという新しいことに挑戦し、三個お手玉を習得してみせたのだから、尊敬の念しかない。俺はそれをテレパシーで伝え、元頭達を称えた。それを元頭達は素直に受け止めるも、自分達より高齢の園長夫妻が十数秒とはいえ長くお手玉を続けていたことが、悔しくてならないようだった。
成竜で最後まで残ったのは、山風だった。成竜達の拍手と賞賛を浴び、山風がお手玉を終える。ふと脳裏を、ピアノを弾きこなす山風の姿が駆けて行った。
山風が成竜部門を制したのと同時に、子竜に初めての脱落者が出た。拍手に気を取られお手玉をミスしたのが、悔しくてならぬのだろう。その子は地面に突っ伏して泣いた。その途端、鈴桃を含む全ての子竜のお手玉が乱れた。俺はことさら落ち着いたテレパシーで、子竜達に語りかけた。
「友達想いの皆に、敬意を捧げる。その上で、運命を作曲したベートーベンの生涯を思い出してほしい。皆、自分自身と闘うんだ」
「「「「はい、先生!!」」」」
乱れが一斉に消え、今始めたばかりのように子竜達はお手玉に集中した。「導き役を翔に頼んで正解だった、ありがとう」という、創造主の声が聞こえた気がした。
子竜でお手玉を最後までしていたのは、鈴桃だった。闘う相手は己のみ、を習得しつつある子竜達の拍手はまこと清々しく、元頭達は少しばかり居心地が悪そうだったな。
それはさて置き大役を担うことになった山風と鈴桃に、俺は説明した。
「台座の前に立ったらまずペンダントを首に掛け、続いて指輪を指に通してください。慣れ親しんだ指の太さで作業することは、指輪のサイズを変える手間より遥かに重要です。指輪のサイズ変更を、遠慮せず申し出てくださいね」




