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幸い、爆弾発言の回避に役立つ出来事が俺には二つあった。一つは出来事というか、一年間の対策期間を設けられたこと。誰にも明かしてないが俺はこの一年間、準四次元で秘密の訓練をしてきた。去年ほんの数秒だけ対面した3歳の美雪と冴子ちゃんを思い出し準四次元に出現させ、普通に交流できるよう訓練してきたのだ。当初は「思いっきり可愛がることで可愛がりたいという欲求を満たす」という訓練方法にしていたが、眼前に現れた3歳の美雪と冴子ちゃんを目にするや、己の間違いを悟った。無限に可愛がろうと欲求を満たすなど不可能と、骨の髄から知ったのである。よって訓練方法を変更し普通に接するよう努め、たとえ身を切り刻まれるような苦痛を味わおうとそれを貫き、俺は一年間を乗り越えた。週一回の訓練だったけど、最初の方は寿命が縮むと本気で思ったものだった。
爆弾発言の回避に役立つ二つ目の出来事は、母さんの友人さんの映写機で訓練できたことだ。映写機には古典AⅠが内蔵されていて、仕組は解らないがその内蔵AⅠと準四次元で会話できた。ということはその仕組みを解明すれば、美雪と準四次元で会話できる可能性を高められるはず。にもかかわらず、俺はそれを解明しなかった。美雪と準四次元で過ごすことを、俺は手放していたからである。しかし永久に手放すのは無理と悟り「戦争に勝ったら自分へのご褒美として解明を試みてよい」と勝手に決めたのだがそれは置き、仕組を解明しなかったことは、4歳の美雪と冴子ちゃんとの交流にも役立った。白状すると二人にも「戦争に勝てば云々」を、適用したに過ぎないんだけどさ。
ともあれ俺は、幸運な二つの出来事に恵まれた。よって命がけになれば二日目を凌げるはずと予想し、そして迎えた二日目の昼食後。
「翔」「うん」「そろそろ来るみたい」「うん」「準備できてる?」「・・・うん、できてる」「う~ん不安は残るけど、当たって砕けますか」「むむ、俺は砕けないぞ!」「ふふふ、少し安心した」「お兄ちゃん、ファイト!」「ありがとう美咲」
というやり取りの数秒後、ママ先生達の乗った飛行車が空に現れた。それは、凌げた。着陸した飛行車からママ先生が降りた時も、去年の経験が活きどうにか凌げた。だが、翔丸と手を繋いだお子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんが目に映るなり、心臓が張り裂ける寸前になったのである。つくづく思った。いつまで経っても俺は馬鹿だなあ、と。
しかし俺は馬鹿でも、肉体意識はそうではないらしい。肉体の生存本能が作動し、お子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんを目に映らなくしてくれたのだ。しかもその隙に心臓を張り裂ける一歩前に戻したのだから、肉体意識には感謝しかない。俺は肉体意識にお礼を述べつつママ先生達との再会の挨拶を過不足なくこなし、
「では去年の展望台と滑り台を、さっそく創ります」
と続けることで子供達の視線を菜の花畑へ向けさせた。よほど楽しみにしていたのだろう、子共達が菜の花畑へ一斉に駆けていく。その子たちの後をゆっくり追いかけながら輝力製の展望台と滑り台を創り始めることにより子供達から視線を自然に外し、子供達に怪我をさせぬ頑丈かつ安全な展望台と滑り台の創造に集中することで、心拍数を少なくしていった。二つが完成するや子供達は俺そっちのけで遊び始め、楽しげなその姿に心臓が元の状態を取り戻してゆく。俺は輝力分身を三体出し、階段の登り口と左右の滑り台の降り口に立ってもらう。そして穏やかな時間を過ごすべくママ先生達のいる場所に戻り、屋根付きの休憩所を創った。そこに座り美雪と美咲も交えてお喋りを楽しむうち、最初の山を乗り越えた実感を俺は得たのだった。
最初の山、という感覚は正しかった。合計三度、山はあったんだね。二度目はママ先生が「去年いなかった美雪と冴子です」と二人を俺に紹介したとき、三度目は二人になぜか懐かれ、他の子たちが展望台で遊んでいても俺のそばを離れようとしないときだった。正直言うと三度目は爆弾発言をするダメ俺が目前まで迫り、目前ゆえか涙が止まらず、二人をたいそう心配させてしまった。けどそれが良い方に転んだのだから、宇宙はまこと分からない。二人は俺を心配し慰めているうち自分も泣きたくなったのか俺に抱き着いて泣き、三人でオイオイ泣いていたところ、心が満たされたのである。心が満たされたのは二人も同じだったらしく、ママ先生に呼ばれてやって来た翔丸が二人の間に座るや、二人は俺そっちのけで翔丸とお喋りするようになった。ちょっぴり寂しいけど、俺は何もしてあげられないのだからこれが一番。ただママ先生にはバレていて去り際、
「美雪と冴子の父親に一瞬なっていただいたことを、感謝します」
と耳打ちされてしまったんだよね。さすがでございます、ママ先生様。
ママ先生達の乗った飛行車が、空の彼方へ消えていく。
去年同様、今年も素晴らしい交流が沢山あった。ママ先生と会話するだけで幸せだったし、子供達は可愛かったし、旭さんの歌を伴奏するのも楽しかった。でも、来年の約束はしなかった。理由は、一から十まで俺にある。交流をこれ以上続けたら、ママ先生達は俺に違和感を覚えるようになるのだ。軍事機密があるにせよ、空翔は不可解すぎると。
ママ先生達のいる世界と、俺のいる世界。二つの世界の差異を最も意識しているのは、俺で間違いない。俺の中にあるその意識がこれ以上大きくなると、ママ先生達はそれを俺への違和感として感じ取るはず。いやおそらく、ママ先生は既に何かを察していると思われる。去り際に俺の胸中を、正確に言い当てた人だからね。
という俺の考察が正しいことを、母さんは教えてくれたのかもしれない。
「ママ先生達の乗った飛行車、不意に消えたね」「この星の3D技術より、翔の視力の方が勝るのはいつものことでしょ。ということに、してあげて翔」「うん、わかってる」
去年の夏、ママ先生達と初めて交流した日の夜、母さんは俺に謝罪を繰り返した。謝罪の理由に嘘はなくとも、あの説明がすべてではないのも事実だった。「ママ先生達のいる世界を消したくないなら、会うのは次で最後にしてね」 母さんは胸の内で、きっとそう言い続けていたのである。母さん、今度お会いしたら深くお詫びします。
不意に消えた飛行車の方角を見つめつつ、俺は心の中でそう呟いたのだった。




