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 磁気を照射する方法が優勢になった理由には、意識の照射は困難ということもあった。フィルムに照射する無色透明の光に相当する「感情皆無の意識」を創造し照射することが、果たして可能なのか? 不可能ではないにせよ磁気より遥かに難しそうと、皆は感じたのである。むむう、俺も同意見だな。

 また目の錯覚を利用しないと成立しないフィルム形式より、カセットテープ形式の方が良いということにもなった。かくしてこの件に関する議論は、「意識を封じるに適した物質を次回までに各自が調べておくこと」でまとまった。これは前進に違いなく、そしてどんな些細な前進だろうと達成感と安堵を生むもの。今回も例外ではなく、弛緩した空気が場に広がっていく。その空気を読まず、俺は発言した。


「皆さんが今まさに体験したように、テレパシーの録音再生方法を俺達はまだ全く解明していません。このまま解明できず、舞台袖から観客にテレパシーを送る方法を採用せざるを得なくなるかもしれないのです。その方法は、長時間の訓練が不可欠のはず。よって油断せず、自分が担当する344秒間の模写をコツコツ進めておくことをお勧めします」


 幸い賛成をすぐ得られ、映写機を借りる順番を決めることになった。それと同時に、母さんの姿が一瞬ぶれる。ピンと閃き「今の一瞬で自分の担当箇所を終わらせたのですか?」と尋ねたところ、母さんはおどけて頭を掻いた。皆にさすがと誉めそやされ、母さんはまことニコニコしている。40年の交流からそれが本物のニコニコと悟った俺は、親孝行のできるこの時間に心の中で手を合わせたのだった。


 音楽仲間達が映写機を借り、模写を進めていくことは極めて順調に推移した。芸術的な創作活動を子供達のためにしてかつ充足感を得られるというのは、楽しいことなのである。それもあり当初決めた「模写の終わった人は遅れている人を手伝う」は、良い意味で一度も行われなかった。楽しい時間を強奪することに、なるからさ。

 前回の会合で決まった「意識を封じるに適した物質を次回までに各自が調べておくこと」も、想像を超えて順調に推移した。意識投射して物の中に入ることが全員可能なため、意識を封じるに適した物質の割り出しが素早く進んだのである。見つけた物質の分子構造を準四次元で再現し学術的に研究できる仲間が俺以外に三人いたことも、高速割り出しに貢献した。昇と鷲と橙が、その三人だね。反重力エンジンの勉強がこのような形でも実ったことを、三人はすこぶる喜んでいた。

 したがってそちらは三人に任せ、俺は磁力を照射する機械の模写に従事した。この星の通販サイトを覗いたところ、驚くべきことに磁力照射機が複数販売されていたのである。用途は見当つかずとも、値段はそれほど高くない。然るに購入し、輝力で模写し、昇達が準四次元で行っている「情緒テープ実験」に使ってもらったのだ。

 そうそう情緒テープとは、感情を封じ込めるテープのこと。昇と鷲と橙は研究者と開発者に天分があったらしく、開発速度に幾度も目を奪われたものだ。分子構造を準四次元で無料無制限に創って試せるというのはチートと、俺は結論した。

 一方女組は、登場人物のテレパシーを担当するオーディションに熱を入れていた。サツ〇役とメ〇役を勝ち取ることに、燃えていたのだ。燃えると言っても、母さんも加わっていたからキャッキャしていたな。ただ俺だけにこっそり明かしてくれたところによると、「青春時代を思い出させてくれたお礼に、隣人のお婆さんの役をするつもり」とのことだったのである。母さんなら十代前半の少女も十分こなせるのにもったいない、と素で述べたら大変なことになった。「キャ~翔~」と、俺にしがみ付いて離れなくなったんだね。胸が当たらぬよう気を使ってくれたし、これも親孝行と諦めた俺だった。

 ちなみにトト〇の女性登場人物と、母さんを加えた女組はどちらも8人だから、数字だけを見ると全員が役を持てるように感じる。しかし主要な3人以外にセリフはほぼ無いため、水面下では熾烈な争いになっているのではないかと男組は案じていた。一応の対策として、トト〇に出番の少なかった人が映像作品三作目の主要キャラになるよう提案しているけど、人には向き不向きがあるのが正直なところ。声優というかテレパシー優に天分のある人が主要キャラを務めるのが、やはり公平なのだろうな。

 一方男組は、ジャンケンで決めることになっている。ただしそれはトト〇に限り、三作目はオーディションが必要になるだろうと男達は推測していた。なぜ推測かというと、三作目を俺は皆にまだ明かしていないんだよね。例外として、翼さんにはバレてるけどさ。

 そうそう翼さんといえば、「夏季休暇中の鈴桃の訓練について」というタイトルのメールを先日受け取った。急く気持ちを必死に宥めて目を通したところ、ピアノのこっそり訓練はしないと翼さんは決めたらしい。鈴桃はまこと充実した夏季休暇を過ごしており、訓練を追加したら過剰になると判断したそうなのである。ならばそれに、同意するのみ。その旨と感謝を綴った返信を翼さんに送ると共に、


「夏休みを楽しめ鈴桃」


 と、隠れ親バカな俺は鈴桃にエールを贈ったのだった。


 ――――――


 そうこうするうち、俺も夏季休暇が始まった。長期休暇と言えば冒頭の三日間のバカンスであり、そして今回のバカンスは去年から決まっていた。一年前と同じ、大河の川下りをしたんだね。三日間で訪れる場所も一年前と変わらず、初日はネモフィラ畑、二日目は菜の花畑、三日目はチューリップ畑になっていた。二日目にママ先生達に会うのも変わらないが、前回と異なることが二つあった。一つは、美咲がいること。もう一つは孤児の中に、4歳のお子ちゃま美雪とお子ちゃま冴子ちゃんがいることだ。バカンス一日目の晩、俺は命がけで自分に言い聞かせた。「二人が愛しくてならずとも『養子にする』等の爆弾発言をしたら、絶対ダメなんだからな」と。

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