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 地球の記憶は年々薄れていき詳細は思い出せないが、たしかacost〇!は年間動員数20万人以上の、日本最大のコスプレイベントだった気がする。本体に尋ねても否定されなかったのでそう説明し、コスプレを楽しむ人達を輝力で再現したところ、母さんが鼻息を荒くした。尋常ではない興味を、抱いたみたいなのだ。身分は高くとも選民意識を持たない人が平民の振りをして市井に触れ、貴重な学びを得る物語は無数に存在する。それは大聖者も例外ではないだろうし、またストレス発散にもなるはずだから、母さんの友人がコスプレを趣味にするのはとても良いことに俺は思えた。そう述べたところ「ありがとう翔」と、母さんに言ってもらえたしね。

 それにしても地球では、コスプレイベントが2060年代後半も楽しまれているみたいだ。地球に行くことを禁じられているので案じていたけど、想像以上に平和なのかもしれない。弟妹甥姪等々が、幸せに暮らしていますように。

 話を戻そう。

 母さんの手元に現れた一辺12センチほどの立方体の機械は、やはり映写機だった。ふと思い「他にも複数の映画が入っているのでしょうか?」と尋ねたところ、にっこり笑って手渡された。友人はお茶目な人らしく、使用方法を伝えてこなかったらしい。それでも母さんならお茶の子さいさいだろうにこうして丸投げするのだから相応の理由があるに違いなく、機械を起動し2D操作パネルを出し記録データ一覧を確認したところ、アニメ漫画ファイルがあった。有頂天になりかけた自分をねじ伏せ、ファイルを開く。俺はその5秒後、10秒間の瞑想を行った。我を忘れて喜びそうになった自分を落ち着かせるには、10秒間の瞑想が必要だったのである。だってしょうがないよ、アニメと漫画合わせて1千作ほどが記録されていて、その中にキングダ〇全巻(完結済)を始めとする沢山の未読漫画を発見したんだからさ。ヤバい、タイトルを思い出しただけでまた興奮してきたぞ!

 という自分を再度ねじ伏せ、落ち着いて母さんに語りかけた。


「竜族に紹介する予定のアニメ映画は、上映時間86分です。準四次元に映画館を創り、音楽仲間達に観てもらおうと思っています。母さんも都合がつけば、ぜひお越しください」「私も見ていないから絶対行くわ。友人も絶賛していた映画なの、楽しみにしてるね」


 さすが母さんの友人、解っていらっしゃる! との言葉に母さんが笑み崩れたのを機に、その夜の会合は終了した。


 翌日の午後7時。

 カレンに乗り、肉体で竜族の幼稚園を訪れた。楽器格納庫の前で輝力製のバイオリンを創造し、続いてそのバイオリンから輝力を少しずつ吸い取っていく。半分吸い取ったところで指輪に収納し、格納庫内へ足を踏み入れる。そして格納庫中央の空いているスペースに輝力製の台座を創り、その上に指輪を置いた。


 同日の夜。

 俺が準四次元に創った映画館で、音楽仲間達のために「となりのトト〇」を上映した。日本においてこの映画はお約束中のお約束でも、竜族にとって映画視聴は史上初のこと。しかも7歳と6歳の子竜を含むとなれば、トト〇以上の映画はないと俺は確信していたのだ。言うまでもなくそれは当たり、上映が終わるや館内に大絶賛の嵐が出現した。印象が強烈すぎたのだろう「凄い!」「最高!」「こんなの観たことない!」系の語彙力の貧弱な感想ばかりが十数秒間飛び交ったのち、各自が思い思いの名場面を左右の人と語り合っていた。耳を澄ませたところみんな見る目があり、名場面とそれへの評論がまこと的確で、俺は嬉しくて堪らなくなってしまった。愛してやまない神作を正当に評価してもらえる喜びは、格別だからさ。

 そんな感じに館内は盛り上がっていたけど、様相の若干異なる場所が二カ所あった。一つは、勇と舞ちゃんが並んで座っている場所。元地球人の勇はトト〇を観ており、それだけなら舞ちゃんは羨むのみだったと思う。しかし、同系列の映画を勇が十本近く観ているとなれば話は違ってくる。「自分だけズルい!」と、舞ちゃんは勇に掴みかかっていたのだ。保育士かつ妖精と交流のある舞ちゃんは、子供と妖精が大活躍するトト〇にド嵌りしたようなんだよね。掴みかかると言っても夫婦のイチャイチャの範疇だし、愛妻家の勇は嬉しそうに目尻を下げまくっているから、放置しているけどさ。

 変態性癖云々が頭をかすめたため放置に徹するとして、例外のもう一カ所に移ろう。

 年代的にトト〇を観れた元地球人の音楽仲間は、俺と勇以外にもう一人いる。それは、翼さんだね。ならばもう一つの例外は翼さんと予想するのが順当だけど、場所的に僅差で違った。翼さんの右隣に母さんが座りその右隣が俺で、その母さんと俺が例外だったのだ。母さんは「となりのトト〇」に、超ド嵌りしたのである。

 母さんは、宇宙を代表する母性の持ち主。そんな母さんにとって、病気の母を案じつつ健気に生きる幼い姉妹の物語は、ヤバいの一言だったらしい。とりわけヤバかったのが、メ〇ちゃんが迷子になるきっかけの場面。「このトウモロコシを食べたらお母さんはきっと元気になる」と閃いたメ〇ちゃんがトウモロコシを抱えて走り出す場面以降、母さんはずっと大泣きしていたのだ。それどころかお婆さんが地に膝をつき池を拝んでいる場面では、映画館の床に自分も膝をついて拝むほどだった。だから猫バ〇が現れ行先が「め〇」になった時は飛び上がって喜び、メ〇ちゃんを見つけた時は連続ジャンプし、そして猫バ〇の行先が母親の入院している病院になった時は、


「この映画監督は神よ、映画の神として崇められるべきだわ!」


 と称賛してやまなかったのである。昭和40年代生まれの元日本人のアニメ好きとしては、正当な評価をくだす母さんに手を合わせずにはいられなかった。が、


「ちょっと翔、なにメンドクサそうな顔をしているのよ! 私の感想をもっと真剣に聴きなさいよ!!」

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