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 17連続童貞人生の俺でも指を離された後は気まずい空気になるのは容易く予想でき、並行世界のハーレム俺もそう予想していたのだけど、実際は違った。翼さんは、満ち足りたニコニコ顔で俺の隣に座っていたのである。ハーレム俺は首を捻っていたが俺には何となく解り、然るに俺もニコニコ顔になったところ、言葉が自然に出てきた。


「完成した2分45秒の映像、見てみる?」「ふふふ、そう言って頂けると分かっていました」「だよね~」「ですよね」


 俺は準四次元格納庫を手元に出現させ、幅20センチ高さ5センチ奥行20センチの映写機を取り出した。輝力製品に限り準四次元格納庫は事実上のアイテムボックスなのだがそれは置き、この映写機の寸法を100倍にできる場所の心当たりを翼さんに問うた。この庭の中央には木が植わっていて、広さが少し足りないんだね。翼さんは「ご案内します」と答えて立ち上がり、庭の西側へ歩いていく。庭の西側には防風林がありその向こうを見たことは無かったけど、この時期は雨蛙の鳴き声がいつも聞こえていたので想像は容易。それは当たり、防風林に設けられた通路を潜った先には、2ヘクタールほどの水田が広がっていた。俺は目を細め「風を吹かせて良い?」と訊いてみる。「もちろんです」との返答に頷き、風速2メートルの南風を吹かせた。南から北へ打ち寄せる波のように稲が揺れる。それと同時に「サ~~」という音が、左から右へ消えていった。


「風になびく稲の『サ~~』という音が、俺は好きでさ」「はい、私もです」「稲の高さがまだ30センチくらいだから音は小さいけど、やはり良いものだ」「梅雨明けにでも、またお越しください」「うん、楽しみにしているよ。それはそうと」「どうかしましたか?」「2分45秒とはいえ、伸び盛りの稲に日光が当たらないのは可哀そうだな」


 そうでしたどうしましょう、とオロオロし始めた翼さんに「蛙に鳴き止んでもらうのも忍びない」と追い打ちを掛けたところ、失敗した。考え足らずでしたと呟き、翼さんは俯いてしまったのだ。いやいや考え足らずは俺だってと平謝りし、翼さんの手を取り俺が用意するいつもの場所へテレポーテーションした。ここは、眼下に雲海を望む山の頂。高山ゆえ動物の鳴き声はせず、座り心地の良いベンチもあるから、映像を鑑賞するならここが一番だろう。太陽だけは北へ少しずれてもらい、背後から光を浴びるようにしたけどさ。

 という訳で映像を再生した2分45秒後、俺は大絶賛に苦笑することになった。三次元なら社交辞令を疑うレベルでも四次元では気持ちを直接伝えられて、そして翼さんはただそれをしているだけだったのだ。とはいえここまで絶賛されるとくすぐったさが勝り、その辺で勘弁してくださいと俺は頼んだ。が、やったらやり返されても文句を言えないという人間社会の決まりを、俺は身をもって知ることになってしまった。


「翔さんこそさっき私に、恥ずかしさの勝ることを言ったではありませんか」「それって、ムッツリ助平の匂いフェチの件でしょうか?」「天にも昇るほど嬉しくても、あからさまにされると女は恥ずかしいものなのです」「たいへん申し訳ございませんでした!」「良いのです。だって翔さん、立場が逆転する今の状況を予知して、ニコニコしていましたし」「・・・えっとですね、あからさまにされると恥ずかしいのは俺も同じなんですけど」「やり込められたり叱られたりすると嬉しいと感じてしまう変態性癖が、そんなに恥ずかしいのですか?」「お願いです! どうかその辺で勘弁してくださいませ―――!!」


 変態性癖という背筋の凍る言葉をなるべく口にしない交換条件として、二作目の映像作品に関する相談を真っ先にするのは翼さんという約束をした俺は、約束を直ちに果たした。6万光年離れた地球の映画をこの星に持って来るという難問があるにもかかわらず、それをまだ誰にも相談していなかったのである。翼さんは機嫌がたいそう良くなり、地球の映画をこの星に持って来る方法を積極的に考えてくれた。それはやはり非常に助かり、かつとても嬉しくもあった俺は、時間を忘れてそこの件を話し合ったのだった。


 翌日の昼。

 輝力体を幼稚園にテレポーテーションさせ、園長に指輪の実験を説明した。すると、いつでも自由にお越しくださいと言ってもらえた。


 同日の夜。

 準四次元で翼さんと一緒に母さんをもてなした。最初から判っていたと言えばそれまでだが、6万光年離れた地球の映画をこの星に持って来るには、母さんを頼るしかなかったのである。揃って頭を下げて頼む俺達を、母さんは優しく許してくれた。


「あなた達はもう何年も前に、意識を地球にテレポーテーションさせる能力を獲得しています。しかし資格は有しておらず、そしてその決定を下したのは私です。決定は今でも変わりませんが、あなた達の願いは正当と判断しました。地球の友人に、頼んでみますね」


 恐悦至極に存じます、と声を揃えた俺と翼さんにコロコロ笑っているうち、母さんの手元に映写機的な機械がポンと現れた。


「どわっ、もう届いたんですか!」「母上様は私達の願いを見越し、事前に準備されていたのでしょうか」「愛する子供達よ、母と母の友人を侮ってはなりません。友人に頼んだら、友人が私物を快く貸してくれたのです」「さすが母さんの友人だ」「母上様とご友人様、まことにありがとうございます」「あなた達の言葉を友人に伝えておきます。それはそうと、友人から翔に伝言を預かっています。なんでも翔なら、自分の新たな趣味を瞬時に理解し応援してくれるはずと言っていました」「むむ、それは大役だ」「翔さん、頑張ってください」「それでは伝言です。『わたしacost〇!の常連なの!』だそうです。翔どうでしょう、意味は解りますか?」「ヒエエッ、御見それしました~!」

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