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「ピアノを本格的にする子は、必ずグランドピアノを弾くようになります。それはピアノの練習を始めて数年後か十数年後のことですが、遅すぎることは無いと思います。アップライトピアノとグランドピアノのどちらを最初に弾いたかで、ピアノ奏者の上限に差は出ないというのが私の結論です」


 確かにそうだ、と安堵の息を吐き弛緩しそうになる寸前、翼さんの話がまだ終わっていないことに気づいた。背筋を伸ばした俺に、翼さんは先を続ける。


「住宅事情や金銭事情等により、ピアノを習い始めた子供すべてにグランドピアノを買ってあげるのは、地球では不可能です。しかし、輝力製のピアノを竜族が弾くなら別です。翔さん、母上様が私と葉月のために創ってくれた弓を収納する指輪を、竜族がピアノを収納する指輪として、私達で創れないでしょうか?」


 俺は11カ月前の自分を褒めた。葉月さんの右手の人差し指に通された指輪を見ていたら、「来年の夏までにこの指輪を俺も創れるようにならねば」となぜか強く思ったのだ。11カ月の試行錯誤が実り、一つの機能を除き指輪は完成した。未完成のそれは、自動輝力補充機能。葉月さんが輝力を補充せずとも、あの指輪および収納した弓が消えることはない。その機能を、俺は未だ復元できないのである。

 が、実は数秒前に閃いたんだよね。解決策じみたモノがあるのではないかと。


「キャ―、教えてください翔さん!」「いやちょっと待って。実験しないと判らないから」「いつですか、いつ実験しますか!」「・・・ってあれ? いつにしましょうか?」


 今は子竜達の夏季休暇中。幼稚園に行かないから、実験しようがなかったんだね。

 ちなみに閃いたのは、「ピアノを収納した指輪を、母さん製の楽器保管庫に入れたら、指輪とピアノの両方に輝力が自動補充されるのではないか」ということ。個人的には、少なくとも指輪には補充されると確信している。収納したピアノは微妙だけど、ダメだったら試行錯誤すれば良いだけ。ただ繰り返しになるが、残念ながら今は幼稚園に行かない。幸い「行けない」ではないんだけどさ。


「はい、『行けない』ではないはずです。園長先生夫妻と元頭夫妻が、長期休暇中も幼稚園に残っているんでしたっけ?」「うん、残っている。そうだな、分身を明日テレポーテーションさせて、夕方に訪ねて良い日を園長に訊いてみるよ」「ぜひお願いします!」


 という訳で、竜族に贈る輝力製ピアノをアップライトピアノにするかグランドピアノにするか問題に、一応の方向性を得られた。よって最後の議題を俺は口にした。「夏季休暇中の鈴桃に翼さんがピアノをこっそり教えても、問題ないと俺は思うけどどうする?」と。

 この議題は、想像以上に早く結論が出た。「翔さんはなぜそう思うのですか?」「えっとですね・・・」 みたいなやり取りを経て自論を述べたところ、


「鈴桃の一日の様子を私がアカシックレコードで毎晩確認し、こっそり授業の是非を判断する。これでどうでしょうか?」


 翼さんが、そう言ってくれたのである。6歳の竜といえど、女の子の私生活を覗き見るのは俺には無理。覗き犯になる場面を本体に頼み除去したとしても、男の俺には到底無理なのだ。それを翼さんが引き受けてくれるのだから、俺には感謝しかなかった。

 かくして今夜の議題は全て終了した。俺はその旨を伝え、里山を去ろうとする。が、


「翔さんってたまに、水臭さが限界突破して腹立たしいですよね」


 翼さんに三白眼で睨まれてしまった。そう言われましても、水臭さの限界突破が何を指しているのか見当つかないんですけどと涙目になったところ、眼前の庭に輝力画像が出現した。横10メートル縦6メートルのそれには、6歳の竜の女子が描かれている。ピンと来た俺を無視し、続いてその画像を120枚用いた直径390メートルの円が出現した。垂直にそそり立つその威容に「おお~~」と呑気に手を叩いていたところ、すぐ隣にテレポーテーションしてきた翼さんに左右の頬をギュムッと摘ままれてしまった。


「翔さん」「ひゃい、にゃんれしょう」「半年後の夕食会のサプライズで発表する動画の長さは、いかほどですか?」「にゅふんひょんひゅうぎょびょうれしゅ」「2分45秒は165秒だから60を掛けて・・・・9900で合っていますか?」「へぇいかいれひゅ」「その9900枚の輝力画像を、翔さんは私達に協力を求めることなく、たった一人で創ったんですね!」「ぎょ、ぎょめんにゃしゃい~~!!」


 その後、「言い訳をたっぷり聴かせてくれるなら指を離してもいいですよ」との慈悲を賜ることができたので、俺は死力を尽くしそれに応えた。


[1]前世のアニメ漫画オタクの経験が活き、絵コンテを意外とあっさり描けたこと。

[2]絵コンテの雑な絵と異なり静止画の絵には、当初1枚に5時間費やしたこと。

[3]だが慣れと輝力分身と時間圧縮により、9900枚を数カ月で書き終えたこと。

[4]演出の面白さに嵌り変更を重ね、累計3万枚の静止画をもって完成したこと。

[5]二作目の映像作品は日本を代表するアニメ映画にする予定だがそのまま上映するのではなく、60fpsの輝力動画で再現する野望を抱いていること。そしてこちらの制作は、仲間達に協力を呼び掛けるつもりだったこと。


 この五つを、俺は丁寧に説明したのだ。話し終えてようやく翼さんは俺の頬から指を離す素振りを見せるも、素振りだけで終わることになった。よって腹をくくり「ムッツリ助平の匂いフェチが限界突破しそうです」と吐露したところ、摘まんだ部分を回転させたり引っ張ったりしたのちやっと指を離してもらえた。言うまでもなく摘ままれても痛みは全くなく、説明を始めたら呂律が回るよう指の力を弱めてくれたから、ムッツリ助平の匂いフェチとしてはただのご褒美だったな。

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