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拘束されている俺の代わりに、翼さんへは奏が伝えてくれた。子竜達も大喜びし、翼さんと奏を中心に喜びのダンスを歌って踊り始めた。俺は記憶しているその歌を圧縮し、翼さんと奏にテレパシーで送る。10秒かからず、翼さんはハープで奏はフルートで歌の伴奏を始めた。二人とも保育士ゆえ、まこと様になっている。それを子供の本能で知覚したのだろう、子竜達はいっそう楽しげに歌って踊り始めた。改めて振り返ると子竜達のダンスの5分間のみ、俺は拘束されていただけだったんだな。
ダンス終了に合わせ、園長が夕食会終了を宣言した。最後に歌って踊り満足した子竜達が、満面の笑みで宿泊所へ消えていく。仮に音楽仲間達が今夜も帰っていたら、子竜達は泣いていたに違いない。俺は胸を撫で下ろした。
その夜は輝力製の大きなテントを二張り創造し、男組と女組に分かれて泊まった。母さんと美雪と美咲も女組にもちろん含まれ、特に美咲は突然のお泊り会が嬉しくて堪らないようだ。それを喜びつつも「美咲にも寝不足ってあるのかな?」「まだ12歳だし、寝不足は厳禁だよな」「美咲ちゃんを早めに寝させるよう、奏に頼んでおきましょうか?」と心配せずにはいられない、兄バカ三人組の俺と勇と昇だった。
翌朝も翼さんの人気は衰えず、子竜達はわずかな時間を見つけては翼さんのもとを訪れていた。その筆頭が鈴桃だったことも、翼さんの周囲に子竜が集まる大きな理由だったと思われる。子竜達にとって鈴桃は別格であり、その鈴桃がうっとりした眼差しで昨夜のピアノに的確な感想を述べていると、子竜達は嬉しくなるみたいなのだ。それについては母さんが正解を教えてくれて、「言葉にできない想いを鈴桃が代弁してくれる」のテレパシー版を、鈴桃はしているとのことだった。言葉にできない想いなら地球でも馴染み深かったが、テレパシーにできない想いというものも存在し、かつそれが日常に溶け込んでいる竜族の社会へ、俺はすさまじい興味を抱いたものだ。とはいえ鈴桃達が翼さんと過ごす時間を邪魔したくなかったから、表には出さなかったけどね。
ただ表に出さずとも音楽仲間達とテレパシーで意見を出し合い、
創想界は創像界の先に創造されたから
と推測するに至った。想いに形(像)はなく、想いは形に囚われないが、形は時として想いを伝える道具になる。「ピアノの演奏技法を形とするなら、マリンバを介しピアノの演奏技法つまり形に触れていた鈴桃は、触れなかった子竜達より、ピアノの感想を形によって翻訳しテレパシーにしやすかった」 こういう事なのではないかと、俺達は推測したんだね。そうは言っても、的外れ甚だしいのかもしれないけどさ。
そうこうするうち、子竜達が親竜達と一緒に幼稚園を去る時間になった。海岸への道中、鈴桃は翼さんの隣を決して離れず、夏季休暇中に行えるピアノの自主練を熱心に聴いていた。何気なく聞いたそれに、俺は舌を巻いた。
「翼先生、まとめさせてください。1、高音パートと低音パートのある竜族の歌を選び、それぞれのパートを楽譜にする。2、高音楽譜は右手が担当し、低音楽譜は左手が担当して、ゆっくりで良いから左右の十指を楽譜どおり動かしてみる。3、速さより正確さを優先し、正確に指を動かせる範囲内で、歌本来の速さに近づけていく。これで合っていますか?」「合っているわ、良くできました」「やった~! 翼先生、輝力製の楽譜に輝力で音符を刻んでいく訓練方法も、まとめて良いですか?」「もちろんいいわ、聞かせて」「はい! 毎日必ずする訓練は・・・」
マジっすかそれ、というのが俺の正直な感想だった。ピアノ等の楽器で音とメロディを確認しつつ楽譜にするのも難しいのに、鈴桃は楽器を持っていない。絶対音感とメロディの記憶だけを頼りに、楽譜にせねばならぬのだ。その楽譜も輝力製だから創造するにも維持するにも技術が必要だし、というかそもそも竜族は、文字を持っていないんだよね。必須知識は幼稚園で学ぶ歌の歌詞で覚え、かつテレパシーも出来るからこれまでは不自由しなかったけど、俺と関わるようになったらそうも言っていられなくなったと園長達は話していた。園長と山風と元頭達はここ数年、竜族の文字を創ることに四苦八苦している。歌詞はアルファベットや平仮名のような表音文字でも、テレパシーは発音のない表意文字に近いと言える(1+1=2は表意文字)。アトランティス人の振字は表意文字の究極だが、人族と竜族では歴史と文化が根本的に異なるため竜族には万能ではない。竜族にとっての振字を創るのが理想でも、俺がアカシックレコードを見たところ、振字には本体の力が必要らしい。宇宙中の本体は概念テレパシーによって会話でき、どうもそれが振字の土台になっているようなのである。苦悶の果てにそれを園長達に伝えたところ、意味と発音の両方を兼ねる表語文字の創造を園長達は挑戦することになった。とはいうものの前足で地面に表語文字の案を書く方法では遅々として進まず、輝力腕と輝力筆記用具はその方面でも大いに期待されていた。つまり翼さんが鈴桃に勧めたピアノの自主練は、来たるべき文字文明の訓練でもあったということ。いやはや翼さんは、正真正銘の超人だよなあ。
という具合に舌を巻く程度では済まず舌をグルグル巻きにしているうち、一行は海岸に着いた。親竜に連れられ帰省する子竜を見送るのは、俺にとって毎度のこと。泣く子竜がいるのもいつもの事だったが、今回は初めての事態が生じた。その希少性は俺の予想を遥かに超え、園長によると高確率で前代未聞らしい。前代未聞の可能性の高いそれは、
「家に帰りたくない。幼稚園で翼先生にピアノを教わりたい~」
と鈴桃が泣いたことだ。




