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分割した意識で準四次元へ行き、話し合いのために母さんが創ってくれた場所を訪れる。ここは時間が、1千倍の速度で流れているようだ。これなら3時間話し合っても、三次元世界では11秒にしかならない。俺は腰を再度直角に折る。そして上体を起こすや、尋ねた。「音楽仲間全員が肉体で竜族の幼稚園を訪れ宿泊するのは、可能でしょうか?」 母さんはそれに答えず、俺に問うた。
「あの子たちがこの島に宿泊することに、厄介事が生じているのは気づいている?」「強化3闇王を倒し、大統領官邸に招かれた翼さんは、暫定的ながら勇者パーティーの権限を有しています。よって翼さんだけは、この島を肉体で訪問し宿泊する許可が下りる。そのことなら気づいています」「正解。優秀な息子を持てたことを、まずは喜びましょう」
喜びましょうの発言とは裏腹に、無理に笑おうとしているのが見え見えの母さんに、会釈の振りをして頭を指し出した。「殊勝な心掛けです」と、母さんは俺の頭を撫でる。その時間を延長しようとしたのか、今夜の俺の振舞いを母さんは次々褒めていった。くすぐったくとも耐えてみせるとの覚悟が実り、撫で撫でが終わり顔を上げた俺の目に、憂いが10分の1ほどになった母さんが映る。さあ残り10%だと、俺は自分を奮い立たせた。
その後、輝力製の椅子に座り、音楽仲間全員が竜族の幼稚園を肉体で訪れ宿泊する方法を二人で考察していった。だが、この星のマザーコンピュータを依り代にしている筆頭大聖者の母さんの知恵をもってしても、不可能という結論しか出なかった。正直言うと、それは99%判っていたこと。訪問と宿泊には大きな障害が二つあり、一つは舞ちゃんと翼さんと奏が幼年学校の住み込み保育士をしていることだ。今日のような夏季休暇前の夕食会も半年後の冬期休暇前の夕食会も、幼年学校は長期休暇にまだ入っていないんだね。大きな障害の二つ目は、深森霧島両夫妻が軍人ではないこと。軍人なら勇者パーティー特権等を行使できるが、軍人でない両夫妻は無理。仮に両夫妻が緑竜学における世界的権威だったとしても、宿泊が不可能なのは覆らない。戦争に負けたら絶滅する人類にとって最強クラスの戦士が有する特別待遇は、並大抵ではないのである。
また様々なことを度外視すれば、両夫妻が散山脈諸島を担当する大聖者だったら、大統領権限により秘密裏の訪問と宿泊が認められたかもしれない。大統領選に立候補する人は全員、組織の存在を知っているからだ。しかし両夫妻は大聖者ではないし、そしてこの手の「自分に都合の良い嘘」を組織の人達は決してつかない。成長すればするほど責任は重くなり、そして責任が重ければ重いほど、自分に都合の良い嘘をついてはならぬようこの宇宙は創られているからだ。責任の重さが日本一のはずの国会議員が選挙の公約で嘘をつくのが常態化している日本は、宇宙規模のあり得ない国なのである。
不快が無限大になりそうなので話を戻そう。
母さんの知恵を借りても、音楽仲間全員がこの島を肉体で訪問し宿泊するのは不可能という結論になった。ならば次の議題は、輝力体による今夜の宿泊を音楽仲間達に提案するか否かということになる。けど、それを母さんに尋ねてはならない。母さんのような大聖者は、人事を尽くして天命を待つの「天命」だからだ。とはいえそれと、上司への報告義務は区別が必要。義務を果たすべく、今後の予定を報告した。
「席に付いたら頃合いを計り、輝力体による今夜の宿泊を音楽仲間全員に提案します。男組はまだしも女組には非常識ですから、俺は非難を免れないでしょう」
文句をブ~ブ~言われようと肉体でのお泊りではないし、夫婦そろってのことだから、建前上のブ~ブ~だけで許してもらえるんじゃないかな? との予想は、良い意味で外れていることに気づいた。母さんが「まったくこの子は、舞に殴られそうになったことをもう忘れているんだから」と、ヒントを出してくれたのである。ヒントを理解した俺は、青い顔をして述べた。
「輝力体による宿泊を前回提案していたら、運命の演奏のみならず宿泊でも、翼さんだけをのけ者にしてしまいました。今夜は音楽仲間が全員そろった初めての夜ですから提案の最良日だと、忘れていたのです。母さん、ヒントをありがとうございます」
テーブルに額をこすりつけて謝意を示した俺の頭を、母さんが両手でワシワシ撫でる。リズミカルで軽快なその手つきに期待を込めて頭を上げたところ、10%残っていた憂い顔が奇麗に消えていた。こぶしを握り締め雄叫びを上げた俺に、母さんはコロコロ笑う。俺も一緒に笑ってから、二人で準四次元を後にした。
肉体に戻り、翼さんに目をやる。相変わらず十重二十重に囲まれ、子竜達に大人気のようだ。椅子に座っていないのは翼さんだけという状況だが、夕食会終了まで数十秒しか残っていないと思われる。俺は姿勢を正し、輝力体による宿泊を皆に提案した。
予想どおり女組に「「「「ブ~~」」」」と唇を尖らされられたけど、その意味は予想と違った。「遅い!」「ハラハラしたじゃない!」「優柔不断にもほどがある!」「翔お兄ちゃんの、ヘタレ!」「「「「ブ~~」」」」ということだったんだね。非難の集中砲火でも、俺は嬉しくてならなかった。
音楽仲間全員が幼稚園の庭に泊まって良いかを、俺が代表し園長に訊きに行った。園長が涙を流して喜んだのは嬉しかったけど、60fpsの動画について質問攻めに遭ったのは辟易した。演劇をこよなく愛する園長にとってアレは、インスピレーションを刺激して止まない出来事だったのである。いつもは助けてくれる山風達も俺と園長の受け答えを聴く側に回ったこともあり、5分ほど拘束されてしまった。
が、輝力分身を複数出せるからこれくらい屁の河童。俺は輝力分身を三体出し、親竜達のいる席と、大風と慈雨のいる貴賓席と、妖精長の葉月さんの元へそれぞれ向かわせ、音楽仲間達の宿泊の報告をした。かくして大人としての責任は果たせたがそれぞれの場所でも捉まってしまい、質問攻めに遭ったんだけどさ。ハハハ・・・




