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「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏」
の独奏箇所に移った。俺は頭の中で「パッヘルベルのカノンが日の出の曲なら、この曲は日の入りの曲なんだよなあ」と呟いたところ、この曲に参加しない数人が協力し、大海に沈みゆく真っ赤な夕日を輝力で描いてくれた。感動のあまり流れそうになる涙を必死で堪え、弦五部の役目を果たしていく。ただし一回目は音を抑え、その代わり二回目は「弦が主役だ」とばかりに情感たっぷり弾いた。その二回目も終わり、ピアノの独奏が再び始まる。そして後半を変化させた主旋律を弾いたピアノが、和音を一つ奏でる。その余韻が消えると共に、最後の一粒となった夕日も海に消えたのだった。
成竜と大人の妖精達による大きな拍手があがる。
泣く事しかできない子竜と子供妖精の拍手も引き受けた、殊更大きな拍手があがる。
拍手だけなのは成竜と大人の妖精達も、嗚咽を堪えているからだね。
演壇の仲間達が男女の区別なく「テメエ何とかしろよこの野郎!」系の視線を俺に放ってきた。観客席の美雪と美咲も、期待の眼差しを俺に向けている。そう言われましてもどうすれば・・・・とアタフタしているのは、実はただの演技。進退窮まる、八方塞がり、絶体絶命、的な状況に陥った方が、半年後のサプライズをちょっぴり明かしてしまっても言い訳できる。そしてここからが重要なのだけどそうすれば、
未来への希望
を聴衆は持てるようになる。今の竜族と妖精族にとって未来は、地球の器楽曲を二度と聴けない未来になってしまっている。でも半年後のサプライズをちょっぴり明かせば、その未来を「地球の映像作品を三作楽しめる未来」に変えられる。そうつまり、未来に希望を持てるってことだね。
という訳で俺は子竜達に「試したいことがあるから協力して」と呼びかけた。ありがたいことに俺は信頼されているらしく、子竜達は涙を流しながらも顔を俺に向けてくれた。俺はニッコリ頷き、空間を縦に割る演出をして、準四次元から輝力製の静止画を120枚取り出した。静止画の大きさは横50センチ縦30センチだったけど、それを横10メートル縦6メートルに拡大する。そしてその120枚で、垂直にそそり立つ直径390メートルの円を作った。子竜達は横10メートル縦6メートルの輝力製静止画は見慣れていても、それで作られた直径390メートルの円を見たのはこれが初めて。大抵の子は、大きなものを見ると喜ぶもの。夜空に映えるよう一枚一枚を光らせたのも当たり、子竜達は突如出現した巨大装置にキャッキャし始めた。よし、掴みは十分だ。俺は子竜達に語りかけた。
「静止画に描かれているのは、6歳の竜の女の子。この子がどう見えるかを、これから実験する。人の目と竜の目は、違って見えるかもしれないからね。さあでは、実験開始!」
俺は演壇中央の静止画だけを光らせ、それ以外を暗くする。そして直径390メートルの円を、ゆっくり右回転させた。光っていた静止画も左にずれると暗くなるが、次の静止画が中央に来たらそれを光らせる。それも暗くなるけど、次がまた光る。ということを行ったんだね。そして円の回転速度を上げたところ、光る静止画がパッ、パッ、パッと変わるようになった。一枚一枚に描かれている竜の女の子はほんの少し違っているだけで普通なら差を見分けるのは困難でも、このように連続すれば差を見つけやすくなる。子竜達も見つけたのだろう「脚が動いてる!」「歩いているのかな?」「なんだか楽しそうな感じ?」等々を口にし始めた。俺は心の中で小さくガッツポーズし、円の回転を少しずつ速くしていく。それに合わせ「わかった、走ってるんだ!」「本当だ、楽しそうに走ってる!」「あれ? だんだん動きが滑らかになってきたような?」と感想が変わって来たので一気に速度を上げ、2秒間で円が一周するようにした。すると、
「エ!?」「パラパラじゃなくなった!」「「「「凄~~い!!」」」」
大はしゃぎ状態に子竜達はなった。その光景に、俺は安堵の息を吐く。1秒間に60枚の静止画を用いる60fpsは、人の目には滑らかな動画として映るけど、竜族の目にどう映るかは試してみないと判らなかったんだよね。60fpsでも教科書のパラパラ漫画レベルだったらどうしようと、俺は少し心配していたのである。
でも、この様子なら大丈夫そうだ。子竜の女の子が楽しげに駆けて来る動画に瞳を輝かせる子竜達に、俺は語りかけた。
「実験として、半年後のサプライズで発表する映像作品を2秒間見てもらった。今回は動画のみだけど、器楽曲も流すことが決定している。二作目と三作目の映像作品には、器楽曲だけでなく歌曲も複数使われているよ。みんな、楽しみにしててね」
「「「「はい、先生!!」」」」
子竜達は元気よく応えてくれた。成竜達と妖精達も、半年後を楽しみにしているみたいだ。それをもって、夏季休暇前日のサプライズ発表は終了したのだった。
サプライズを終え、音楽仲間達と演壇を降りる。すると子竜達がドッと駆けて来て翼さんを囲み、ピアノ関連の質問を投げかけ始めた。20頭の子竜それぞれが思い思いの質問をしたら、普通は困るはず。しかし100人の園児を預かる保育士の翼さんにとってそんなのは慣れっこなのだろう、20頭の子竜達とまこと巧みに会話し、子竜達の好意と信頼を幾何級数的に上げていっているようだった。その光景に、問題を先延ばしにできないと判断した俺は、相談に乗ってもらうよう母さんにテレパシーで請うた。返事のテレパシーが「先に行って待っているわ」だったことに、俺は腰を直角に折った。




