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 元地球人のクラシック好きとして、今回の演奏では非常に注意したことがある。それは管弦楽器及び打楽器(以下、管弦打楽器)の音量を下げる箇所を、多数設けたことだ。その必要性を仲間達に知ってもらうため、俺と翼さんはベートーベンのピアノ協奏曲5番皇帝を演奏した。この曲は「ピアノの演奏箇所」と「管弦打楽器の演奏箇所」が、明確に分かれていることが多い。ピアノの演奏中は管弦打楽器を休ませ、管弦打楽器の演奏中はピアノを休ませることが多々あるのだ。実を言うとこれには、ベートーベンの難聴が関係している。優れたピアニストでもあったベートーベンはピアノ協奏曲4番までは自分がソリストになることを前提に作曲したが、難聴の進行により協奏曲5番ではソリストを断念せざるを得なくなった。自暴自棄になる代わりに改革者となったベートーベンは5番作曲時に革新的手法を次々取り入れ、その最大が「目玉の即興演奏を排しその代わり超豪華なピアノの独奏を冒頭に組み込む」というものだったのだ。これに手ごたえを覚えたベートーベンはそれを曲全体の傾向にし、「ピアノの演奏箇所」と「管弦打楽器の演奏箇所」を明確に分けるか、もしくはピアノの伴奏を管弦打楽器が務めるかのようなピアノ協奏曲が生まれたのである。

 ちなみに同曲の初演でピアニストを務めたのは、ベートーベンの後援者の一人であるルドルフ大公だったという。大公はさぞ気持ちよく、ピアノを弾いただろうな。

 話を戻そう。

 竜族の夕食会で俺達が演奏したラフマニノフのピアノ協奏曲2番は、ベートーベンの皇帝と異なり、ピアノと管弦打楽器が同時に演奏されることが多い。というかピアノは終始弾かれ続け、主旋律を管弦打楽器が受け持っている時もそれは変わらぬため、ピアノの音を聞き取れない場面が珍しくないのだ。それで違和感のない箇所もあれば、違和感のある箇所もある。とはいえ所詮ド素人の感想なのでベートーベンの皇帝と聴き比べた上で音楽仲間達に意見を求めたところ、思いがけず賛同を得られた。よって違和感の有無を一カ所一カ所調べ、管弦打楽器の音量を下げる箇所を特定し、


  協奏曲の協は協力


 であることを竜族に印象付けるよう努めたのである。ベートーベンの皇帝だったらそれは不要だったけど、交響曲とピアノ協奏曲の両方をベートーベンにしたら、竜族の音楽性を偏らせる虞があったんだよね。皇帝の第一楽章の演奏時間が20分だったのも、ラフマニノフを選んだ理由だったな。それらアレコレは正しかったらしく、


「ピアノがオーケストラと対等に渡り合い、音楽を創っていくことに感動しました」「僕もピアノを弾きたいです!」「「「「私も!」」」」「「「「僕も!」」」」「「「「儂らも!」」」」


 系の感想が噴出することとなった。いやはや嬉しい限りだ。また最後の「儂らも!」も、見過ごしてはならぬと思われる。日本の保育士は、オルガンを弾けることが必須。そして一般的な日本人を遥かに超えて、竜族は歌を愛しているからだ。

 という訳で、俺達の演奏は大成功に終わった。然るに普通なら会場は明るい雰囲気一色に染まるのだろうが、そうならなかった。竜族も妖精族も寂しげな気配を纏い、子竜達に至っては今にも泣きそうな子が多数いたのである。ラフマニノフのピアノ協奏曲2番をもって、地球の器楽曲の紹介は終了したからだ。竜族独自の音楽文化を育むためにはこれが最善と頭では解っていても、泣くことを必死に堪えている子竜達を見ていたら、胸が張り裂けそうになったのがホントのところ。音楽仲間の女組は特にそうなのだろう子竜達と同じく今にも泣きそうだし、妻のその姿に男組は「テメエぶっ殺すぞこの野郎!」的な眼差しで俺を睨む始末。そりゃ気持ちは分かるけど、悪いのは俺なんですか?!

 という息子の心の叫びを、助けてくれるのが母親らしい。


「みんな、アンコールって声を合わせてみて!」


 母さんが立ち上がり、皆にそう呼びかけたのである。そして「地球のコンサートでは聴衆がアンコールを大合唱すると、一曲か二曲の追加演奏が叶うことがあるの。必ず叶うわけではないけど、試す価値はある。さあみんな、追加演奏を聴きたいなら、アンコールを大合唱しましょう!」と続けたものだからさあ大変。冗談抜きで島を揺らしかねない、


「「「「アンコール!!」」」」「「「「アンコール!!」」」」


 が爆発したのである。まあそれは俺達にとって、願ったり叶ったりだったけどさ。

 かくして概念テレパシー会議を急遽開き、二曲の追加演奏が決定した。一曲目はまだしも二曲目は参加しない仲間が複数いるので申し訳なさを覚えたが、俺へのご褒美ということで俺以外が一致したら承諾するしかない。俺は仲間達に首肯し、立ち上がる。そして聴衆に「二曲いきま~~す!」と声を張り上げたところ雄叫びの大爆発が轟いたのち、会場は静まり返った。その静寂を破り、


「ショパンの英雄ポロネーズ」


 を翼さんは弾き始める。ドリルのような冒頭、右手による煌びやかな高音と左手による実直な低音の対比、対極をなす左右の手が協力したときの比類ない華やかさ等々に、聴衆はもれなくうっとりした表情になっていた。

 ショパンの英雄ポロネーズも途中の1分50秒ほどで終え、翼さんは一礼。個人的にこの曲はどこもかしこも大好きで全てを聴かせてあげられないのは死ぬほどもったいないのだけど、7分以上の曲だから今は諦めるとしよう。それは置き、聴衆の怒涛の拍手と歓声に翼さんは両手を振って応えてから、


「パガニーニの主題による狂詩曲第18変奏」

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