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 それにしても親バカとしては、鈴桃にドレスを着せてあげたかった。けど同時に、それは何があっても厳禁ということも解っていた。服飾文化に、利点と欠点の両方があるのは間違いない。しかし内面を磨く文化を花開かせている竜族にとっては、利点より欠点の方が比較にならぬほど大きいのだ。前世の祖国には「男の優劣を見抜く目は、服飾の値段を見抜く目」と言って憚らない女性達が大勢いた。民族絶滅を招きかねないその猛毒を、竜族に持ち込んではならぬのである。

 幸い音楽仲間の女組は、その女性達の対極にいる。美雪の秘書服を、全員が着てくれているくらいだからね。もっとも人類軍の女性用秘書服は、べらぼうに素敵なんだけどさ。

 話を戻そう。

 この発表の主役を張る鈴桃がバイオリンを携え、拍手喝采を浴びて所定の位置に付いた。地球ならここで指揮者が観客に挨拶し、回れ右をして演奏の準備をするのがお約束だけど、テレパシーに長ける竜族に指揮者はいない。数百年先の未来は判らねど、コンマスもしくはソリストが指揮者を兼ねることになると俺は予想していた。

 けれどもそれは、プロ管弦楽団が誕生するような数百年後の話。今回の演奏ではコンマスの鈴桃も、各パートへの指示等は一切しないことになっていた。理由は、練度不足にある。練度1年相当の鈴桃の技量では、テレパシーを使おうと指揮者の仕事の兼任は荷が重い。そんな無理をするより心地よい音を出すことに集中した方が、演奏の質向上に貢献できるのである。指揮者不在だと、各々が一瞬も気を抜かないという利点もあるしね。

 かくして鈴桃は、心地よい音を出すことに全力集中できるようになった。正直言うと、練度1年相当でそれは不可能なのだけど、発表曲のオーケストレーションをしたのは天才作曲家の呼び名も高い昇。昇は子竜達が学んだ歌の中から最も演奏し易いものを選び、かつバイオリンが連続して出す音を3音に留めた。美しき青きドナウの「ド~ミ~ソ~」のような感じだね。鈴桃のバイオリンが曲の冒頭で奏でるのは、まさにそのドミソ。演壇に立つ20頭の子竜の集中力がいや増したのを知覚した観客達が、声とテレパシーの双方で無音を一斉に心がけた。まったき静寂が会場に降り、観客全員の視線が鈴桃に集中する。瞑目する鈴桃は、それに気づいているのか? それとも、気づいていないのか? 気づいていない、と俺は断言できた。なぜなら俺の目が捉えていたから。雑念の一切ない白一色のオーラを鈴桃が放っているのを、はっきり捉えていたのである。そしてバイオリンを構えた鈴桃がついに弓を動かし、


  ド~ミ~ソ~


 が会場を満たした。優美なその響きに、俺を除く全員がうっとりした表情を浮かべる。俺だけは親バカ丸出しで滝涙状態に早くもなっていたのだがそれは置き、鈴桃の優美な「ド~ミ~ソ~」に続きティンパニ、トランペット、トロンボーン、マリンバ、チェロが「シ~」を奏で、「シ~」の一音だけで四拍子の一小節になったまさにその時、


  ピュラピュララ~~


 14頭の笛組が声の代わりに笛を吹き始めた。小学校の縦笛の合奏は、子共達の明るく元気な声をまこと彷彿とさせる。朗らかな空気が会場に溢れ、その合奏の合間に笛以外の楽器が軽妙に入り、演奏を楽しく華やかに盛り上げていった。いやはやホント、昇は天才作曲家だ。しかしそれ以上に、竜族初の器楽曲という重圧に負けず心の弾む軽快な音をこれほど響かせる子竜達は、なんて素晴らしいのだろう。20頭全員の親バカになった俺は、ナイアガラの滝の如き涙を演奏の間中アホのように流し続けたのだった。


 竜族初となる器楽曲の発表は、大成功に終わった。練習期間を考慮したら大成功どころか超ウルトラスーパースペシャル大成功でも足りないくらいなのだがそれについては後にして、子竜達は演奏を終えるや姿勢を正し、会場へ恭しく一礼した。その直後に巻き起こった拍手と歓声は「島が揺れた」と、後に形容されたほどだった。

 演壇を降りがてら楽器も引き上げ、素早く掃除してから楽器保管庫に収めた子竜達は、音楽仲間達の席へまっしぐらに歩いてきた。俺らとしては子竜達が訪れるのはまずご両親達の席、次は母さんと大風と慈雨のいる貴賓席、続いて園長夫妻のいる成竜達の席で、俺らは最後というのが順当だったのだけど、違ったらしい。俺達は立ち上がり、ご両親、母さん、園長夫妻の順に頭を下げて椅子に座る。子竜達も立ち止まって同じ順に頭を下げていたので、この子たちをどうか許してあげてくださいと俺は皆さんに胸中頼んだ。

 俺達が着席すると同時に子竜達は歩みを再開した。次いで俺達を中心に、弧を描いて並んでいく。演奏を大成功させ嬉しいはずなのに、それは一番大きな想いではありませんと顔にはっきり書いている子竜達を目の当たりにしただけで、視界が霞みそうになるのがホントのところだ。しかし真っ先に謝意を述べる相手に選ばれた俺達が、無様な姿をさらす訳にはいかない。俺らは胸を張り、誇りに満ちた表情を子竜達に向けた。そんな俺らに、今度は子竜達が一杯一杯になりかけるも、そこは鈴桃。子竜達を代表し、鈴桃は堂々と述べた。


「先生方の御恩は一生忘れません。私達も将来、先生方のような先生になり、頂いたご恩を竜族全体へ広めていきます。先生方、今後ともどうかよろしくお願いします」「「「「よろしくお願いします!!」」」」


 それからの数十秒間の記憶が俺にはない。後で仲間達に尋ねたところ、みんな判を押したように「正した姿勢を保つことに命を懸けているようだったよ」的な描写をしていた。記憶はなくとも、その描写は的確としか思えない。なぜなら鈴桃の言葉が蘇るやテーブルに突っ伏し、大泣きしそうになってしまうからだ。ハハハハ・・・・

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