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 母さんと大風と慈雨の着席をもって、夕食会が始まった。意識投射し輝力体をまとっているだけの音楽仲間達は本来、輝力製の食べ物を三次元世界で味わえない。しかし母さんが気を利かせてくれて、輝力体でも輝力製の食べ物を味わえるよう一時的にしてくれた。「食べ物の恨みは恐ろしい」をひっくり返すと「食べ物の恩は大きい」になる。それはまこと正しく、音楽仲間達は母さんに多大な感謝をして輝力製の食べ物を楽しんでいた。とはいえ肉体の俺は、仲間外れなんだけどね。美雪と美咲もAⅠ用の食べ物を美味しそうに食べているけど、俺は不満顔など決してしないのである。そして宴もたけなわの半歩手前になったころ、


「それでは皆さんお待ちかねの、子竜達の一回目の出し物です~~!」


 進行役の声が会場に響いた。万雷の拍手と歓声が会場に轟く。ちなみに進行役を務めているのは、竜族の若い女性保育士。再度ちなみに進行役と言っても地球人と違い、定位置もマイクもなく自分の席からテレパシーで皆に呼びかけるだけだ。もちろん非常に心地よい、陽気なテレパシーだけどさ。

 進行役が「一回目の出し物」と言及したように子竜達は今回、初の「二回出し物」に挑戦する。半年前の冬期休暇までは合唱か劇のどちらか一つをしていたが、今回はその両方をするんだね。「初の二回出し物」とあるように、両方するのは幼稚園の定例行事。入園して数年間は出し物を一回するのみだけど、年齢を重ね慣れてくると出し物を二回するようになる。その最初の挑戦に、子竜達はこれから挑むのだ。

 ちなみに二回出し物に初めて挑むのは、通常なら最終学年の1年前の9年生か、早くともその1年前の8年生がこれまでの常識だった。それに対し今回の挑戦は、4年生と3年生で行われる。そうまさしく、前代未聞ということ。理由は偏に、輝力腕にある。輝力腕による楽器の演奏を、二回目の出し物に子竜達はしたのだ。

 ただし二回目の出し物が楽器の演奏なのは、親には内緒ということに建前上なっている。なぜ建前上かというと、竜族にはテレパシーがあるから。幼稚園の島から故郷の島へのテレパシーは原則禁止でも、楽器を生まれて初めて手にした時や、その楽器から音が初めて出た時や、楽器の試験に合格した時などの子竜達の爆発的な喜びを、親が感じないなどあり得ない。遠く離れた島にいる我が子をいつも想っている親にとって、我が子の喜びの波長を正確に察知するなど朝飯前。子竜が楽器の詳細をテレパシーで意図的に送っていなくとも大枠はバレバレなのが、テレパシーを得意とする竜族なのだ。それでも、


「油断していると大量の涙に妨げられ、歴史に残る初演奏を見られなくなりますよ」


 俺は親竜達に、心の中でそう語りかけずにはいられなかった。

 子竜達の一回目の出し物は、演劇。地球の兎と亀の話に酷似した内容の、竜族に最も広まっている童話の一つを題材にした演劇だ。耳にタコができるほど園長に繰り返し聞かされたところによるとそれは、幼稚園で教える必須童話及び必須演劇の一つらしい。


「慢心するなかれという翔先生の教えを決して忘れず休暇を過ごすべく、子供達は劇の演目にこれを選んだのです」


 園長は感動に口を震わせつつも、子竜達を誇る声と表情でそう言った。それを聴く俺は、さっき心の中で親竜達に「油断していると・・・」と上から目線になったことを激しく反省していた。演劇を通じ子竜達の、


  絶対に慢心しません!


 という想いがひしひしと伝わって来て、涙が滝の如く溢れたのである。長期休暇で帰省する子竜達に何もしてあげられない俺は「どうかこの子たちを見守ってください」と、万物に手を合わせて頼んでいた。

 子竜達の演劇は大成功に終わった。迫真の演技はもちろん、この半年間で更に磨きのかかった輝力製の小道具にも感動したのだろう。親竜達の拍手は鳴りやまず子竜達は舞台に三度みたび現れ、三度目は歌を急遽披露したほどだった。

 休憩を挟み次に行われたのは、保育士と元頭達による喜劇だった。竜族の演劇には、実は喜劇が多い。故に元頭達の年季の入った演技はメチャクチャ楽しく、会場は笑いの絨毯爆撃を受けたかのようになった。それにしても、観客全員が一体となって爆笑するのはまこと良いものだ。保育士と元頭達の劇にも、俺達は惜しみない拍手を捧げた。

 笑い過ぎたため休憩を兼ね、歓談の時間が暫し設けられた。母さんはもう待てないとばかりに女組に加わり、美咲を可愛がりまくっていた。今夜は美咲にとって、生まれて初めてのお祭りの夜。祭りの夜には独自の雰囲気があり、美咲はそれが楽しくて仕方ないらしい。そしてそんな美咲が、母さんは可愛くて仕方ないようなのである。はしゃぐ二人に、俺はハンカチを幾度も使わねばならなかった。

 急遽設けられた歓談の終盤、強張った表情の子竜達が俺の所にやって来た。落ち着こうと懸命に振る舞っても、緊張をどうしても消せないみたいなのである。「そりゃそうだ。皆はこれから、数十万年に及ぶ竜族の歴史で初となる器楽曲を発表するんだからね」と心底同意してから、子竜一頭一頭と目を合わせつつ俺は語りかけた。


「俺は皆と初めて会ったとたん、皆が好きで堪らなくなった。あれから三年の月日が流れた今、俺と皆は数えきれぬほど多くの思い出を共有している。その思い出の中には『竜族にとって初めてのこと』が、沢山あると思わないかな?」「「「「思います!!」」」」

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