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挨拶後は皆で丘の上の幼稚園に向かうが、実を言うと園長夫妻はそれが難しくなっていた。高低差1千メートルの坂道を無理して登ったら、健康を害する年齢になっていたのだ。母さん及び園長夫妻と話し合った結果、子竜達に内緒で園長夫妻に反重力ペンダントを身に着けてもらうことになった。体重を半分にすれば、健康を損なうことなく坂道を上り下りできたんだね。鈴桃が空を飛ぶには、最短でもまだ半年かかる。しかし園長夫妻が坂道を上り下りできぬ年齢になったと知ったら、優しい鈴桃は必ず無理をする。無理をせぬよう説得できたとしても、楽器の練習時間を鈴桃が削ることは避けられないだろう。今鈴桃は宝石のような一瞬一瞬を生きているのに、自分達のせいでそれを歪めたくないと、園長夫妻は泣きながら母さんと俺に訴えたのである。その心を称え、透明に加工した反重力ペンダントを子竜達に内緒で身に着けてもらうことになったのだ。
かくして坂道を全員で和気あいあい登って行った。そんな俺達を元頭達は丘の上で迎えたけど、この島に半ば無理矢理住み着いた時点で坂道を放棄していた元頭達には、救いの手を差し伸べないことに俺と母さんはしていた。言うまでもなく、内緒だけどさ。
その後は親竜達を交えた昼食会になった。ちなみに親竜達との初対面で催された酒飲み勝負は、その一回きりになっている。いやはやまったく、喜ばしいことだ。空を飛べないと悟った日の悲しみを酒で紛らわせたいという親竜達の気持ちは理解できても、ぐでんぐでんに酔っぱらった親を子供に見せないことの方が、何倍も重要だからね。
昼食後は、夕方まで自由時間。親子の半年ぶりの再会に水を差さぬよう、俺や園長達は離れた場所にいるよう心掛けていた。向こうから近づいてきたら、もちろん会話するけどね。ただし親竜と初体面の美咲は例外とし、「美咲ちゃ~ん!」と呼ばれたら飛んで行って良いことになっていた。子竜達と大の仲良しの美咲は自由時間が始まるや「美咲ちゃ~ん!」と呼ばれ、俺や園長達のいる場所に最後まで帰ってこなかったな。美雪とまったりできるこの時間を俺がとても大切にしていることは、秘密にしている。
自由時間が終わると、夕食会の準備が始まる。前回までは大変だったが今回はあっという間に終わり、親竜達は腰を抜かすほど驚いていた。この幼稚園の卒園生でもある親竜達は夕食会の準備の大変さを身をもって経験していたため、伸縮自在の両腕と器用な十指が竜族社会にもたらす革命を実感できたのである。それを介し親竜達は、
全ての事象に二面性があること
を肌で学んだらしい。機を逃さず、俺は親竜達にテレパシーを送った。「故郷に帰った子竜を一番助けてあげられるのは、ご両親です。どうかよろしくお願いします」 全身全霊で臨むテレパシーを親竜達がすぐ返してくれたのは、手放しで嬉しかった。が、一斉にドシドシ駆けてきて俺を中心に「「「「ナンマイダ~」」」」を始めたのは、超絶マジ勘弁だったな。
そうこうするうち音楽仲間達がやって来て、そして最後に母さんが現れた。母さんは一人の時は白光を左右に割って歩み出てくるような降臨系の登場をするけど、大風と慈雨を伴う今回のような場合はもっと地味な登場をする。白光を纏ったテレポーテーション的な演出に、留めるんだね。といっても神々しさに疑いはないのでテレポーテーションを知らない地球人にとっては、女神の降臨と何も変わらないはずだけどさ。
それはさて置き現れた母さんに、全員が頭を垂れる。「楽にしてね」との声がすぐ掛かるから堅苦しくはないけど、気を緩めてはならないと本能が絶叫しているのも事実。母さんの後ろにいる大風と慈雨は距離が近いぶん絶叫がひときわ大きいのだろう側近の気配など微塵もなく、身分の比較的高い侍従でもなくその下の従僕でもなく、「新人の従僕見習いでございます」がせいぜいの気配にいつもなっている。とはいえそれは登場場面に限り、席に付いたら母さんと普通に歓談しているが再度それは置き、
「翼、いらっしゃい」「はい、星母様」
右斜め後ろに控えていた翼さんを母さんは隣に招き寄せた。竜族と妖精達が、何事かと翼さんに注目する。ヘタレ小市民の俺だったら小便チビル寸前になっていたはずだが、筆頭名家の筆頭当主は伊達じゃない。食い入るような多数の視線にさらされようと翼さんはまこと自然に振る舞い、それだけで只者ではないと竜族と妖精達は見破ったようだった。
「この子は私の娘、天風翼です。みんな、仲良くしてあげてね」「天風翼です。どうぞよろしくお願いします」
星母の母さんにとっては、全員が息子と娘なのだろう。それはそうなのだけど、親子として交流してきた時間や相性によって、気配に違いが生じるのは仕方ないと言える。その意味において翼さん以上に、母さんの娘の気配を自然にまとう人族の女性を俺は知らない。翼さんは俺より早く母さんに会い、「母上様」と呼びかけている。記憶に残らぬほど早く両親を亡くした4歳の女の子に「母上様」と呼ばれ、心を動かさない母さんではない。折を見て夢を訪ね親交を深めることを翼さんが4歳から続け、今は音楽仲間の女組も参加する会合を定期的に開いているとのことだった。伝え聞くところによると翼さん以外は当初「我が師」を会合で用いていたそうだが、そのうち「星母様」になり、今は全員「母上様」になっているという。気の置けない娘達とのおしゃべりを母さんも心待ちにしているようだし、俺としては女組の皆さんに感謝しかないのが真情だった。
という母さんと翼さんの間柄を、竜と妖精は直感的に把握したようだ。そういうのは、言葉にせずとも伝わるものだからね。みんな礼儀正しさはあっても堅苦しくなく、翼さんに挨拶していた。翼さんは素の笑顔になり、母さんと一言二言やり取りしたのち音楽仲間の女組と合流した。そこには美雪と美咲もいて、何気に翼さんと美咲は初対面。しかし何のわだかまりもなくすぐ打ち解け、皆でキャイキャイやっていた。母さん、気持ちは解るけど、キャイキャイ組に加わりたそうな顔は控えなきゃダメですよ。




