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 余談だが前世の俺は、ポイ捨てする人が嫌でならなかった。日本のようにゴミの溢れていない社会がなぜ維持されているかというと、ポイ捨てされたゴミを誰かが片づけてくれているからに他ならない。ポイ捨てを平気でする心の未熟な者の後始末を、心の成長した者がしているからこそ、ゴミの溢れていない社会を維持できるのだ。はっきり言おう、ポイ捨てを平気でする者は3歳や4歳の子竜より劣る、残念な者なのである。

 という嫌な思いを、子竜の幼稚園では一度もしなかった。それは竜族の心が成長しているのもさることながら、「ゴミ拾いと整理整頓が骨の折れる大変な仕事」であることも大きな理由だった。骨の折れる大変な仕事と身をもって知っているお陰で誰もゴミを捨てないし、使い終わった備品を放置する者もいないんだね。そうつまり、


「ゴミ拾いと整理整頓が簡単な仕事になったらそれを軽んずる者が増えていき、ゴミの目立つ散らかった幼稚園になっていく」


 かもしれないという事。まこと宇宙は、全ての事象に二面性を持たせているのである。

 ちなみに竜族の幼稚園におけるゴミの大半は、落ち葉や枝などの自然由来の物を指している。だが落ち葉や枝を軽んずるなかれ。それらが一掃されているとやはり心地よく、そしてそんな心地よい幼稚園時代を過ごした子竜は成竜になっても、自宅および共同体を心地よく保つよう自ずと努めるという。

 では危険性に移ろう。

 長時間の忍耐を強いられる仕事ではなくなった危険性は、既に取り上げている。だが、最大の危険性にはまだ触れていない。最大の危険性は、「簡単な仕事は低能な者の仕事」という社会常識が生まれることだ。この常識の危険度は極めて高く、最悪の場合国家が消滅する。これに気づいている日本の国会議員やキャリア官僚は、ほぼいないけどね。ポイ捨てを平気でする者に話を戻そう。

 ポイ捨てを平気でする者は、それを些細なことと考えている。社会を奇麗に保つような簡単な仕事は、低能な者が就く簡単な仕事と考えている。その低能な者たちより自分は優れているからポイ捨てしても良い、と考えているのだ。この「低能な者たちより自分は優れているから○○をしてもいい」の筆頭が、日本の国会議員とキャリア官僚。裏金問題や、年金を破綻させたのに官僚が責任を取らなくていい行政システム等が、それだね。責任を取らなくていい法律を自分達で作り胡坐をかいているのだから、マジ末期だよなあ。

 あまりにも嫌な気分になってしまう。子竜達に話を戻そう。

 伸縮自在の両腕と器用な十指を獲得した子竜達が長期休暇で帰省し、それらを持たない故郷の竜達と行動したら、どう思うだろうか? 「自分達は優れていてコイツらは劣っている」と、思ってしまわないだろうか? そうまこと、すべての事象には二面性がある。崇高な努力を長期間続けて伸縮自在な腕と器用な十指を獲得したにもかかわらず、そのせいで精神の大幅な退行を招いてしまうかもしれないのが、この宇宙なのだ。

 またこれは、大聖者が己の発言の正しさを証明する方法として、超能力の誇示を決して選ばないことにも通じる。未熟な者は大聖者の発言の正しさを理解できずとも、「この超能力を使えるようになれば自分は優れた者として崇拝されるはず!」系のことはすぐ思いつく。よって発言を無視し、超能力だけを求めるようになるのだ。宇宙広しと言えど、これ以上の本末転倒はそう無い。黒化組織の幹部も超能力を使えるとなれば、人々を闇落ちさせるきっかけを大聖者は作ったとさえ言えるだろう。かくなる理由により大聖者は、己の発言の正しさを証明する方法として超能力を誇示することを、決してしないのである。

 という話を、俺は子竜達に最初期からしてきた。それが実り、子竜達は俺が言いたいことを理解しているように思える。だが帰省し、故郷の者達と行動を共にしても慢心を遠ざけられるかは、賭けの部分もある。大絶賛されているうちに慢心してしまうのは、非常にありきたりのこと。また故郷の竜の中には、「子竜をおだてまくって輝力を教えてもらおう」と画策している者もいるかもしれない。全体的に極めて優秀な竜族でもそれらの危険性はゼロではなく、したがって賭けの部分をどうしても排除できないのである。そしてもしそうなったら、


「夏季休暇が終わったら、地元の幼稚園に編入するんだよ」


 俺は子竜達に、そう告げた。

 今は5月29日の夕食後の、帰りぎわ。親竜達が迎えに来る明日は幼稚園に泊まるけど、今日はいつもどおり基地に帰るんだね。上空に停車しているカレンへ飛んでいく前、子竜達はいつも全員で俺を見送ってくれる。長期休暇以外は毎日来ているのに、ありがたいことだ。しかしだからといって、情に流されてはならない。伸縮自在の両腕と器用な十指を慢心の根拠にした子は、


「俺の生徒ではないし、この幼稚園の園児でもない」


 と俺は断言したのだ。恐怖で縛るのは下策でも、あえてそれをせねばならぬ時もある。恐怖で縛るという悪因を自ら創ることになろうと、先生や師匠や講師という仕事に就く者は、それをしなければならない状況があるのだ。幸い、


「先生とまた会いたい!」「慢心なんて絶対しません!」「「「「絶対しません!!」」」」


 子竜達は大泣きしつつそう言ってくれた。こうなったら腹をくくるしかない。20に分かれた俺は子竜達の頭を撫でて、幼稚園を後にした。


 翌、5月30日。

 長期休暇の前日は仕事を休み午前中に幼稚園を訪れるのが、ここ数年の恒例になっていた。幼稚園に到着し、子竜や成竜達と合流して海岸へ降りる。そしてはるばるこの島に泳いできた親竜達を、園長達と並んで迎えた。子竜達は我慢できず海に飛び込んで両親を迎えるから、俺は園長達と同じ場所にいるんだね。親竜と子竜は約半年ぶりの再会を喜び合ったのち、全員で横一列に並び大仰な挨拶を俺にするのが恒例になっていた。親が子に示す教育の一環と頭では解っていても、勘弁してくださいと心の中で毎回願わずにいられないヘタレ者の俺だった。

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