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子竜達の長期休暇が始まると俺と美雪が落ち込むのは、毎度毎度のこと。何年経っても慣れないのも恒例で今年の夏季休暇も例外ではなかったが、今回は普段より少し早く立ち直ったのも事実だった。なんて事になったら、いつもの俺なら子竜達へ若干の罪悪感を覚えたと思う。だが今回に限り、それはなかった。理由は複数あるが飛びぬけたものを挙げると「俺と美雪のバカンスが復活したことを、子竜達が自分のことのように喜んでくれたから」になるだろう。う~むまったくもって、素晴らしい子たちだな!
というように俺が親バカ化したのには正当な理由がある。それは女子の子竜達が夏季休暇前、
「美雪お姉ちゃん、何か良いことあったでしょ!」
と美雪に詰め寄ったことだ。美雪が胸の奥に秘めていた「もうすぐバカンス」との想いを、あの子たちは正確に感じ取ったんだね。友人達と交わすこのテの心の交流は、まこと嬉しいもの。美雪は非常に喜び、また大抵の女子はこのテの話題を好むため、みんな夢中になって話していた。そして俺と美雪の帰り際「「「「バカンス復活おめでとう~~!」」」」と、子竜全員で声を揃えてくれたのである。う~むまったくもって、マジ素晴らしい子たちだな!
といった感じの極めて嬉しいことに背中を押される形で始まった夏のバカンス「大河の川下り」は、のっけから大成功だった。バカンスは建前上サプライズということになっているので旅の計画は全て俺が立てていて、計画に着手する前は「どのような乗り物で川下りをするのか」が難問になると考えていたけど、蓋を開けたら大外れだった。いつもお世話になっている反重力板の機能を試しに調べたところ、船に偽装することが出来たのである。偽装と言っても3D映像を投影するだけだが、雰囲気作りは旅行において超重要といえる。今回は流れの穏やかな大河の川下りだったため、乾舷の小さい船にした。乾舷は、水面から甲板までの幅を指す言葉。ちなみに舷は宇宙戦艦ヤマ〇世代には馴染み深い、右舷(船体の右側面)や左舷(船体の左側面)の舷だね。最初のヤマ〇を俺が大好きなことを知っていた美雪はTV版をいつの間にか全話視聴していて、あの場面は興奮したこの場面は泣けたと、二人で大いに盛り上がったものだ。いやはや、楽しかったなあ。
話を戻そう。
反重力板が正方形なこともあり、偽装する船は筏船にした。反重力板を長方形に連結して甲板にし、船体を3Dで映したのである。舳先に生じる波や水面に残る航跡波も投影可能だったのでお願いしたところ、現実味が格段に増した。更なる現実味を追求するならエンジン音やスクリュー音およびそれらの振動も考慮すべきで反重力板のAⅠによるとすべて再現可能だったけど、自然な波の音以外はお断りした。ほぼ無音無振動の飛行車に慣れると、音や振動はできれば避けたいと思うようになるんだね。
という訳で始まった川下りを、美雪はたいそう喜んだ。この大河は超山脈北麓の中央を源流とし、途中で東河と西河に分かれて東西の大海と合流する、全長8千キロを誇るこの星最長の河だ。といっても全長8千キロは東河と西河の合計値であり、地球の測定法だと全長は4300キロになる。源流から分岐点までが600キロ、そこからそれぞれ大きく蛇行しつつ東西に3700キロといった具合だ。分岐点の標高は500メートルしかなく、そこから河口まで3700キロというのは、ミシシッピ川に酷似すると言える。気候も植生も非常に似ているからだろう、
「あれ? ここってミシシッピ川だっけ??」
と錯覚することが多々あった。まあこの星の河川の方が、段違いに奇麗なんだけどさ。
地球の都会に住んでいる人には想像できない事の一つに、清流の香りがある。奇麗な川は目に美しいだけでなく、鼻にも芳しいのだ。前世で初めてそれを体験したのは日本一の清流として名高い、徳島県の穴吹川だった。川辺に座りぼんやりしているだけで、出張で疲労した心身がみるみる回復していったのを今でも鮮明に覚えている。
穴吹川は、海から50キロ以上離れた深い山の中にある。よって森の香りも多分に含まれるため、この河と穴吹川の大気の匂いは大きく異なっている。水の匂い自体も違い、穴吹川の水は心身を洗い流されているような清々しい匂いなのに対し、この河の水は花に似た甘やかな匂いが微かにするのだ。四万十川を題材にした古い小説で似た描写を読んだ気がするけど、地球の記憶は年々薄れていき小説名を思い出せないでいる。でも知識は忘れても清流の香りや清流で獲れた鮎の味は克明に覚えているから、全然いいんだけどさ。
この河の水に花の香りをどことなく感じるのは、他の人も同じなのか。ふと疑問を覚え、舳先近くに設けた長椅子の左隣に座る美雪に尋ねてみた。すると思いがけず、
「翔は感じるんだ、バンザ~~イ!」
と美雪が万歳したんだよね。たとえチンプンカンプンだろうと美雪がこうも喜んでいるのだから、それは喜ぶべきことと断言できる。俺は美雪と一緒に万歳し、それだけで楽しくてならずシンクロ万歳を二人で楽しんでいたところ、
「えっとそろそろ、再会の挨拶をしたいのですが」
唐突に声を掛けられた。急いで顔を向けたその先にいたのは、「この河の源流域を担当している土地神の女性版」と表現するのが最もしっくりする、土地神だったのである。
イマイチ納得できずとも再会の挨拶をし、土地神の説明に耳を傾けたところ、「この河の源流域を担当している土地神の女性版」との印象は百点満点だったことが判明した。そうはいっても少々ややこしいので、整理してみよう。
まず初めに俺達のいるこの地域は、異なる土地神が担当している。しかしだからといって遊びに行くことを禁じる掟はなく、土地神はテレポーテーションできることもあり、訪ねたり訪ねられたりを仲良し同士でしょっちゅうしているという。




