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 翌日の夕方。

 いつもより早い時刻に輝力分身で幼稚園を訪れ、元頭竜夫妻達に挨拶する。「皆さんのお陰で今回の件に折り合いを付けられました。深く感謝します」 そう言って腰を折った俺に、元頭竜夫妻達は声を揃えてくれた。「「「「翔さんの未来に、幸あれ」」」」 再度腰を折った俺は、続いて準四次元へ飛んだ。

 その飛んだ先に、母さんがいた。母さんの実力ならそんなの屁の河童だろうし、いやそもそも俺はお釈迦様の掌の孫悟空でしかなかったのだろうが、心はとても澄んでいる。掌の上でのたうち回っていたにせよ、それは俺が自ら考え自ら決断し自ら行動したこと。それを経てこの澄んだ心になったのだから、これで良かったのだ。俺は胸を張って述べた。


「母さん、今回も残念息子を助けてくださり、ありがとうございました」


 胸を張りそう述べたのち、正座して床に額を付ける。母さんの正座する気配がして、次いで後頭部に二つの掌を感じた。これでも付き合いが長いので母さんが上機嫌なのは確信できても、その後の行為は計りかねた。撫でては指で梳き、梳いては撫でるを繰り返しているのは、どういう心情なのだろう? ふいに脳裏を、「息子を案じている母親」という文言が駆けて行った。俺はバカ息子だから、母さんをさぞ心配させているに違いない。情けなくて泣けてきたが、泣いたら更に案じさせてしまう。俺は笑顔で上体を起こし、訓練に戻ることを告げてその場を離れた。

 以前は無理だったけど、最近は基地でも強化2闇王を楽々倒せるようになっている。なのにこの前は瞬殺され美雪に血相を変えさせてしまったのだから、未熟が過ぎるというもの。同じ轍を踏まぬよう強化2闇王を楽々倒し、戦闘を終える。美雪に顔を向けたところ、今日の訓練時間は残り5分とのこと。「もう一戦するよ」「了解です」 そうやり取りし、本日最後の戦闘に俺は臨んだ。


 訓練を終えシャワーを浴び、竜族の幼稚園を目指す。今日は美雪が、子竜達の歌の先生をする日。よって美咲と二人で幼稚園を目指すが、子竜や妖精と約束のある時はそちらを優先するよう伝えている。美咲はそれを喜び、月に一度は俺一人でカレンに乗る日があったのに、2カ月近くその日が無いのは、俺を気遣ってのことなのだろう。


「美咲」「なあにお兄ちゃん」「兄ちゃんと一緒にいてくれて、ありがとう。もう平気だから、約束があったらそちらを優先してね」「もう大丈夫なのね! 良かった~~!!」


 美咲は俺の胸に飛び込んできて少し泣いた。俺は母さんだけでなく、美咲も心配させていたようだ。まったくもって、兄失格である。俺は美咲を抱きしめ、心から詫びた。

 幼稚園に着いた。子竜達と一緒に、美雪も笑顔で出迎えてくれる。美雪の表情に影はないけど、美咲が心配していたならそれは美雪も同じ。俺は分身を出し子竜達の相手をしつつ、美雪に近づきその手を取る。そして本調子に戻ったことと、心配させてしまった詫びの言葉を伝えた。美雪は笑顔で首を横に振り、俺の手を引き歩いていく。弾むように歩く笑顔の美雪に手を引かれているだけで幸せなのに、俺はなんて馬鹿なのだろう。「その自覚はあっても、今生も馬鹿なままで終わりそうだ」 俺はそう、胸の中で呟いた。

 

 その日の夜8時。

 湯船に浸かりながら、翼さんに概念テレパシーを送った。肯定の概念テレパシーが素早く返って来て、胸に痛みが走る。テレパシーを前回送ったのは、かれこれ2カ月近く前。にもかかわらず返事がこうも早いのは、ずっと待っていたからなのだろう。大きすぎるその罪を、新たな荷として俺は背中に背負った。


 約4時間後の、午後11時55分。

 スペースコロニーに繋がる扉の鍵穴に差し込むべく、鍵を収納庫から取り出した。でも俺はそれを、鍵穴に差し込むことができなかった。音楽仲間達をコロニーに初めて招待した日、翼さんがとても機嫌良かった理由と、ようやく向き合えたからだ。翼さんへの考察を途中で止めるのが当たり前になりすぎ、俺はこんな簡単なことも「わからないこと」として処理していたのである。両手で鍵を握りしめ、俺は扉の前でしばし蹲っていた。

 この次元では時間速度を数百倍にできることに感謝し、立ち上がる。三次元世界では、1秒も経過していないはずだ。俺は鍵穴に鍵を差し込み、扉を潜った。

 足を踏み出したのは、萌える緑の美しい芝生。しかし目線を芝生から離すと、そこには見事な紅葉が広がっていた。11月上旬のスペースコロニーの山岳部は、紅葉の季節を迎えていたんだね。これほど見事だと翼さん以外の仲間達とも鉢合わせそうだけど、そこはここを創った者の特権。何を隠そう俺はこのスペースコロニーに、並行世界の要素を取り入れている。俺だけ、もしくは俺の招待した人だけがいる並行世界のスペースコロニーを、楽しめるようにしているのだ。皆に配った鍵にその機能を組み込んでいることを知る者は、今のところいない。翼さんには、今夜明かすつもりだけどさ。

 ちなみに並行世界へは、地球人が考えている何万倍も容易に行ける。実際ネットに、体験談が溢れていたしね。ただ第四時代の人々のやらかしにより制限がかかり、かつ境界の要衝に管理者を置くことになった。その人達が所謂、時空のオッサンだ。並行世界に偶然足を踏み入れてしまった人達を元の世界に戻している星務員さん達、お疲れ様です。

 話を戻そう。

 紅葉真っ盛りの景色を楽しみつつ、青々とした芝生を踏みしめて歩く。扉を開ける音も足音も消してないから、向かう先のベンチに座っている翼さんは俺の到着に気づいていると思っていたけど、違ったらしい。


「お待たせ翼さん」「ひゃっ、ひゃい翔さん」

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