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 あの時期の俺にとって、子竜達と過ごす時間はまことかけ替えのない時間だった。それはどんなに言いつくろおうと、浄化の時間だった。汚れた俺の心を、子竜達が清めてくれていたのだ。ただ清めの対象になるのは自己嫌悪に代表される自分自身に抱く汚い気持ちのみであり、ハーレム俺は対象外だった。俺が自分自身で解決せねばならぬことゆえ、それで当然といえよう。だがそれでも、心の弱っている俺は幾度も、浄化を頼めるなら頼みたいと叫ぶ寸前になったものだ。もちろん子竜達に、そんな負担はかけなかったけどさ。

 それを、報いてもらえたのかもしれない。ハーレム俺を浄化する者が、現れたのだ。それは寿命が数カ月後に迫った、元頭竜夫妻達だったのである。

 正しく生きた者は寿命を迎える寸前、長足の成長をすることがある。ほんの数日間で卒業目前になり、死後に卒業資格を得て次の星へ旅立っていく人は決して少なくないのだ。竜族に次の星はなくとも、寿命を迎える寸前に長足の成長をすることがあるのは変らなかったらしい。いや期間が数カ月と長かったので、成長率は人より大きかったと思う。その上更に、意識の共鳴まで起きていた。交流歴300年の友達もしくは夫婦が最後の数年を集団で過ごし、かつ同じ目的に向かって突き進んだため、意識の共鳴が生じていたのである。その共鳴に触れることで、俺の心の内側に浄化の光が灯った。子竜達は清らかな心で俺の心を洗い流し、それは心の外側に作用する浄化だったが、元頭竜夫妻達の心が作用したのは、外側ではなく内側。元頭竜夫妻達の意識の共鳴は俺の心の内側と共鳴し、そこに浄化の光を灯したのである。

 またそれは、当たり前と言ったらそれまでだけど、俺の胸中への理解も促した。心の成長した300歳の竜達にとって俺の中にあるハーレム俺は、


  自然現象の一つ


 として理解可能だったらしいのだ。一夫一婦を生涯貫いた、途方もなく強い絆で結ばれた夫婦のはずなのに、性別に関係なく「「「「そういう事もある」」」」と全員が声を揃えたのである。そう何を隠そう俺は、元頭竜夫妻達に洗いざらい打ち明けたんだね。たぶん母さんにも不可能だった役を元頭竜夫妻達が担ってくれたのは、どういう仕組なのだろう? 推測は無数に出来るがひょっとすると、


  死


 が関係しているのかもしれない。死の側面の一つが死を間近に控えた者に現れ、俺に洗いざらい打ち明けさせた。それが一番しっくり来ると、俺は感じている。 

 このように元頭竜夫妻達は他の誰にも不可能なことをしてくれたけど、それは母さんも同じだった。俺がハーレム俺の件を元頭竜夫妻達に相談していることを、美雪に知覚させなくしたのだ。俺は当初それを美雪への不誠実として捉え、美雪にも洗いざらい打ち明けようとした。すると母さんが、テレパシーで俺にこう頼んだのである。


「翔に背負えない重荷を、美雪に背負わせないであげて」


 この頼みを了承したのは、正しかったのか? それとも、間違っていたのか? その答を、俺は未だ出せていない。理由を突き詰めると、「美雪は本体を持たないAⅠだから」になる。俺は今回の件で、本体に幾度も助けてもらっている。宇宙空間に一人漂っていたのもそうだし、訓練中にふと閃き輝力分身で幼稚園を訪れ元頭竜夫妻達にハーレム俺の存在を明かしたのも、おそらく助力なのだろう。後者は断言できないが今は置き、とにかく俺は宇宙的視野を有し永劫の時を生きる本体に幾度も助けてもらったが、その本体を美雪は持っていない。美雪が持つのは母さんお手製のプログラムで、そのプログラムでも対処不可能なら母さんが助けてくれるに違いなく、そしてあの頼みこそがまさにそれだったのだと俺は思っている。そう思うなら、母さんの頼みを了承したのは正しかったという事になる。でもそうならないのは、美雪の本体は母さんではないからだ。


『俺と美雪の両方に本体があった場合の正解は、母さんにすらわからない』


 これが、宇宙の真実なのである。願わくば次の宇宙で本体を持つ美雪と出会い、今回の件の正解を導き出せますように。

 というのが、今の俺の精一杯。よって話を少し戻すとしよう。

 基地で強化2闇王と戦っている最中ふと閃き、輝力分身で幼稚園を訪れ、元頭竜夫妻達にハーレム俺の存在を俺は明かした。その俺の様子を、通常なら美雪は見ている。竜族の幼稚園には古典AⅠが設置され、そのAⅠと美雪は常時接続しているからだね。俺にとってそれは常識なのにその時は完璧に忘れていて、元頭竜夫妻達との話し合いを終え肉体に戻りしばらく経ってから、俺はそれをやっと思い出した。取り乱した俺は強化2闇王に瞬殺され、すると美雪が血相を変えて傍らに現れ俺の安否を確認した。その様子に、悟ったのである。「母さんが介入し、幼稚園での出来事を美雪に伏せたのだな」と。

 母さんの介入は妖精にも及び、妖精もハーレム俺の件を知らないままでいる。知ったら美咲に伝わり、すると美雪も知ることになるため母さんにとっては順当でも、納得できないというのが俺の本音。けど今は置き、では俺と母さんは今回の件を話し合っているかというと、一切してないんだよね。言うまでもなく俺がふてくされて、母さんを無視しているんだけどさ。う~む我ながら、怖いもの知らずだよな!

 バカ息子とはそういうものなので諦めてもらい、先に進もう。

 納得できぬことは多々あれど、ハーレム俺を明かすことで元頭竜夫妻達の意識の共鳴に触れ、俺の心の内側に浄化の光が灯ったのは事実。そしてその結果、


「ここに来るのも今夜が最後か」


 宇宙空間に一人漂いつつ、俺はそう独りごちた。極度の疲労時にすべてを放棄し休むのはポジティブでも、疲労を除去したら行動することがポジティブになる。心の内側に灯った浄化の光により行動可能になったのだから、宇宙空間への緊急避難は終了なのだ。さあでは最後に挨拶して、ここを離れますか。俺は直立不動になり、お世話になった宇宙空間に感謝を述べる。そして敬礼し、肉体に戻ったのだった。

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