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 俺自身が残念だったこと、も今回はあった。そんなのいつもの事じゃんと突っ込みの集中砲火にさらされそうだが負けずに説明すると、こうなるかな。


『古代アトランティスの万能視聴覚機は音響も超高性能だったのに残念な俺はそれを忘れていたため、面倒な事態になった』


 話は、閣僚達のトト〇の視聴後にさかのぼる。

 トト〇は閣僚達にも大好評で最初は皆、子供時代に戻ったかの如くトト〇の感想を語り合っていたらしい。それが一段落すると専門的な見解を発表する大臣が複数現れそしてその終盤、科学技術大臣が挙手した。科学技術に関することが映画にあったかと首を傾げる者が続出する中、大臣は興奮気味に言ったそうだ。「音響技術が革命的だった」と。

 閣僚達がトト〇を視聴したのは、大統領官邸の視聴覚室。言うまでもなく最高の視聴覚機が設置され、その性能を科学技術大臣は専門家の目と耳で把握していた。だがトト〇の音は、それを凌駕した。役職柄居ても立っても居られず秘書AⅠに問うたところ、この部屋の音響機器は、俺の輝力製音響機器の制御下にあると秘書AⅠは答えた。幼年学校の備品の音響機器を借りるから、たしかにそう創ったんだね。その後も科学技術大臣は秘書AⅠとやり取りし、こう結論したという。「この輝力製音響機器の技術は、この星の音響機器に革命をもたらす」と。

 繰り返すが、残念な俺は忘れていた。「今回の件に古代アトランティスの万能視聴覚機が絡んでいることを閣僚達は知っている」ということを、忘れてしまっていたのだ。つまり閣僚達は科学技術大臣の言葉から、俺の輝力製音響機器がオーバーテクノロジーであると悟ったんだね。悔やんでも悔やみきれないけど、母さんは俺に「万能視聴覚機の音響機器を模していいよ」とのテレパシーを送っていた節がある。したがってオーバーテクノロジーが漏れたことは必然だった可能性もあるのだけどそれは置き、科学技術大臣からメールを受け取った俺は困った。美雪と冴子ちゃんの飲み会の件で、科学技術大臣には恩があったんだね。悩みまくり考えまくったが最終的に、


「母さん、やらかしてしまいました」


 と土下座することになった。母さんは何も言わず、俺の後頭部を撫でる。そして「翔に任せます」と言い、去って行ったのだった。

 後頭部に触れた手と、耳に届いた声。その二つに、いつもと変わらぬ優しさを俺は感じた。難しいのは母さんの場合、優しさはいかなる根拠にもならないということ。創造主が手ずから創った母性の見本が、母さんだからだ。そうはいっても、あの優しさのお陰でやる気が漲ったのも事実。俺は瞑想し、今後の計画を立てていった。

 最初にしたのは、科学技術省に大臣との会談の申請書を提出することだった。輝力体で申し訳ないが科学技術省に赴くので会談の時間を設けてほしいと、大臣に頼んだのである。ありがたいことに快諾され日時がすぐ決まり、科学技術省で会談した。重ねてありがたいことに科学技術大臣は、俺の要望をまず聴くと言ってくれた。篤くお礼を述べ、要望を二つ話した。


[1] 輝力製音響機器の技術の拡散によって予想される、利点と問題点を教えてほしい。

[2] 特許も名誉も一切いらないので、俺の名を伏せてほしい。


 大臣の返答を要約すると、[2]によって[1]の問題点が消えた、になるだろう。高額特許にすると特許料を払える者達だけが新製品を販売でき、予想される唯一の問題点はそれだが、[2]によりそれがなくなったという事らしい。俺は安堵するも、大臣はやはり政治家なのだろう。「2によって生じた問題点もありますよ」と、奇襲をかけて来たのだ。


「輝力製音響機器の新技術は、科学技術省で無料公開します。そのさい、開発者の意向により特許料を要求しないことと開発者名を伏せることを明記すれば、翔さんの要望を叶えられるでしょう。しかし、科学技術省で扱う書類のすべてに開発者名を伏せることは不可能です。機密文書にしますが、開発者名を閲覧できる職員は数名いると考えてください。それを了承してもらうよう翔さんを説得するのが、私が背負うことになった問題です」


 そんなこと言われたら了承しますと答えるしかないですよ、とせめて恨みがましく文句を垂れさせてもらった。だがその程度、やり手政治家の大臣には屁でもなかったらしい。「一件落着です!」と豪快に宣言されたんだよね。問題点の方は、それで終了だったな。

 続いて大臣は、利点の説明に移った。要約すると「スピーカーで再生されるすべての音が高品質化する」になるだろう。俺は胸中の大興奮を秘し、冷静に尋ねた。


「量子AⅠの普段の声や歌声も、高品質化しますか?」


 現時点で美雪は、最高の美声と最高の歌唱力を保有している。愛してやまないそれらが更に高品質化したら、俺はどうなってしまうのだろう。いや俺などどうなってもいいから、美雪がより良い声と歌声を手に入れますように。そう祈りつつ待っていた俺の耳に、「もちろん高品質化します」という大臣の返答が届いた。俺は我慢できず、会談そっちのけでガッツポーズしたものだった。

 幸いガッツポーズは大臣の気分を害さず、場の空気をむしろ柔らかくしてくれた。またさすが科学技術大臣なのだろう輝力製音響機器への専門的な質問をしてきて、それで盛り上がったりもした。質問は輝力製の反重力ペンダントにも及び、大臣なので機密を気にせず受け答えできたのは素直に楽しかったな。


「黄色の輝力を纏う反重力エンジンに青色輝力を発生させるより、青色の輝力を纏う反重力ペンダントに青色輝力を発生させる方が、容易かつ高効率なんですよ」「ほほう!!」


 といった話題で盛り上がっているうち、会談の時間は終わった。社交辞令だろうけど「戦争に勝ち戦士を引退したら、科学技術大臣としてこの星の科学技術を牽引してもらえませんか」には、少々興味を引かれた俺なのだった。


 その翌々日の朝。

 目覚めて美雪に挨拶した俺は、飛び上がって喜んだ。「お早う翔」と返ってきたその声が、昨夜より美声だったからだ。美雪をお姫様抱っこし外に連れ出し、ひとしきりクルクルしてから聞いたところによると、科学技術大臣の粋な計らいだったことが判明した。あの技術によって高品質化した量子AⅠの声をこの星で最初に聴いたのは、なんと俺だったそうなのである。「科学技術の発展に寄与したのに金銭も名誉も望まなかった翔への、せめてものお礼なんだって。えっとあの、翔は嬉しかった?」 頬を赤らめそう訊く美雪を、優しく地面に降ろす。そして某映画の某シーンをそっくり再現し、


「美雪、大好きだ!」


 と、受け答えになっていないただの告白を俺はしたのだった。

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