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幼年学校は、8万5千校ある。その全てに音響機器を恒常的に設置するのではなく持ち運び可能にし、1学年だけに上映するなら、音響機器は8500台あればいい。上映を午前組と午後組に分ければ4250台だ。仮に日本円で1台10万円とするなら4億2500万円にしかならず、この星の財政なら容易いのでないか? それとも、10万円という値段設定が安すぎるのだろうか? よって美雪に訊いたところ、少なくとも20万円とのことだった。しかし20万円でも8億5千万円だし、大して変わらないとしか思えない。では、何が障害になっているのか? 「トト〇を含む映画の上映は一度きりしかしないと、閣僚達は考えている」 この可能性が最も高そうだ。幼年学校の音響機器の性能が低いのも、幼年学校で映画を上映するつもりが最初からなかったと考えるのが自然。実際俺も、ママ先生の孤児院でも鈴姉さんの孤児院でも映画を見てないしさ。
それでも大統領は「幼年学校の生徒達にトト〇を見せる計画」と発言した。美雪に訊いたところ案の定、低音質のままトト〇を一度だけ見せる可能性が高かったようだ。「たとえ大統領達がトト〇に感動したとしても、一度の上映のために音質向上の予算を組むとは考えにくい」と、美雪は顔を曇らせていたな。
というアレコレを踏まえ、俺はどう行動すべきなのか? 可能不可能を度外視すると、未来は三通りあると思われる。
[1] 耐用年数の長い輝力製品を開発し、それで音響機器を創り幼年学校に寄贈する。
[2] ローンを組み音響機器を俺が購入し、幼年学校に寄贈する。
[3] 物質創造技術を俺が習得し、音響機器を創り幼年学校に寄贈する。
[1]について。仮に耐用年数5年の輝力製品を開発したとしよう。俺の輝力分身48体で4250台の輝力製音響機器に輝力を注入すると、1体が89台を担当する。1台につき1分掛かっても90分だから、今なら負担はない。しかし訓練に没頭し始める3年後以降は、判らないというのが正直なところ。耐用年数100年なら、問題ないけどさ。
[2]について。太団長の給料なら、30年ローンを組めば返済は苦しくない。苦しくないどころか俺はお金をまったく使わないので、ローンの存在を忘れるんじゃないかな。現状でも給料のほぼ全てを寄付しているんだし、実質何も変わらないだろう。
[3]について。仮に物質創造技術を俺が習得したとして、この用途は宇宙法則に反するのか? 1台ならまだしも4250台となると、反する気がするな。
考察の結果今のところ、[1]と[2]が有力と思われる。耐用年数100年の輝力製品には俺も興味津々だし、とりあえず[1]を目指すことにしますか。よしでは、
「お休み美雪」「お休み翔」
俺は美雪に挨拶し、寝袋に入ったのだった。
耐用年数100年の輝力製品の開発は、予想を超えて楽しかった。閃きが次々浮かんできたのである。現時点の最有力候補は、バッテリー交換方式。乾電池の輝力版(暫定的に蓄輝器)に俺が輝力を注入し、輸送と交換はドローンと家事ロボットに任せる方式だ。今の能力でも、蓄輝器は容易く創れる。輝力楽器を収納する指輪の難度を10とするなら、2程度だからね。もちろん蓄輝器の性能次第では、10を超えるかもしれないけどさ。
蓄輝器の開発は準四次元で行っている。販売されている音響機器を輝力で模しそれに蓄輝器を組み込んだ試作機は、映画上映を年一回にすると、バッテリー交換は5年毎になる。輝力分身48体をテレポーテーションさせて4250台に輝力注入するよりは楽でも、少なくともバッテリー交換を10年毎にしたい。3分掛からず4250個の蓄輝器を満タンに出来るはずだから、多忙になっても10年毎なら、まったく負担にならないしさ。
よって蓄輝器より音響機器の方が、今は難問になっていた。販売されている音響機器には、特許があるからね。どうしようもなくなったら母さんの友人さんにお願いし、万能視聴覚機の音響システムを模倣させてもらう予定。なんとなく「それで構わないわ」と母さんが言っている気がするけど、音響機器の自力設計をもう少し頑張ってみるつもりだ。
と思い音響機器の学術的勉強を自分なりに頑張っていたら、
「おおっ!」
閃きを降ろせてしまった。しかもそれは、万能視聴覚機の音響システムだったのである。よくよく考えたら、その可能性は十分あった。俺は以前、万能視聴覚機を輝力で模したことがある。よって音響関連も模していて、そこに学術的理解が加わったため、閃きを降ろせてしまったということ。う~む、ご都合主義を疑われるレベルだなこりゃ。
まあでもややこしく考えず、ここは素直に感謝しておこう。そう開き直り降りてきた音響システムを基に音響機器を創り、そこに現時点で最高の蓄輝器を組み込んだところ、なんとバッテリー交換を10年毎に伸ばせた。万能視聴覚機の音響システムは、省電力もすこぶる優秀だったんだね。さあでは、残っているのは一つだけ。幼年学校の映像機器とリンク可能にすれば完成なのだ。幸いそれは、美雪が方法を知っていた。万能視聴覚機の内蔵AⅠに、それを教わっていたのである。という訳で、
「新発想の輝力製音響機器が、完成しました!」「「「おめでとう~~!!」」」
完成を宣言したら、母さんと美雪と美咲が声を揃えて祝ってくれた。美雪と美咲はいつも一緒にいるから普通でも、なぜ母さんも混ざっているのだろう? などと考えたら泣かれて面倒になるし、何より俺はマザコンだから、ここは素直に喜んでおきますか。そう開き直り、お祝いなので冴子ちゃんも呼んで、臨時のお茶会を俺達は開いたのだった。
その翌日。
新発想の輝力製音響機器の完成および今後の計画等をメールにしたため、大統領へ送った。その中に「お望みなら、大統領官邸に輝力製音響機器をドローンで送ります。映写機は官邸の備品で十分ですから、閣僚の皆さんとトト〇を見てみますか?」との一文を入れたところ、ぜひお願いしますと返ってきた。返信には閣僚全員の謝罪文も添付されていたし、前回の件は水に流すとしよう。
少し案じていたけど、トト〇は閣僚にも大好評だったらしい。情報源は母さんなので間違いないはずだ。視聴後、幼年学校の全生徒が見るべき映画と決議され、来年の夏季休暇前の上映が決定した。上映するのは、8年生のみ。その代わりこの星の子供達は来年以降、8年生つまり10歳になったらトト〇を幼年学校で必ず見ることになった。まこと、嬉しい限りだ。来年の夏季休暇前日まで残り10カ月以上あり、すると1日あたり29台になるから創るのも余裕だしさ。
ということで確定と思っていたけど、変更が少々入った。「翔、輝力製音響機器を8500台創っておいたわ」「え!? あの、ありがとうございます」 てな具合に、母さんが助けてくれたんだね。これなら今年の8年生から10年生までにも見せてあげられるし、超絶ありがたかった。しかし母さんの創った輝力製音響機器は、3回上映すると消えてしまうという。そこは、残念でならない俺だった。




