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というアレコレを、綾乃さんは夫婦の会話でしたという。その会話がなされたのは、去年の9月下旬というから驚くしかない。俺が鷹司令官にテレパシー送受信機の件を報告し、昇と鷲と橙の仕事の代理をする可能性が浮上するや、綾乃さんは未来予測として夫の鷹さんにそれを話したらしいのである。いやはや綾乃さんは、マジ女傑だな!
綾乃さんの未来予測は司令官会議でただちに取り上げられ、冬期休暇前に方針が決定した。俺が去年の12月に教導の代理をした学校には「カップルの片方のみが名家」というカップルが多数いたことと「冬期休暇にも決まりがある」ことにより、方針を決定せねばならなかったのだ。その冬期休暇の決まりは、1年時の冬期休暇に彼氏は彼女の実家を訪問しご両親に挨拶する、というものだった。これと名家巡りを結びつけ、逢引きの口実にするカップルがいるかもしれない。よって子供がそれを持ちだしたら、「娘の父親の胸中を慮ること」と「来たら歓迎すること」の二つを推奨すると、司令官会議は名家の親達に通達したそうなのである。藪蛇になるかもしれないから非名家の親には、通達しなかったそうだけどさ。
そして迎えた、冬期休暇の名家巡り。名家出身ではない伴侶を名家巡りに呼ばなかった教え子は、一人もいなかった。招待された伴侶はみんな俺に挨拶してくれて、とても嬉しかったな。ご両親も一緒に挨拶してくれたけど、「冬期休暇は仕方ない」と娘さんの父親が諦めていたため睨まれることはなかった。そうコレが今現在、仇のように睨まれている理由。冬期休暇は仕方ないを裏返すと「夏季休暇は許せない」に、なるからさ。
そう今は、夏季休暇中。本来なら親子水入らずで過ごす最後の長期休暇のはずなのに、それを台無しにされた父親達が俺を睨んでいるということ。気にならないと言ったら嘘になるけど父親の気持ちも十分解るので、仕方ないと諦めることにしている。が、
「翼さん落ち着いて!」「わかっています、わかっていますが、わかりません!!」
翼さんが爆発寸前なんだよね。ヒエエッとのけ反り土下座して謝りたいのが本音でも、さすがに今はマズい。俺は全然かまわないし、俺との付き合いの長い天風一族の人々も笑ってスルーしてくれるはずだけど、一族以外の人達が今は少なからずいる。俺と翼さんのやり取りを見た一族以外の人達は、いつか真相にたどり着く。父親の理不尽な行動を天風家筆頭当主が激怒したことと、それを宥めるべく娘の師匠が土下座したことを、あの人達はいつか知るのだ。そのとき父親がかつての己の理不尽さを客観視できるようになっていたら、父親は何を思うのか? それを考えると翼さんを爆発させてはならないし、俺も土下座してはならない。それが正解と知りつつも、ではどうすれば翼さんの怒りを鎮められるかも分からない俺は、ほとほと困り果てたのである。
そんな俺を助けてくれたのは、鶴だった。実子が戦士養成学校に行く年齢になっても天真爛漫で容姿的にも幼い印象の抜けない鶴は、翼さんにこう言ったのだ。
「翼お姉ちゃんは、師匠がホント好きよね」
改めて考えると助けてくれたとしていいのか微妙だが天真爛漫なのは間違いなく、それゆえ鶴の言葉は怒気をスルッと通り抜け、翼さんの心に直接届いた。届いた言葉の意味を理解し、翼さんの心が一瞬で羞恥に染まる。その心理状態を漫画では「ボン!」系の爆発音で表現することが多く、実際翼さんの心も爆発したらしい。首を含む首から上のすべてが真っ赤になった翼さんは咄嗟に言葉を紡ぐことができず、「な、な、な!」のみをむなしく繰り返すだけだったのだ。こうなると、翼さんを案じる気持ちが一気に膨れ上がるのが俺の常。そしてそれを決して見逃さないのが、鶴なのである。鶴は「翔お兄ちゃんの最初の弟子は私」と公言しており、言われてみたら俺を師匠と最初に呼んだのは鶴で俺としては兄のままでいたかったのだけどそれは置き、
「ほら師匠、ビシッと決めて」
鶴はそう天真爛漫に言った。しかもすぐ小声で「お兄ちゃんファイト!」と付け加えるのだから、鶴には敵わない。反射的に「兄ちゃんに任せろ」と目で応えた俺に、出会ったころと変わらぬ「にぱっ」系の笑みを浮かべた鶴に頷き、俺は翼さんに語りかけた。
「翼さん、俺のためにいつも怒ってくれて、ありがとう」
鶴には内緒だが、三つの概念テレパシーも一緒に送った。一つは輝力製楽器にナノマシンを入れてほしいと駄々をこねる昇達に、翼さんが激怒したこと。もう一つは意志のアカシックレコードで俺達は夫婦として過ごしたこと。最後の一つは「昇達に激怒したとき夫婦として過ごしたアカシックレコードを思い出し、翼さんを妻と感じたこと」だ。俺のためにああも怒ってくれたのは前世も含めて翼さんしかおらず、今回もそれは同じだった。いつもありがとうと、俺は素の心を素直に伝えたのである。翼さんはさっきの「ボン!」を凌ぐ「ドカ~ン!」系の大爆発音を用いる状態になるも、目を閉じ両手を胸に添える。その数秒後、瞼を開けた翼さんは俺の隣にいる時の、幸せそうないつもの翼さんに戻っていたのだった。
それから俺と翼さんと鶴の3人でしばし談笑した。俺としてはもっと話したかったが間もなく訓練開始だったことと、寛志が妙に気を利かせて鶴を羽交い絞めにして連れて行ったことにより、しばしの談笑で終わってしまったのだ。去りゆく寛志に「訓練後に4人で話そう」と声をかけたら、なんかやたら喜んでいたな。
訓練開始に合わせ、輝力分身を複数出す。幼年学校組の担当は四本腕にして、追いかけっこや組み手を始める。天風の幼年学校組は今年、普段以上に元気がいい。翼さんによるとそれは「となりのトト〇」を見た以降のことらしく、嬉しい限りだ。ちなみに映画館は、帽子堂に輝力で手を加えたという。一族の戦士養成学校生がそれを担当し、翼さんが褒めていたのでアカシックレコードで確認したところ、ナカナカのできだった。トト〇もメチャクチャ受けて大盛り上がりだったし、良いこと尽くしだな。
訓練時間の終わりが近づき、恒例のマッハ60矢を披露した。ありがたいことに今回も好評で、拍手と歓声でもって訓練を終了した。さあでは天風家お得意の海鮮料理に、舌鼓を打たせてもらいますか! と心の中で万歳していたら、
「「「「空太団長」」」」
久しぶりに階級で呼びかけられてしまった。階級で呼びかけられること自体が苦手なのに、太団長というのが更に悪い。第10次戦争で第一太団長が人類を救ってから、太団長は特別な階級になったんだね。ちなみに少し前までは仲団長だったけど、テレパシー送受信機の件で昇進してしまった。俺が絡んでいたことを司令長官が司令官会議で暴露し、昇進の運びとなったのである。辞令を受けた際の司令長官の、
「人の悪い笑みを浮かべていない司令官はいなかった。空太団長の気質を司令官全員が熟知していることを、長官として嬉しく思う」
はマジ堪えたな。人類軍勝利に貢献したはずなのに報復人事まがいの目に遭う己の不運さに、打ちひしがれた俺なのだった。
ヤバい、冗談抜きで落ち込んできた。気を逸らすことも兼ね、神妙な顔で詫びに来た件の父親達に対応するとしますか。
そう、俺に階級で呼びかけたのは、訓練前に俺を仇のように睨んでいた父親達だった。父親の気持ちを十分理解できるので仇云々を俺は気にしておらず、然るにそれと階級の件を比べたら、後者の方が断然大ダメージなのが本音。つまり父親達は詫びているつもりでも俺をコテンパンに打ちのめしたのが真実なのだけど、初対面なので仕方ない。司令官全員が俺の気質を熟知していることを長官が喜んだのは的を射ていたのだと、遅ればせながら気づいた俺だった。
などと頭の中でウジウジ考えていた甲斐はあった。心穏やかに「はい、どうかされましたか?」と応えられたんだね。その穏やかさに父親達は神妙さを通り越し小刻みに震え始めたけど、身から出た錆として諦めてもらおう。
父親達はその後、口々にいろいろなことを言った。くすぐったい褒め言葉は記憶から全消去し、反省の言葉のみを吟味したところ、心から反省したとして良いようだ。ならば、水に流すのみ。俺は謝罪の言葉へ丁寧に対応したのち「さあ絶品海鮮料理をいただきましょう!」と、父親達を昼食の席へ案内したのだった。
フランスの暴動は、国民による政府への正当な抗議に、悪人達が便乗し悪事を働いているというのが私の見解です。
フランスでは昇進時、学歴が足りなかったら大学院等に入学し、相応の学位を得てから昇進するということを長年続けてきました。それにより「学歴は無関係」という気づきを意図的に遠ざけてきたかの国は、
【高学歴エリートの心の成長平均は一般平均より低い】
が、ことさら顕著になっています。あの人達では能力不足により正しい移民政策を行えませんし、激動の社会における正しい政治や行政も難しいでしょう。暴動の根底にあるのはコレだと、私は考えています。




