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その、約1カ月後。
年に一度の「美雪と冴子ちゃんが酔いつぶれていい日」が今年もやって来た。じゃれ合いながらお酒を次々飲み干していく二人を見ていると前世の祖国でお約束だった、
「「プハ~~、この日のために生きてるのよね~~!」」
というセリフが耳にありありと蘇ってくる。演技でなく素でお酒を楽しんでいるし、それは母さんと美咲も同じだから、俺としては嬉しさしかない。美咲だけジュースでちょっぴり申し訳ないけど、このイベントを心待ちにしていた美咲もはしゃぎどおしだから心配無用だろう。ジュースもケーキも、最高のものを選んでいるしさ。
そうそう最高と言えば、今年のお酒も美雪と冴子ちゃんに「「最高!」」と言ってもらうことが出来た。二人のために今年用意したのは、果実リキュール。苺を使った赤いリキュールと、パイナップルを使った黄色いリキュールだね。生の果物の風味をアルコールと一緒に楽しめる果実リキュールに、二人は驚喜した。夏は冷たい飲み物を格段に美味しく感じることも相まって果実リキュールは矢のように消費され、「キャ~冴子~」「キャ~美雪~」系の言葉のみを二人は繰り返すようになっている。それでも抱き合いじゃれ合い互いの名を呼び合っているだけで満足らしく、心底楽しげにキャッキャしていた。それは去年と一昨年同様、母さんの膝枕で二人が寝るまで続いていたな。
「翔、今年もありがとう」「俺にとっても今日は、一年間待ちに待った日です。母さんと美咲にも楽しんでもらえて、俺も嬉しかったです」
美咲が「お兄ちゃんさすが~!」と抱き着いてきた。「美咲、盛り上げ役を今年もありがとう」「わたし役にたった?」「もちろん、大活躍だったよ」「やった~~!」
青く輝く光の粒をたくさん振り撒き、美咲が踊るように空中を飛び回る。ふと閃き美咲より身長が2センチ高いだけの、執事服を着た分身俺を空中に投影してみた。驚いて急停止した美咲が、分身俺の前でモジモジしている。さっきの閃きは、正解だったようだ。執事服を白の燕尾服に変え、分身俺は美咲にダンスを申し込んだ。
「麗しき姫君、一曲踊っていただけませんか?」「あのえっと、わたし服を・・・」
俯きそう口ごもるも、母さんが人差し指をクルクルッと回すや、美咲の服が空色のドレスに変わった。「母さんありがとう、大好き!」 美咲は母さんの胸に飛び込んだのち、分身俺に淑女の礼をする。そして分身俺と美咲は、空中を飛びながらダンスを始めた。長期休暇の締めくくりに俺と美雪はいつもダンスを踊っていたから、分身俺と美咲の息もピッタリだ。盛り上げ役を今年もこなしてくれた美咲へのお礼も兼ね、分身俺に「妹をヨロシク」と俺は伝えた。
その後は母さんと、歌合わせの日について話した。女組に歌を教える意図を正確に汲み取った俺に母さんは謝意を述べてくれたけど、感謝するのは俺の方なのである。「翔らしいわね」と微笑まれたので素直に「母さんの息子ですから」と応えたのは、間違っていたのか? 間違ってはいずとも油断した、が正解のようだ。母さんは酔った振りをして、
「キャ~翔~~!」
と散々絡んで来たんだよね。ウザいけど、それを顔に出したらとんでもない事になる。年に一度の親孝行と諦め、酔っぱらいの介抱を俺はきっちりこなした。
そうこうするうち、大満足した美咲が帰ってきた。「母さん、ドレスをありがとう。私は元に戻ります」 カーテシーし服を秘書服に戻した美咲を、母さんは抱きしめる。そして「後はお願いね」と告げ、美雪と冴子ちゃんを膝枕したまま消えていった。
美咲が母さんの消えた場所を見つめている。その横顔に大人の表情を初めて感じて、俺は巨大な喪失感に抗うべく胸を手で押さえた。この表情をするようになった小学校高学年の姪は、今までどおり可愛がれない大人の女性にすぐなってしまう。抱く愛情は変わらないのに、接し方を変えねばならなくなるのだ。それは喜ばしいことだと頭では分かっていても、巨大な喪失感に耐えるべく胸を押さえずにはいられない事だったのである。
「お兄ちゃん大丈夫?」「前世を思い出して少し感傷的になっちゃったよ。もう大丈夫、心配かけちゃったね」「そうよお兄ちゃんたら、心配したんだからね!」
俺の眼前に急いで飛んできて、美咲はお叱りモードになった。そんな美咲に、俺はヘイコラ謝る。よく分からないが美咲はヘイコラ俺に留飲を下げたらしく、上機嫌で空中に浮いている。自然と頬が緩んだ俺に負けじとニコニコしてから、
「それでは変身します。エ~~イ!」
美咲はそう言ってクルクル回り出した。魔法少女の変身シーンよろしく、輝く白光が美咲を包んでいく。この場面専用の曲をグリッサンドを駆使したハープで作曲してあげたいな、なんて兄バカなことを本気で考えていた俺をよそに、白光が収束を開始する。一年に一度しか会えないのだから変身シーンと登場シーンを兼ねる豪華絢爛な曲を絶対作曲してみせるぞ、というバカ以外の何者でもない一大決心が筒抜けになっているはずなのに、
「翔、お久しぶり」
完全無欠の大人の女性の笑みで、希は俺に挨拶したのだった。




