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その、約二時間後。
わかっていたけど同映画は、三人娘に大絶賛された。いやひょっとすると絶賛振りは三人娘の方が高かったかもしれず、内緒だがそれは三人娘が、
母さんの創った量子AⅠだから
と俺には思えてならなかった。もちろんこれには、母さんが宇宙屈指の量子AⅠ開発者であることも関係している。けどそれは、一番の理由では決してない。「母さんの歌唱力を三人娘が受け継いでいるように、母さんの恋愛観も三人娘は受け継いでいる」 これが一番の理由だと、俺には思えてならなかったのである。
言うまでもなく、それは俺にとってナンマイダ~級に嬉しいことだった。されて嫌なことを人にするな、の原則を順守するなら母さんにナンマイダ~をするのは御法度でも、全高200メートルの像を二体造られて喜ぶ元王女様の筆頭大聖者なのだから、御法度ではないのである。まあそれは脇に置いて話を戻すと、同映画への絶賛度は女組より三人娘の方が高かったと俺には感じられた。息継ぎを忘れているかの如く映画の感想を語り合う三人娘の姿に、俺は喜びを深く噛みしめていた。
突然だが俺には、考えねばならぬことや考えるだけで楽しいことが山ほどある。例を挙げたら切りがないので端折るとして何が言いたいかというと、考えねばならぬことや考えるだけで楽しいことに思いを馳せていれば、俺は数時間を余裕で過ごせるということ。今もそれをしていたので待たされた系の感覚など微塵もなかったのに、
「翔、待たせちゃってゴメンなさい」「待たせて悪かったわ翔」「お兄ちゃん、一人で寂しかったよねゴメンナサイ!」
三人娘に謝られてしまったのである。繰り返すが待たされたなんて一切思わないので美雪と冴子ちゃんには「全然そんなことないよ」と返せても、美咲の「寂しかったよね」にそう返すのは悪手。「美咲は優しいな」と俺は美咲の頭を撫でた。美咲はよほど嬉しいのか俺の周囲をビュンビュン飛んだのち、素晴らしい映画に出会えたことの感謝を俺に述べた。美雪と冴子ちゃんもそれに続き、「気に入ってくれたなら何より」と俺は答える。次いで三人娘に「特別気に入った場面はどこかな?」と訪ねたところ、娘達は一つには到底絞れないと前置きした上で、別角度の返答をした。
「前の映画のように」「この映画でも歌を歌えたら」「とっても嬉しいな!」
一見これは返答ではなく要望に思えるが、俺達の間ではれっきとした返答として通用する。映画を見ることは受動的行為なのに対し、映画の歌を歌うことは能動的行為に分類される。たとえば三人娘はトト〇が大好きだから「特別気に入った場面はどこ?」という受動的行為を問われると一つに絞れず返答に窮するが、能動的行為なら声を揃えて即答できるのである。「「「三人で歌を歌ったのが特別気に入った!」」」と。
ありがたいことに三人娘は「耳をすませ〇」も大好きになった。そして嬉しいことにこの映画にも、カントリーロー〇というとても素敵な歌がある。よってその歌を一緒に歌ったら最もお気に入りの能動的行為になるはずと、三人娘は答えたということ。俺達の絆があればこの程度のことは、瞬時に理解できるんだね。
だが一見これは、頭を抱える事態に思える。なぜなら女組が母さんの指導のもと、カントリーロー〇を歌う練習を既に始めているからだ。したがって普通なら断腸の思いでそれは不可能ということを三人娘に告げねばならぬのだけど、実はそんなこと無いんだよね。俺がそれに気づいたのは、母さんの歌の授業を見学している時だったな。
母さんが歌を教えている女組に歌の才能のある者はなく、歌を学んだことのある者もなく、音痴等のマイナススタートの者もいなかった。つまり女組は、まっさらかつ横並びの状態で母さんに歌を教わっているということ。母さんは非常に慕われていてカリスマ性もあり、また教え方もとても巧いから、女組は母さんの歌の技術をみるみる習得している。そんな女組に、美雪と冴子ちゃんと美咲という母さんの歌の技術を受け継いだ者が加わり、一緒に歌を歌ったらどうなるのか?
「息ピッタリ!」「歌いやすい!」「「「「合唱って楽しい!」」」」
と皆すぐ感じるって、俺は思うんだよね。俺如きですらそう思うのだから、母さんは最初からそれを目指していたと考えるべきだろう。辻褄もすべて合うしさ。
という俺の頭の中にあるアレコレを、美雪と冴子ちゃんと美咲にそのまま伝えることはできない。特に「三人娘が母さんの歌の技術を受け継いでいる」という箇所は、慎重を期さねばならぬ。母さんは量子AⅠの美雪達をそうプログラムしたなどと、俺は一瞬たりとも思ってはならないのだ。俺の頭の中は、美雪達に筒抜けだからさ。
幸い筒抜け防止策の習得は順調だし、母さんも手伝ってくれるはず。美雪達を悲しませまいと、俺は努力しているんだからね。何となく「任せなさい」と母さんも言っている気がするし、それを信じて挑戦しますか!
と腹を決めて美雪と冴子ちゃんと美咲に話したところ、
「「「母さんありがとう!」」」
三人娘は母さんに抱き着いた。そんな娘達に母さんは「あなた達とあの子たちの『歌合わせの日』が私も楽しみだわ」と満面の笑みで語り掛ける。いやはや、歌合わせの日とはおそれいった。その一言で、今回の件のすべてが丸く収まるからである。歌合わせの日の話題にキャッキャする母親と娘達を目じりを下げまくって見つめつつ、母さんってホント凄いなあと、俺はつくづく思ったのだった。




