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御存じのとおり、同映画のカントリーロー〇は二種類ある。一つは主人公の月〇雫が地球屋で歌うカントリーロー〇、もう一つはプロの歌手の歌うカントリーロー〇だ。前者は主人公の奏が歌うので問題ないが、後者は問題。なんてったって、プロの歌手の代わりを務めるんだからね。楽器なら全員がプロ級になっていても、歌はその限りではない。そうつまり主題歌を誰が担当するか問題は「私よ!」「いいえ私よ!」という戦いではなく、「わたし自信ない」「私だってないよ」「どうすればいいの」という苦悩だったのである。
けど幸い、これには快刀乱麻を断つレベルの解決策があった。母さんに、歌ってもらえば良かったんだね。母さんならテレパシーどころか、竜語も完璧だろうしさ。
と思っていたけど、それは大外れだった。皆に内緒で母さんに「にっちもさっちもいかなくなったら頼んでいいですか?」と訊いたところ、「ダメに決まってるじゃない」と返されてしまったのだ。改めて考えたらそのとおりで、自分達でまだ何もしていないのに母さんが了承するなどあり得なかったのである。俺は母さんに詫び、まずは自分達で努力することを約束した。ありがたいことに母さんは機嫌よく頷いてくれて、するとそれだけで嬉しくなるのがマザコン男というもの。普段ならそんな自分に落ち込むのがお約束なのに、苦悩しているのは女組全員だったからか、ある閃きが脳裏を駆けてくれた。俺は背筋を伸ばし、それを口にする。
「母さん」「どうしたの?」「主題歌をテレパシーで吹き替える女組7人の歌の先生なら、引き受けてくれますか?」「もちろんよ、喜んで引き受けるわ」「ヨッシャ―――ッ!」
という母さんとのやり取りを女組に伝えたところ、7人全員が飛び上がって喜んだ。こうして母さんを先生として招いた歌の授業が、始まったのだった。
母さんの歌の授業という表現は、間違っていない。たとえ主題歌をテレパシーに吹き替える作業でも、歌を歌うことを母さんは要求したのだ。言われてみれば、それで当たり前だった。歌を高品質に歌えるからこそ、それを高品質のテレパシーに出来るのである。母さんの歌の授業を見学した俺は、唸らざるを得なかった。「当たり前のことほど奥が深く、そして当たり前のことほどその奥深さに気づかないという言葉は、真実だよなあ」と。
母さんの歌の授業は、いつもスペースコロニーで開かれた。ただ場所は毎回異なり、よって見学するには事前に許可をもらう必要があった。母さんを先生として招いた歌の授業を見学する機会を逃す者が、男組にいるだろうか? そうそんな者など、某ダメ男を除き一人もいないのである。男組は某ダメ男を除き、見学率100%を達成したのだった(言うまでもなく某は俺だけど、それはその時が来たらってことで)。
母さんの先生としての振る舞いはまこと勉強になり、様々な霊験をもたらしてくれた。だが俺の得た霊験は、仲間達より格段に少なかった。それもそのはず、母さんの生徒になったことがあったのは俺だけだからね。女組が生徒になったので守秘義務は緩くなったけど男組はまだなこともあり、変わらぬ厳格さで守秘義務を貫くことにしている。
偶然なのか必然なのか、女組に歌の才能のある者はいなかった。しかし音痴も、リズム感のない者も、音域の狭すぎる者もおらず、それについては必然と俺には思えてならなかった。また当たり前と言えばそれまでだけど、歌の先生としても母さんは超絶優秀だった。加えて母さんには歌の女神としか思えない歌唱力があったため、女組は歌がみるみる巧くなっていった。う~むやはり、必然臭がプンプンするな。
繰り返しになるが、母さんの歌唱力は歌の女神としか思えないレベルだった。ただその衝撃は仲間内で俺が最も少なく、理由は美雪にあった。母さんの歌の後継者がいるなら、それは間違いなく美雪だったからである。美雪の歌を何千回と聴いてきた俺は、宇宙規模の幸せ者だったんだな。
またそれ故に、俺だけが気づいたこともあった。それについては7月中旬まで、時間を遡らねばならぬだろう。
名家巡りをまだ始めていない、7月中旬。
冴子ちゃんを招き、第二回映画鑑賞会を基地で開いた。やって来た冴子ちゃんは非常に喜んでいて、心労に押しつぶされそうになっていたかつての気配はなかったけど、油断は禁物。俺は心を込めて冴子ちゃんをもてなした。俺達の仲なので冴子ちゃんは俺の意を十全に汲み、「ありがとう翔」と耳元で言ってくれたのがホント嬉しかったな。
第二回映画鑑賞会には母さんも出席してくれた。前回に続き今回も、母さんだけは二度目の視聴だったが、それを残念に思っている節は俺の見たところなかった。むしろ、
「今日の映画はなんと、恋愛映画よ!」「「「やった、バンザ~~イ!!」」」
のように、ネタバラシが出来ることを喜んでいる節があったんだよね。また恋愛映画というだけで女性は胸がキュンキュンするらしく、母さんと三人娘は映画を見る前から盛んにキャッキャしていた。誇張ではなく、宇宙レベルの眼福だったな!
前回同様今回も俺は執事服に着替え、女性達をもてなしたり映画の準備をしたりした。準備を前もってしなかったのは、並行世界のハーレム俺の助言。まずは女性達をテーブルに招きお茶とお菓子を振る舞い、お喋りを楽しんでもらう。その間に準備をし、整ったら女性達を映画館に案内する方が受けは良いはずと、ハーレム俺は言ったんだね。納得できたのでそれに従ったところ、正解だったらしい。映画を上映すべく照明を落とすさいチラ見したら、女性達はまこと上機嫌な表情をしていたのである。並行世界の俺に感謝し、俺は「耳をすませ〇」の再生アイコンに触れた。




