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 そうこうするうちお待ちかねの、「次のサプライズ用の映画試写会」を始める時間になった。達也さんと裕也さんを筆頭とする酔っぱらい共が、心身からアルコールを抜いていく。準四次元では、酔っぱらうことも酔いを覚ますことも思いのままなんだね。これを逆手に取り、物質的快楽を満たすためだけに準四次元を利用すると、非常に質の悪い悪果を背負うことになってしまう。黒化組織が人々を闇落ちさせる常套手段の一つのそれに、どうか引っ掛かりませんように。

 ちなみに酔っぱらっていないたった一人の俺は皆がアルコールを抜いている最中、会場設営に勤しんでいた。このスペースコロニー内に映画館を創るのは、実は意外と難しい。この場所を皆がすこぶる気に入ってくれているのは心底ありがたいけど、気に入るあまり「コロニーの気配を損なうことなく映画を楽しみたい」と、みんな俺に要求してきたのだ。映画館創りで個人的に最重視しているのは、ずばり音響。スクリーンに映っていない場所の気配を観客に最も伝えてくるのは、音だからだね。それは優れた音響があってこそであり、そのためには観客席を箱で密閉するのが最善なのに、「コロニーの気配を損なうことなく映画を楽しみたい」という皆の要望のせいで密閉不可能になったのである。白状すると皆の要望を叶えるべく、アトランティスの技術を駆使した非密閉型映画館の勉強を、俺は100時間以上せねばならなかった。

 でも勉強した甲斐あって、自信作と断言できる映画館を創ることが出来た。ヘタレ性格ゆえにそれを皆に言えなくとも、俺は大満足。なぜならこれから皆に見てもらう映画、


  耳をすませ〇


 は俺にとって、特別な映画だったからだ。

 同映画が公開されたのは社会人三年目の、1995年の夏だった。当時の新入社員は三年で一人前になるよう教育され、前世の俺が地球を去ったころと比較すると凄まじいスパルタ教育だったこともあり、正直言うと俺は挫ける寸前になっていた。でも孤児院出身の弟や妹たちの保証人になるためには、会社を辞める訳にはいかない。俺はお盆休みを泥のように眠り続け、そして迎えた最終日。真夏の日差しに元気づけられアパートを後にするも、外出先で心労が蘇り動きたくなくなってしまった。街中に蹲り、快適な椅子のある場所を探していた俺の目に、映画館が映った。バブルの余韻冷めやらぬ時期に新しく建てられたその映画館は椅子も豪華だったことを思い出し、2時間快適に座るためだけに足を向けた。すると思いがけずジブ〇映画が上映されていたが、鬱になっていたこともあり心をいささかも動かさず機械的にチケットを買いシートに腰を下ろした。だがその2時間後、活力みなぎる若々しい心を俺は取り戻していた。それは偏に、「耳をすませ〇」のお陰だったのである。

 主人公を含む同映画の登場人物達に、自分を重ねられる人はいなかった。小学校ほどではないにせよ中学も悲惨だったし、大学時代は楽しかったが主人公のお姉さんの気質は俺と似ても似つかなかったし、親のいない俺に親世代はピンとこなかったし、お爺さんのような素晴らしい人間では俺はなかったからだ(同年秋に放送され共感しまくったエヴ〇のシン〇君とは大違いだな)。けど自分を重ねられる云々は、この映画に一切関係なかった。夜の街並みを描いた冒頭部分で一気に引き込まれ、バロンの登場する小説の描写に舌を巻き、突然の音楽セッションに身を躍らせ、お爺さんの回想場面に大泣きし、最後の「大好きだ!」に甘酸っぱさを胸一杯に感じたのだ。もちろんこれらの場面以外も、どの一瞬を切り取っても全体を俯瞰しても完璧の一言に尽きた。「最も不当な低評価をされている映画は?」と問われたら、俺は胸を張って「耳をすませ〇」と答えるのである。

 といってもこれらは、俺個人の感想にすぎない。俺以外でこの映画を見ている勇は絶賛し翼さんは大絶賛していたから大丈夫と思うけど、皆はどうなのだろう? 仮に不評だったら「天空の城ラピュ〇」を見てもらうつもりだけど、あの作品には泥棒や戦争が登場するんだよね。まったく異なる社会で暮らしている竜族には、難しいんじゃないかな・・・

 けどまあそれは、2時間後に考えればいいこと。全員席に着いたようだし、試写会をそろそろ始めますか。

 とその前に、隣に座っている母さんとその隣の翼さんに、準備OKかを目で問うてみる。こういうのを疎かにすると母さんは非常にメンドクサクなるし、翼さんは陰でこっそり悲しむはずだからだ。それは置き目で問うた俺に、二人は揃ってくっきり頷いた。頷くのはピッタリ揃っていたけど気配は若干違っていて、なんとなく母さんに普段よりキャピキャピしている気配を感じるのは、なぜなのかな? 声優の配役絡みで女組には裏取引があったから、中学生の少年少女の恋愛を柱の一つとする映画だと翼さんに聞いているのだろうか? それくらいの情報は伝えていても全然かまわないし、これも後回しにしよう。

 母さんと翼さんに続き、全員にテレパシーで準備OKか問うてみる。OKのテレパシーが全員から返ってきた。その中にキャピキャピが6つあり、それは隣の2人を除く女組の人数と同じだから、恋愛の絡む映画という情報が流れていると考えて間違いないだろう。

 どうかこの映画が、女性達の希望に沿いますように。

 そう祈りつつ、映写機の再生アイコンに俺は触れたのだった。


 その、約2時間後。

 映画館の中を、黄色い歓声が飛び交っていた。早朝に天沢聖〇君が訪ねてきたのを月島〇さんが感じ取り自転車で2人乗りをする場面から、女性達はキュンキュンを我慢できなくなっていたのである。しかもその後プロポーズと、初々しい「大好きだ!」があったとくれば、今の状態になって当然なのだろうな。

 ふと思ったのだけど、仮に俺が音響を最優先し密閉型の映画館を創ったとしても、男組の感想は変わらなかっただろうか? 映画終了後、極めて高品質の非常に楽しめる映画だったと男組の全員が俺にテレパシーを送ってくれた。準四次元のテレパシーゆえ、それが本音なのは理屈抜きで伝わってきた。よってそれは微塵も疑っていないが、音響のいい密閉型にしたせいで映画館内に「黄色い歓声が耳に痛いほど響いていた」ら、どうなっていたのか? 恐ろしくて、その先を考察できないヘタレな俺だった。

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