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 次いで翼さんは、農業の説明に移った。隣家のお婆さんが育てるトウモロコシは、この映画を理解するために不可欠の要素だからね。またトウモロコシ栽培と果樹園は同じ農業として地球で認識されていると翼さんが説明したところ、竜達は一斉に背筋を伸ばした。お婆さんが老いに負けずトウモロコシを愛情たっぷり育てていく崇高さを、どうか竜族が感じ取ってくれますように。

 俺と翼さんの2人が壇上にいるのは、これで終わり。舞ちゃんと奏が加わり、地球人の学校と病院について4人で説明した。学校は、竜族も難なく理解した。この島の幼稚園以外は映画同様、自宅から通うタイプだからだ。しかし病院は、そうはいかなかった。竜族にとって命に係わる病気は低体温症のたった一つでも、地球人には命に係わる病気が無数にあることから、舞ちゃんと奏は丁寧に説明していった。


「命に係わる病気が無数にあるため、『医学』という学問及び技術が地球では発達しました」「その医学を最高の環境で行うための専門の建物を、地球人は地域ごとに建てています」「それが、病院です」「軽い病気なら、家から病院に通います」「しかし重い病気では治療を集中的に受けられるよう、病院で寝泊まりせねばなりません」「主人公の姉妹の母親は、病院で寝泊まりしなければならない、重い病気にかかっています」「母親が病気になっただけでも心配なのに、遠く離れて暮らすことを姉妹は強いられているのです」「しかも地球人にテレパシー能力はありませんから、母親と会話できないどころか」「母親の病気が改善に向かっているのか悪化に向かっているかも、姉妹には分からないのです」


 舞ちゃんと奏の説明を聴いているだけで涙を零す竜族が続出した。二人は声を詰まらせるも、説明を続けていく。俺と翼さんは竜族と妖精族の理解を促すべく、適切な映像を輝力で次々創っていった。その中の一つに、電話があった。映画に出てくるものと同じその電話を、翼さんが映画と同じように操作する。その様子を舞ちゃんと奏が解説することで、映画の場面を理解しやすくする。そんなことを、俺達4人は懸命にしていった。

 ちなみに俺は農業の説明時、鍬(くわ)で畑を耕す等の農作業を壇上でした。竜族の食いつきは半端なく、また翼さんの説明が面白かったこともあり、やたらウケていたな。

 話を戻そう。

 舞ちゃんと奏による学校と病院の説明が終わった。必要なことだったとはいえ、暗く重い空気が観客席を覆ってしまっている。しかし案ずるなかれ、それは予想していた事だったのだ。舞ちゃんと奏は予め決めていたとおり、明るい声で皆に語りかけた。


「皆さん、病気を患っている母親の身になって考えてください」「母親は娘達のためにも、病気を治すべく頑張っています」「娘達がお見舞いに来たときは明るく接し、心は病気に負けていないことを娘達に見せています」「母親の自分が病気になったせいで、娘達に暗く悲しい日々を送ってほしくない」「ならば、まずは自分が明るく前向きに振る舞わねば」「そう決意し、そのとおりに生きているのです」「そんな母親をお見舞いで見た娘達も、明るく前向きに日々を過ごすことに決めました」「母親の願いを叶えたいと、心から思ったのです」「ですから皆さんも明るく前向きな気持ちで」「今から始まる映像作品を見てくださいますように」「ちなみに登場人物達のテレパシーは、私達が吹き込みました」「楽しく吹き込みましたから、皆さんも楽しんでくださいね」「「それでは、始まり始まり~」」


 ヒュ~ヒュ~系の歓声と拍手が一斉に立ち上った。俺達はお辞儀し、演壇を降りる。降りながら俺は幼稚園を、輝力製の巨大構造物で包んだ。日の光を遮り暗くしつつも風が幼稚園を自然と通過していくためには、全長1キロの構造物にする必要があったのである。風の妖精に換気を頼んだら、映画を楽しめなくなるかもしれないからね。

 またその構造物は、音響も考慮して設計した。とはいえそれは、過去のサプライズの全てでしてきたこと。1時間半の映画視聴を快適にすべく換気を取り入れたことが、初めてだったんだね。

 そうそう快適な映画視聴といえば、トイレは夕食会直前に済ませてもらっている。再度もよおしたら、サプライズが始まる前になるべく済ませるよう協力を要請した。竜族は体が大きいので、子竜も含めて人より遥かに長くおしっこを我慢できるそうだけどさ。

 などと考えているうち、自分の席に着いた。俺は分身を三体出し四方へ呼びかけられるようにしてから、声を張り上げた。


「では、会場を暗くしま~~す!」


 周囲が少しずつ暗くなっていく。たったそれだけでみんな盛り上がり、暗闇に包まれると同時に騒ぎはピークに達するも、スクリーン中央に煌めく白銀光が現れるやまったき静寂が会場に降りた。皆の視線を集めた白銀光が、急拡大してスクリーンを覆う。そしてその光が薄まるにつれ、緑豊かな狭山丘陵が代わりに浮かび上がってきたのだった。


 となりのトト〇との出会いは、竜族にとって幸運だったのか?

 竜族の精神と危険なほど同調するのに竜族の存在していない社会を描いた作品が、竜族にとって初めての映画になったのは、はたして幸運だったのか?

 遠い未来、竜族に映画評論家が現れ数百年経ったら、このような議論が真剣になされるのではないか? 俺はトト〇を見つつ、本気でそう考えていた。

 真に画期的な作品は時代をその作品の色に染め上げ、一時的ではあるが創造の妨害者になる。その作品の影響を受けた作品しか、誕生しなくなるのだ。前世の俺はそのような現象を、多種多様な分野で目の当たりにした。またそれらの分野には、科学も含まれていた。「地球人が石油依存の社会を構築してから脱却するまでに、いったい何百年を要するのか」 これも、真に画期的なモノが一時的な創造の妨害者になる例だね。

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