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この島まで泳いできて疲れていることもあり、今日の見学は反重力板に乗って移動してもらった。親竜達が空を飛ぶのは、今日が初めてのこと。反重力板には子竜も乗り家族単位で移動してもらったから、こちらもガオガオキュルキュルまこと賑やかだったな。
今日は時間がなく、見学は和紙を幼稚園で見ることと、竈を見に行くことの二つのみとなった。でもこの二つだけに絞ったのは、正解だったらしい。四つ足動物の竜にとって、火を起こすのは村総出で挑まねば不可能なこと。それでも火は低体温症の唯一の対抗手段なため、神聖視とはではいかずとも、竜族は火に特別な想いを抱いていた。その火を道具として利用し、
純白の和紙
を作ることは、親竜達の感情を激しく揺さぶったようなのである。竜族にとって白は、特別な色。白い鱗に覆われた愛らしい我が子を持つ親にとっては、格別な色と言えよう。その白に酷似したキラキラ輝く和紙は火によって作られ、そしてそのために欠くべからざる竈を、親竜達は目の当たりにした。しかも竈を造ったのも竜族だったとくれば、感情を激しく揺さぶられたのも頷ける。見学時間が2時間弱しかなかったこともあり、竈を見て灰の匂いを嗅いだだけで、竜達は幼稚園へ帰って行ったのだった(ちなみに火の付け方は、輝力工芸スキルで巨大なレンズを創り太陽光を集める方法を採用している)。
その、約5時間後。
昼食と昼寝を経た、午後5時。
食事会の一夜目が始まった。
今夜予定されているのは、子竜の歌とダンス、成竜の演劇、子竜の演劇の三演目だ。演劇は子竜と成竜の区別なく、『総合芸術』を合言葉に新しく創られた。初めての試みゆえ完成には遠くとも、練習を見た限り大いに期待できると俺は感じていた。成竜は楽器の演奏と大道具小道具はまだ至らずともそれ以外は竜族トップの高品質だし、子竜は成竜に及ばぬ所はあれど楽器の演奏と大道具小道具は竜族トップの高品質だったからだ。今後の課題は多々あるにせよ、練習を5カ月間見てきた俺の目に、両者はまごうことなき総合芸術として映った。それが俺の、本音だったのである。
しかし最初の演目である子竜達の歌とダンスが始まるや、俺は自分の間違いに気づいた。演劇のみならず歌とダンスも、驚くべき進化を遂げていたのだ。ミュージカルの一場面を見ているとしか、俺は思えなかったんだね。
突然だがアニメオタクだった前世の俺は「一番好きなアニメは何?」と問われても、答えられなかった。頂点を形成するアニメが数十あり、一つに絞れなかったのである。けどアニメより熱量の低かった映画なら、一番好きな映画は〇〇と答えることが出来た。その〇〇は、ウエストサイドストーリ〇。高校生のときレンタルビデオ屋で借りて見たウエストサイドストー〇ーを超える映画に、俺は生涯出会えなかったんだね。前世の俺はミュージカル映画と相性が非常に良かったのだろう、オペラ座の怪〇や踊るマハラ〇ャも、好きで好きで堪らなかったな。
そんな俺にとって、子竜達が今披露している器楽曲付きの歌とダンスは、子供達の演じるミュージカルに思えた。子供ゆえ技術は拙くとも、「ミュージカル文化が確立している社会で子供達がミュージカルを懸命に演じている」としか、俺には思えなかったのである。おそらくその最大の理由は、竜族の歌にあると俺は考えている。
文字を持たない竜族は、歌詞で社会と文化を継承していく。その竜族が、最初期の必須教育として園児達のために選んだ歌には、物語性の強いものが多い。竜族独自の精神を物語に込め、歌詞として歌う歌が多いのだ。歌のメロディとダンスも物語を理解しやすくするために創られているから、子竜達の歌とダンスには、聴衆の心を揺さぶる強い力が元々あった。それに器楽曲を加えたところ、ミュージカル中の重要な節目に披露される歌とダンスを彷彿とさせるものになった。かくなる理由により、子竜達が今披露している器楽曲付きの歌とダンスを、子供達の演じるミュージカルとして俺は感じとった。たぶんこれで、合っているんじゃないかな。
などと分割した意識で考察しているうち、最初の演目が終わった。聴衆の誰もが、子竜達に拍手と歓声を惜しみなく捧げている。その拍手と歓声は、鈴桃を始めとする器楽曲組が演壇の子竜達に加わったさい最高潮を迎えた。ピアノとチェロとトロンボーンを一頭ずつが担当したとは到底思えない素晴らしい演奏だったから、まあ当然だね。当然はもう一つあり、それは子竜達の器楽曲を作曲した昇を男組がくすぐりまくったこと。クラシック好きの元地球人として断言しよう。昇は世が世なら、地球を代表する大作曲家として歴史に名を刻んだに違いないと。
それは置き話を戻すと、演壇を降りた子竜達が俺達の方に駆けて来た。歌の先生の美雪と、ピアノの先生の翼さんと、チェロの先生の達也さんと、トロンボーンの先生の昇にお礼を言いに来たのだ。四人は子竜達を褒めちぎり、その様子を見守る俺達の胸をポカポカにした。う~む、子供の成長を助けてあげられる先生って、マジ偉大な職業だよな!
しばしの休憩を挟み、第二演目の成竜達の演劇が始まった。それは総合芸術の名に相応しい、芸術にまで高めた要素を複数持つ演劇だった。然るに終了時、聴衆の誰もかれもが惜しみない拍手と歓声を捧げたのは第一演目と同じだったが、異なることも一つあった。それは演壇の成竜達を笑顔で称えつつ、聴衆が滂沱の涙を流していたこと。演壇の成竜達の中には、約7カ月後に寿命を迎える老竜がいる。よってこの面子全員が一丸となって練習に打ち込めたのはこれが最後であり、かつ練習を十二分に発揮し最高の本番にしたとくれば、涙なくして称えるなど不可能だったのである。それは演壇の成竜達も同じだったけど、笑顔の量産数は演壇の成竜達の方が比較にならぬほど多かったな。




