悪意なき悪意⑦
全部屋を見て回った結果、空室だったのは二階の二室だけだった。
それ以外の部屋は同じような惨状だった。ただ救いとしては、他の部屋の人達はギリギリの状態の人がいたとはいえ、誰一人として死亡者はいなかった。
部屋の確認を終えた二人は、男が所持していた携帯で『彼女が暴行容疑にあったので、婦警を何人か寄越してほしい』という旨の電話をして、近くの民家の屋根で隠れるように待機し、婦警の到着を待ってから帰宅した。
「ご苦労だったな」
労いの言葉をかけた國枝は気味の悪いほど上機嫌で二人を出迎えた。
「なーるほど、そういうことか」
零は呆れたように息を吐いてから言葉を続けた。
「島田淳也はあなたにとって邪魔な存在だった。今回の事件は間違いなく公になる。そうすれば島田の過去の罪も明るみに出ることになる。法の外にいるとはいえ国民に知れ渡れば辞職するしかない」
「その通り」
「だとすれば畑中昇を殺した犯人だって言及されるはずだ。それについてはどう考えてるんですか? 俺達二人を引き渡しますか?」
「随分と肝が据わってるな。――だが最初に言ったはずだ。後処理はこちらで行うとな。想定より派手になってしまったが問題はない。あの近隣の半径一キロ圏内には動物園がある。そして先ほどライオンが檻から出てしまったらしい」
「随分と滅茶苦茶なことしますね」
「君たちほどではない」
零は軽く会釈して國枝の横を通り過ぎ、修哉もその後を追った。
「そうだ、任務は予定通り行われるが君たち二人は欠席して構わない」
後方から飛んできた声に一言、『ありがとうございます』と素っ気なく返した二人はそのまま昼食に向かった。
二人が食堂に着いたのは一二時過ぎ、当然のように他のWIZARDの姿はない。一時からの任務のためにとっくに食事を済ませたのだろう。二人は適当な椅子に腰かける。零が手を上げると『ただいま!』という声が跳ね返り、一人の給仕がやってきた。
二人の下に駆け足でやってきた人物の顔を認識すると、二人は少し意外そうな表情をした。彼女もまた給仕の一人なのだからこういった仕事をしても何らおかしくないのだが、もっと若い者が出てくるものだと思っていた。
「どうしますか?」
やってきた給仕長は心なしかいつもより声の張りも眼力の強さも弱く感じた。
「うどんで」
「俺はラーメン味噌味」
零と修哉は手早く注文を済ませる。いつものように栄養バランスの偏りだのと指摘をしてくるかと思ったがそんなことはなく、頭を下げて下がってしまった。その不思議な光景に二人は首を傾げるが詮索する意味もない、ただの気分だろう、そう結論付けた。




