悪意なき悪意①
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――ここは……どこだ……?
――ああ、そうか……いつもの部屋じゃないか。何を戸惑ったようにしてるんだ俺は。
いつもと同じ、何年間も住み慣れた部屋で目を覚ました零は手早く着替えて朝食に向かう。
食堂についたのはジャスト八時。そして寸分の遅れなく他の五人もやってきた。
いつものようにおはようと挨拶を交わして席に着く。自動的に料理は運ばれ六人はそれを食す。
ただ朝食の席にいるのは六人だけではない。零達の保護者である國枝も当然同席だ。
五人は横並びで一列に、國枝は六人の前に座っている。
「今日からは実戦形式に移ってもらう」
「実践?」
「ってなにするのさ」
修哉と佳奈が手を止めて首を傾げる。
「簡単なことだ。今までお前たちがやってきたことと何も変わらん」
「ここか」
國枝に示された場所についた零達は目の前にそびえ立っている三階建てのビルを前に軽く咳き込む。
まだ昼間だというのに全く人通りのないこの通り。周りにはくたびれた古い建造物が乱立している。そして零達が咳き込む理由となったのがこの事務所の奥に建っている工場のせいだ。
黒いスモッグを空に吐き出しているその工場のせいかこの付近に民家は一切見当たらない。
リムジンで優雅に揺られてきた零達にはここが茨城のどこか、ということまでは分かるがそれ以上のことはわからない。だがそんなことは知る必要もない。
「じゃあ行こっかー」
佳奈はまるで学校に行くかのようにその事務所の扉を開けた。
部屋は絨毯も何も敷かれておらず、コンクリートがむき出しのままだ。そしてその部屋には障害となるような遮蔽物が一切なく、あるのはエレベーターのみ。階段すら見当たらない。
そして、それ以外に視界に入った唯一の物体はエレベーターを待っている三人だ。スキンヘッドの男と角刈りの男。そして丸眼鏡をかけ、右のこめかみのあたりから頬までざっくりと斬れたような傷跡が残っている男だった。
「ああ⁉」
スキンヘッドの男は零達を見るやいきなりいきり立つように叫んで語気を荒げる。
「なんだてめえら⁉ ガキが来る場所じゃねえ‼ 帰れ‼」
来て早々帰宅命令を出されてしまったが零達は意に介さずそのまま部屋に足を踏み入れる。
「つまみ出せ」
丸眼鏡の男の言葉に威勢よく答えたスキンヘッドと角刈りは零達の方へ歩み寄る。零達も歩みを止めることがないので彼らの距離は一瞬で詰まり。
一瞬で事が終わった。
一歩前に出た修哉が軽やかに地を蹴って丸刈りの男の首に回し蹴りをお見舞いした。ゴキリという鈍い音が鳴ると同時にその男は首が曲がったまま倒れこんだ。そしてそれと同時に起こったのが零によるボディーブロー。角刈りの男が一瞬で吹っ飛ばされ壁にぶつかり口から血を吹き出して昏倒した。
「なっ……」
その光景に丸眼鏡の男が目を開いたのは一瞬だった。次の瞬間には彼の首と胴体は離れていた。その切断行為をするのに要した労力は華蓮が少し手を握っただけ。それだけで丸眼鏡の男の首の数センチ前からオーラが噴出したのだ。
そこでタイミングよくエレベーターが来たので零達はそちらに意識を向けるが、別の方向からした『グシャ』という音に反射的に首を動かしてそちらを向いた。
「こいつまだ生きてたわよ。ちゃんと確認してよね」
「え、ああ悪い。もう死んだかと思ってた」
グシャという音の正体は朱音が角刈りの男の頭を踏み潰した音だった。飛び散る脳液は床を汚すが、オーラで自分の足回りを囲っていた朱音は全く汚れていない。
六人が乗るには少し小さいエレベーター、設計的には大人四人用だろう。全員が乗れないわけではないが少し窮屈だ。六人はグッパで三人二チームの編成に分かれると、先に修哉、零、佳奈がエレベーターに乗って二階に向かった。
やはり、というか当然というべきか、降り立った先はヤニ臭い部屋だった。
先ほどの閑静な部屋とは違い、つぎはぎだらけのソファーや錆びれた用具入れ、バリケードのように設置されているパーテンションなどが目立った。
そして、先ほどいた怖いお兄さん達の仲間と見える人が二〇人ほど詰め寄せていた。
「なんだぁお前ら」
そのうちの一人が三人に気付き、怪訝な目を向けると、それに反応した他の男たちもこぞって品定めをするように凝視した。
「怖い目にあいたくなかったらさっさと帰んな」
奥の方から現れた巨体の男が一際鋭い眼力で三人を睨む。
「帰れって言われたって帰るんなら最初っから来てないんだよねー」
そんな射殺すような視線をひらりと躱して佳奈は飄々と返す。
「俺はガキには興味はねえが需要はある、泣き見る前に帰れ」
淡々と、しかし圧のある声で脅し、男は一歩足を踏み込む。
それだけでガキは腰を抜かして逃げかえる、そう思っていたのだろう。だが三人は怯む様子一つ見せずにその場に立ち尽くしている。恐怖のあまり、動けなくなったか? 男はそう思ったが、三人の行動に注視し、その意味に気付いたとき、思わず目を疑った。
(――こいつらまさか‼)
男が喉から掠れた声を引き出そうとした時、
「二一人だから一人七人な、一番速かった奴にビリの奴が今晩のプリンを進呈でどうだ?」
「いいよー」
「ん」
修哉の提案に佳奈と零が賛同した。
そこからは早かった。
一番近くにいた男が一歩、後退しようとした瞬間、その男の体は三つのパーツに別れた。
佳奈の回し蹴りが上半身と下半身を分断し、修哉の掌底が首を穿つ。頭と胴と足、三つの部位は真っ赤な結晶を撒き散らして随所に飛散する。
「今の佳奈のが早かったよね⁉」
「コンマの差で俺だろ‼」
二人がジャッジを求めようと、零に目を向けた時、
「ガァア……」
「ウッ……」
鈍い悲鳴が聞こえた。今まで零がいた場所にはその影すらなく、部屋の中央に移動していた零は既に二人の人間を鎮静したところだった。
「「あっ――‼」」
「これで俺の一歩リードな」
零は勝ち誇った笑みを浮かべ、二人を挑発する。




